昨年3月に起きた東電原発事故により、東日本の広い範囲が放射性物質に汚染された。今後何が起きるのか、私たちにできることは何か。内部被ばく問題を追及してきた映像作家の鎌仲ひとみさんは、その問いに答えるべく新作『内部被ばくを生き抜く』を発表した。(聞き手=温井立央)

プロフィール▶かまなか・ひとみ
富山県生まれ。早稲田大学卒業後、フリーの助監督としてドキュメンタリーの現場へ。1991年文化庁の助成を受けてカナダ国立映画製作所に滞在。その後、ニューヨークでメディア・アクティビスト集団「ペーパー・タイガー・テレビ」に参加。帰国後はNHKで番組を多数制作。2003年『ヒバクシャー 世界の終わりに』を発表。その後、『六ヶ所村ラプソディー』『ミツバチの羽音と地球の回転』を制作。著書に『ヒバクシャードキュメンタリー映画の現場から』(影書房)、共著に『内部被曝の脅威』(ちくま新書)『ドキュメンタリーの力』(子供の未来社)『今こそ、エネルギーシフト』(岩波)など。

<医療現場が抱く直観的な違和感>

◆複数の医師にインタビューされました

 原発事故後、長崎大学の山下俊一教授が福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任して県内各地に派遣され、「放射線を年間100ミリシーベルト浴びても安全だ」と講演して回りました。チェルノブイリの被ばく調査で世界的に有名な医師で、権威ある人の言うことだからと、福島の多くの住民は信じたのです。

 これが被ばく問題への対処を後手後手にしたことは間違いありません。しかし、逆にいえば、医者でも専門家でもない人が放射線の影響について語っても説得力はありません。そこで被曝問題と向き合う医師の方々にお話を聞きました。

 今私たちが直面している低線量内部被ばく問題は、未知の部分がたくさんあり世界的にも全貌が明らかになっていません。どんなに優れた医師でも得意・不得意があり、100%答えることはできない。そこで4人の医師に、それぞれの専門領域から語り得ることを取材しました。

 ベラルーシの小児科医スモルニコワさんは、チェルノブイリ事故の被害を受けた地域で45年間医師をしています。事故前の20年間は、小児白血病や小児ガンは1、2例しか見たことがなかった。それなのに事故から5年経った頃からガンを含め様々な症状が急増した。疫学的、統計学的には対象数が少なく放射線の影響を証明できないかもしれませんが、むしろ現場の医師の実感の方が信頼性は高いと思います。

 映画では肥田舜太郎さんが、原爆被爆者の「ぶらぶら病」について、ミトコンドリアが破壊されたことが原因ではないかと指摘しています。これはウクライナの若い研究者による調査結果からの仮説です。実際、被曝した細胞中のミトコンドリアが変形しているNHKの放送映像がありました。木村真三さんがレポートした「内部被曝に迫る〜チェルノブイリからの報告〜」です。

 また児玉龍彦さんが指摘する放射線によるDNAの異常増殖、パリンドローム・シンドロームは、米国在住の日本人研究者の調査結果です。しかし2007年に明らかになったこの事実は未だ、日本では広く医療界の知見となってはいない。

 通常の原発から排出されるクリプトンなどの希ガスによる低線量被ばくについては、米国のスターングラス博士とマーティン・グールド博士が非常に緻密な統計をとってその影響を明らかにしていますが、その学説もいまだに黙殺されたままです。

 しかし、人々が直観的、感覚的に異変を感じながら非科学的だと否定されてきたことが、これから科学によって実証されていく可能性は大いにあります。チェルノブイリ事故による甲状腺ガンの増加も、当初は否定されていましたが、事故後20年近く経ってからようやく認められました。パリンドローム・シンドロームも2000年にゲノム解析ができるようになって、はじめてわかったことです。

 間違った説も出てくるかもしれませんが、現場からの警告や何かおかしいという声に関しては、常にアンテナを立てておかなければいけません。現場の医師が抱く小さな違和感の積み重ねを非科学的だと軽く見たり否定したりせず、予防原則の立場から先手を打った対策が求められます。

(続きは本誌1327号でお読みください)

 

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