民主主義の機能不全が招いた原発事故 アイリーン・美緒子・スミスさん
被ばくによる子どもたちの人権侵害について責任の所在を明らかに
福島県内では福島第一原発の警戒区域外でも高い放射線量が測定されている。当初から文科省は、子どもの被ばく線量を年間1ミリシーベルトから引き上げ、年間20ミリシーベルトまで容認する通達を出した。福島の市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」とNGO5団体は、国などに対して安全基準の緩和撤回と子どもの避難促進を求めて交渉を続けてきた。そのNGOの一つ、グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミスさんに話を聞いた。
プロフィール▼アイリーン・美緒子・スミス
1950 年東京生まれ。1971年からW . ユージン・スミスのアシスタントとなり、その後結婚。水俣病取材のため3年間現地に滞在。75年写真集『MINAMATA』をユージンと出版。80年、日本語版『水俣』を出版。現在は、反原発の非政府組織(NGO)「グリーン・アクション」代表。京都市在住。
グリーン・アクション http://www.greenaction-japan.org/
<誰も責任をとらない安全基準緩和>
◆20ミリシーベルトの基準を決めた経緯は曖昧です
どの部署が20ミリシーベルト基準の責任を持つのかとの質問に、政府は一切答えていません。原子力安全委員会は5月2日の交渉で、「年間20ミリシーベルトで安全だと言ったわけじゃない」と。一方の文科省は、「原子力安全委員会の提言に基づいて決めた」と。暫定基準20ミリシーベルトの安全性確認についてはどこも責任をとろうとしない。みんな逃げていて、非常に無責任です。
ちなみに暫定基準20ミリシーベルトは福島県のみで、他の地域には適用されません。ですから福島県以外の自治体で、「20ミリシーベルトを超えないから大丈夫」と言うのは間違いです。本来、法律で定める一般公衆の線量限度は年間1ミリシーベルトです。そこで市民は、線量限度を正しく自治体に通達してほしいと要請したのですが、政府は言葉を濁すだけではっきりと答えようとしていません。
そもそも事故が起きたからといって、安易に1ミリシーベルトの基準を緩和するのはおかしい。何のために基準を決めたのか。こうした恣意的な基準の変更は、原子力業界でよく見られます。たとえば福井県大飯原発の配管の肉厚が薄くなり基準を満たせないことが分かると、その基準を変えました。さらに薄くなってくると基準をさらに変える。
食品の放射能汚染に対する暫定基準についても、アメリカや他の国々よりも非常に緩い値です。摂取制限の数値を高くすれば、それ以下のものは実際はどうであれ全部「クリーン」になる。基準を緩和して、基準値を満たしていると言いますが、より厳しい海外の放射能基準を満たしていないことを知らせる必要があります。
<市民の力で切り開いた撤回運動>
◆文科省は事実上20ミリシーベルトを撤回しましたね
5月27日に高木文部科学大臣が、子どもたちの被ばく量に関して「今年度は年間1ミリシーベルトを目指す」と発表しました。これは5月23日に行った交渉の結果です。
ポイントは、20ミリシーベルト安全基準の撤回運動はすべて市民が切り開いてきたことです。福島県の子どもをもつ親たちが自分たちで放射線量を計測したのが発端でした。
福島原発の事故後、私たちグリーン・アクションやフクロウの会(福島老朽原発を考える会)などがプロジェクトを立ち上げて、放射線測定器を福島県などに送りました。福島市の親たちはそのモニターを持って駆け回り、学校の敷地をくまなく調べ、一部で毎時100マイクロシーベルトを超えるなど非常に高い汚染があることを突き止めました。
3月31日、市民とNGOが一緒に測定結果を添えて福島県の教育委員会に申入れをし、記者会見を行いました。その結果を受けて、福島県は4月初旬に県内1400校以上の測定を実施。これによって初めて福島県の汚染状況が分かりました。76 %以上の学校で、空間線量が毎時0・6マイクロシーベルトを超えていたのです。これは「放射線管理区域」に相当する線量で、本来ならば未成年は入ってはいけない数値です。
ところが行政は何の防護対策も避難措置もとろうとしなかった。さらに文部科学省が4月19日に福島県に通知した内容は、子どもたちの年間20ミリシーベルトの被ばくを容認するものでした。これに対し4月21日、第1回目の文科省や原子力安全委員会との交渉を行いましたが、担当者はこちらの質問に何も答えられませんでした。
5月2日の第2回目の交渉では、福島県の学校の土を持ち込みました。毎時30マイクロシーベルトを超える線量が出ている土を政府の担当者の前に置き、質問をしました。そして5月23日には福島の親たちがバスをしたてて交渉に参加。6月30日には避難促進・自主避難者支援を求める政府交渉を行いました。
こうして毎回県民が必死になって訴え、私たちNGO5団体がバックアップして一緒に交渉し、ようやく行政が一歩動く。その繰り返しが続いています。
(続きは本誌1317号でご覧ください)
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