3・11後にいち早く脱原発を決定したドイツ。ライプツィヒ大学東アジア研究所教授の小林敏明さんに、ドイツから見た日本社会について、脱原発や右傾化の問題に焦点を絞って話を聞いた。 (聞き手=本誌編集部 渡瀬義孝)

プロフィール▶小林敏明
1948年岐阜県生まれ。1996年ベルリン自由大学学位取得。ライプツィヒ大学教授資格取得を経て、現在ライプツィヒ大学東アジア研究所教授。専門は、哲学・精神病理学。近著は『廣松渉―近代の超克』(講談社)、『憂鬱な国/憂鬱な暴力』(以文社)、『フロイト講義〈死の欲動〉を読む』(せりか書房)など。



<違和感を覚える日本社会>

◆久しぶりの帰国です

 実は昨年3・11の震災の時東京にいて、あの大混乱を体験しました。東京は世界一とも言える超過密都市です。そこを地震が襲い、さらにチェルノブイリ級の原発事故が起き、最悪の場合には首都圏からも避難する必要があったかもしれない。そんななか、大きなスーツケースを引いて満員の電車に乗っていました。

 ドイツの航空会社ルフトハンザの機長は、原発事故を理由に日本への着陸を拒否して本国へ引き返しました。それほど深刻な事態だったにも関わらず、日本政府は重要な情報を隠し続けた。そして今なお、福島第一原発4号機の使用済み燃料プールが倒壊する危険を抱えています。

 ご存知の通り、ドイツでは福島原発事故を受けて脱原発が決定的となりました。メルケル首相は事故発生後すぐに老朽化した原発7基を3カ月停止し、全原発の安全検査を指示。高まる脱原発世論を背景に、ドイツ倫理委員会は2020年までに脱原発を実現すると決めたのです。

 メルケル首相の父親は牧師で、東西冷戦が始まったとき東ドイツへ家族ぐるみで赴任し布教した人です。そういうボランタリーな精神を彼女も引き継いでいるから、保守派と言っても日本の自民党などとはかなり違います。またキリスト教の倫理的バイアスも社会を支えている。

 そのドイツから日本を見ていると、本当に唖然とすることばかりです。例えば尖閣諸島問題でいたずらに中国との緊張を高めた石原都知事。ドイツでなら大問題になりかねないヘイトスピーチを連発するこの知事を、日本で一番インテリ層が集まっているだろうと考えられる首都の住民が何度も選んでいるのですからね。

 さらに政治的な問題だけでなく、日本に帰って来る度に社会全体が子どもじみていく気がします。思想的にはポスト構造主義ブーム以降その傾向が強まっているように思われるのですが、象徴的なのは日本のテレビ番組の酷さです。ドイツでもバラエティー番組はありますが、日本のテレビは朝から晩まで馬鹿みたいな話ではしゃぎまくって、しかもどのチャンネルも同じときていますから、ちょっと耐え難いですね。

<再び思想が問われる時代が>

◆日本の右傾化が顕著です

 石原都知事だけでなく、自民党総裁に安倍氏が再選されたりと、右翼ナショナリズムが台頭しているのは気がかりです。中国や韓国などアジアの隣国と友好関係を築いていくことは、今後の日本にとって極めて重大な問題なのに、どうも対立を煽りながらこれを利用して軍備拡張を狙っている人々がいる。イラク戦争以降、世界は新たな戦争の時代に直面しているのではと心配しています。

 言うまでもなく私たちは戦争の惨禍を繰り返してはいけません。そのためにはしかし、なぜ人間は戦争を繰り返すのか、その根本にまで遡って考える必要があるというのが、一貫した私の問題意識です。単純な平和主義では、戦争の問題は解決できないと思います。

 こうした私の問題意識の入口としてよく紹介するのが、有名なアインシュタインとフロイトの往復書簡です。第二次大戦前の1932年、20世紀を代表する二人のユダヤ系知識人の間に交されたこの公開の往復書簡では、もっぱら「人間を戦争という宿命から救い出す道があるのかどうか」が議論されました。

 ここで詳細を語ることはできませんが、アインシュタインは当時創設から十年を過ぎたばかりの脆弱な国際連盟の基盤を強化することに展望を見出そうとしていました。しかし彼は単に政治システムを整えれば問題が解決するとは考えていなかった。支配者のプロパガンダに簡単に乗せられ、大衆自らが戦争に動員されてしまうのはなぜかと問うのです。

 「答は唯一つしかありえません。人間の中には、憎悪と破壊の欲求が生きているということです。この性向は平常時は潜在し、非常時にのみ現われ出るのです。それはしかし、比較的容易に目覚めさせうるもので、しかも大衆的精神病Massenpsychoseにまで高められうるのです。ここに宿命的な複合効果総体の根本問題が潜んでいるように思えます。ここに人間の欲動についての偉大な識者のみが明かしうるポイントがあります」

 この一文にこそ、アインシュタインがフロイトに往復書簡を求めた最大の理由があります。

(続きは本誌1331号でお読みください)

 

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