原発立地地域の人々の生活をどうするのか? 原子力ムラをバッシングしても問題は解決しない 福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員・開沼博さんインタビュー
3・11以降かつてなく高まる脱原発の世論。一方多くの原発立地地域では、再稼働を求める声も根強い。このギャップをどう捉え、どう解決していくのか? 福島原発立地地域のフィールドワークを通じて問題提起を続ける福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員・開沼博さんに聞いた。(聞き手=渡瀬義孝)
プロフィール▼開沼博
1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞。著書に 『「フクシマ」論』(青土社) 『地方の論理』(同、佐藤栄佐久氏との共著)『「原発避難」論』(明石書店、山下祐介氏との共編著)他。
<「東電さん」と呼んできた地元住民>
◆昨年3・11福島原発事故をどう受け止めましたか?
私は福島県いわき市出身です。いわき市に住んでいた時には特に原発を意識したことはなかったのですが、2006年に初めて青森県・六ヶ所村核燃料再処理施設を訪れました。
訪問前は、「地元の人は原子力施設など嫌々受け容れているのではないか」「心の底では反対している人はいっぱいいるんじゃないか」と思い込んでいたんですが、実際は違いました。タクシーの運転手さんは「原燃が来て一つしかなかったタクシー会社が四つに増えた」と恩恵を語り、「東京の人は集会などに来るけれども、黙っていて欲しい」と訴えたのです。
これをきっかけに、私は福島原発立地地域の人の話を徹底的に聞く作業を行いました。その過程で100人以上の地元の人たちと出会い、顔見知りになりましたので、その人たちが被災者となりこれまでの生活が維持できなくなってしまったことにとても心が痛みました。「大変なことが起きてしまった」と。
ただ、立地地域の抱える本当の問題は、外側から、特に東京などの大都市圏に住む人からはなかなか見えにくいのです。震災前、福島のなかでも特に原発のある4つの町、双葉町、大熊町、楢葉町、富岡町では、「東京電力が来てくれたお陰で生活が豊かになった」と多くの人が感じていました。だからみんな「東電さん」と呼んでいましたが、その雰囲気は今も大きくは変わっていません。
「あれだけの大事故が起きて避難まで余儀なくされているのになんで?」と思うかもしれません。しかし、3・11以降これまでの原発を巡る主要な論点には、決定的に欠落しているものがあると感じるのです。それは、原発を受け入れてきた地元の人たちの「生活の問題」です。
これまでの主な議論は、行政と産業の癒着や利権、事故時の情報隠蔽や混乱の問題、あるいは原子力を巡る技術論、さらにそれに代わるべき代替エネルギー、そして低線量被曝リスクなどの健康被害の問題などです。いずれも重要な問題だとは思いますが、なぜか立地地域住民の生活の問題がすっぽりと抜け落ちています。
私は一時的にどれだけ反原発運動が盛り上がろうとも、この議論を抜きにしては、原発を巡る様々な問題が本当に解決できるとは思いません。
(続きは本誌1327号でお読みください)
記事カテゴリー
最新号をamazonで購入
お薦めの本
Upcoming Events
- No events.