莫大な借金財政に拍車をかけるアベノミクスは、本当に日本を豊かにするのか? 闇雲な経済成長至上主義に警鐘を鳴らし、里山に象徴される豊かな自然とコミュニティにスポットを当てた未来を提唱する、(株) 日本総合研究所・調査部主席研究員の藻谷浩介さんに聞いた。(聞き手・編集部 渡瀬義孝)

プロフィール▼藻谷浩介(もたに・こうすけ)
(株)日本総合研究所調査部・主席研究員。『デフレの正体』(角川One テーマ21)は50万部のベストセラー。今年7月、同じく角川One テーマ21より『里山資本主義』発刊(NHK 広島との共著)。他に集英社新書より『金融緩和の罠』(学者3名との共著)、学芸出版社より『経済成長がなければ幸せになれないのでしょうか』発売中。非常勤で(株)日本政策投資銀行地域企画部・特任顧問、NPO法人地域経営支援ネットワーク理事長。



<アベノミクスの効果は未だ不明>

◆マスコミは景気回復を煽っています

 アベノミクスの評価については、金融緩和の効果を疑わないリフレ論者の人、もう少し現実的に金融緩和ではなく公共投資に期待する人、そして、報じられる効果は近未来の需要の先食いに過ぎず、早晩反動が起きると考える人の三種類がいます。私は三番目です。

 実は昨年は、日銀の白川前総裁が当時過去最大の金融緩和を行った年でした。年平均のマネタリーベースは121兆円とバブル期の3倍、小泉政権の末期よりも10兆円も多かったのです。さらに民主党政権は、震災対応として公共投資もばら撒きました。その効果が出て、安倍政権発足前の秋から景気が回復局面に入り、年末から極端だった円高が是正されてきたのですが、現政権は「異次元の金融緩和」を掲げて、その傾向をさらに加速しようとしているわけです。

 しかしその後株価は、少々上昇した後で乱高下を繰り返すようになり、9月頭に東京オリンピック開催が決まっても、5月末の最高値を千円も割り込んだままです。GDPの成長や消費増加が報じられていますが、いずれもこれだけ公共投資をすればこの程度は当たり前というレベルです。

 首相は雇用を60万人増やしたと発言しましたが、団塊世代の最終退職によって自然体では40万人以上就業者が減っている今年、そうは問屋が卸していないでしょう。失業率が下がったことから逆算したのかもしれませんが、定年退職者の多くはハローワークに行かず失業者にはカウントされないので、実際には失業率も就業者数も同時に下がっていると思われます。

 しかしテレビや新聞は広告料収入が少しでも増えないものかと、本当は難しいと思いつつも「アベノミクスの効果だ」「オリンピックでバラ色だ」と報道し、必死に消費を煽っているわけです。確かにこの夏の百貨店の売上は、猛暑もあって少々伸びたのですが、エコポイント制度による家電需要の一時的な伸びが終了後に反動減を生みメーカーの苦境を招いたように、煽ってもミニバブルが生じるだけで、消費税増税後には大きな反動減が来るというのが、良識あるエコノミストたちの懸念です。

<日本の借金は戦中と同じレベルに>

◆団塊世代が退職時期を迎え現役世代の減少が進んでいます

 団塊世代が加齢することによる高齢者の増加と、現役世代の減少と、人口の世界では2つの問題が景気と無関係に進行しています。団塊世代は平均4人兄弟姉妹ですが、今の新規学卒者は平均1・5人兄弟姉妹です。その結果として、景気が良くなろうとも就業人口は減るのが日本の運命です。

 これに対してリフレ論者は、現役世代の人口が増えようが減ろうか景気が良くなれば雇用が増え、賃金が上昇すると主張しているのですが、これは人口構造の変化を度外視した米国製の経済モデルの計算結果を語っているだけです。就業者数の総数が減っている日本では、少々の賃金上昇の効果は打ち消されてしまい、なかなか消費が増えません。

 私はこうしたリフレ信仰は「マヤの雨乞い」に似ていると言っています。古代マヤ文明ははるか彼方の宇宙まで解析する天文学を持ちながら、「雨乞いをすれば雨が降る」という信仰に囚われて、生贄まで捧げていた。あれだけの土木技術があれば灌漑用水網を引けば良かったのに、全精力を雨乞いのためのピラミッド建設に投じ、ヨーロッパ人到来の前に滅びてしまった。

 現代のマネタリスト経済学も同じです。雨乞い(=金融緩和)と実際の降雨(=景気)の相関関係の実証的な分析を怠って、「もっと急速に大量に行えば必ず効果がある」と言い続けるばかりです。マヤの神官が「もっと高いピラミッドを、もっと多くの生贄を」と言ったようなものです。

 生産年齢人口(15~64歳)が減り始め就業者数が連動して減り始めた96年以降20年近く、バブル期の3倍までマネタリーベースを増やしたにもかかわらず消費もGDPも増えていないわけですから、就業者数の減る日本では、雨乞いで雨は降らないとそろそろ自覚すべきなのです。

 それでも公共投資で無理に景気を引っ張ろうとしてきた結果、現在の日本の対GDP費の借金残高は2倍以上で、第二次世界大戦中と同じレベルです。しかも大戦中に莫大なお金で大和や武蔵などの巨大戦艦を建造しても戦争に勝てなかったのと同様、現在も現役世代向けのインフラの供給を増やし続けるという間違った方向にお金を使っています。

 戦前の国債乱発は敗戦後のハイパーインフレにハードランニングしましたが、現在もこのまま行けば同じ道を辿る危険が増すばかりです。

※これに続く内容
 <人口減少をチャンスに変えるには>
 <お金より大切なものがある>
 <憲法で脱原発を掲げた森林国>
 
(続きは本誌1339号でお読みください)

 

One Response to マネーに依存しないサブシステムを持っていますか? 地方の里山は持続可能な社会のヒントで満ち溢れている (株) 日本総合研究所・藻谷浩介さん

  1. 「マネーに依存しないサブシステムを持っていますか? 地方の里山は持続可能な社会のヒントで満ち溢れている」
    今日拝見してちょっとびっくりしました。「里山資本主義」なのかは分かりませんが、私たちが神奈川県で計画している四季・次世代自立型農園都市「ムラ」は、とても似ているのではないかな?と。つまりこの計画の基本がマネーに余り依存しない事を前提にしているからです。何か恊働関係が築けるように思います。取りあえずご連絡申し上げます。

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