原発震災は家族・地域をバラバラに引き裂いている

福島県内では放射線量が高いにも関わらず、様々な事情で避難できない人が大勢いる。吉野裕之さん(45歳)は福島市にとどまり続けながら、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(子ども福島)」で疎開や避難の手助けをしている。現地の様子について話を聞いた。

 地震後、私は住んでいたアパートから同じ福島市内の実家へ避難しました。福島原発の深刻な状況を知ったのは、震災翌日に電気が復旧しテレビを見てからです。大変なことが起きたと思いましたが、どのくらい影響が及ぶのか全く見当がつきませんでした。

 ただ福島県内には発電所関係で働いている人が大勢いますので、人づてに情報が伝わってきました。発電所で働いていた人が「もうダメらしいよ」と言って東京まで逃げている。友人は原発が爆発したと聞いて、自分の家に戻る時間すら惜しんで避難した。それでこれはまずいんじゃないかと思いました。妻は3 月20日、3歳の子どもを連れて東京の実家へ。放射能を心配したからです。 

<市民自ら測定し除染を開始>

 「子ども福島」代表の中手聖一さんは、事故後から小中学校の校庭で放射線量を測定し、その数値をまとめて県庁での記者会見で発表しました。その記事が新聞に載り、想いのある人々が集まって5月1日に会を設立しました。

 会には色々なチームがあります。まずは測定して除染する測定・除染班です。空間線量を測定しマップを作り、ホットスポットを割り出して除染する。除染チームはボランティアで、手作業で汚染された土を徹底的に除去しました。

 作業をしていると近所のおじいさんが出てきて手伝ってくれたりする。個人宅だけでなく私立の幼稚園や保育園、学童施設からも依頼され、テレビなどでも取り上げられるようになりました。

 今、福島市内の空間線量は毎時1・5μSv前後ですが、土の上では毎時20μSvに跳ね上がる場所がざらにあります。ある高校の側溝では、毎時60μSvありました。国の指示で県もようやく2度目の測定を始めましたが、測定ポイントが極めて限定的。ブランコの下、昇降口のコンクリート、木の根元、砂場、側溝の中まで全部調査し、測定マップを作って除染する必要があります。

<安全を吹聴した県のアドバイザー>

 とは言え、お年寄りを中心に、今まで通りの生活を続けたいと思っている人は大勢います。特に農家や自営業、代々住んできた人たちは、事実であるかどうかは別にして安心できる情報が欲しい。

 そんな中、長崎大学の山下俊一教授が、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして全県を行脚した。「100ミリシーベルトまで安全です」と説いて回ったことで、多くの人は「普段通りでいいんだ。被爆地の長崎から偉い先生にわざわざ来てもらって良かった。これで安心して眠れる」と納得してしまった。

 その影響は学校現場にも表れています。不安視する先生もいますが、多くの先生は「国が平気だと言っているんだから大丈夫。何を騒ぎ立てるんだ」と言う。校長先生や担任の先生の判断によって対応はバラバラ。だから登下校時に子どもたちにマスクを徹底させない学校もあれば、大多数がマスクをする学校もある。私たちがいくら県教育委員会に防護策をとらせるよう指示すべきだと要請しても、学校長が最終的に判断することだと明言を避けます。生徒にマスク着用を勧めた先生が「生徒を不安にさせるな」と厳重注意された例もあります。一体、誰のための教育でしょうか?

 家庭の中でも深刻な断絶が起きています。放射能を心配するお母さんに対し、おじいさん、おばあさんが「嫁が何か騒いでいるが宗教でもはじめたのか」とか、「何びくびくしてんだ。おらが作ったんだから食え」と野菜を食べさせる。断ることもできず、若いお母さんはストレスが溜まり、家庭内の雰囲気は悪化しています。今回のことをきっかけに離婚し、子どもを連れて避難しているお母さんもいます。

 放射線リスクアドバイザーが安全宣言して回った影響は甚大です。「100mSvでも安全」と言う一方、福島県立医大の入学式では「ここは放射線医療の面で世界をリードする」と豪語しました。ここは安全で健康被害など出ないのにどうやって?このような矛盾を正そうと、私たちは山下アドバイザーを即刻解任するよう県に何回も要請しているのですが、全く応じようとしません。

 一方で文部科学省は、校庭などの利用判断基準について今年度は年間1mSvを目指すよう発表し、これまでの20mSv基準を事実上撤回しました。いまだ100 mSv以下で安全とする福島県に対し、「国の見解に逆らうのですか」と問い詰めましたが、担当者はうつむくばかりで何も答えません。

<自治体によって対応に温度差>

 県や福島市は、放射能汚染を理由に住民を避難させたくないのです。避難を認めればその地域が危険だと認めてしまうことになる。そうなれば農産物も売れず、観光客も来ません。企業も撤退するでしょう。産業が崩壊するのを避けたいから、子どもの疎開に対しても積極的に動かない。要するに今まで作った仕組みを壊したくないのです。

 確かに飯舘村のように、「長年努力して自然豊かな良い村をつくってきたのに」という村長の気持ちは痛いほどよく分かります。しかし残念ながら高濃度に汚染されているのですから早く決断して村民を避難させるべきでした。

 飯舘村より線量の低い葛尾村は、避難指示が出る前に村民全員を避難させています。郡山市、二本松市、伊達市は、それぞれ独自の判断で校庭の土を削り除染しました。特に二本松市の三保恵一市長はいち早く学校へエアコンを導入し、ホールボディカウンターによる内部被曝調査を手配するなど頑張っています。

 このように各自治体で対応が大きく違います。どのような考えと判断力を持った首長の下で暮らしてきたかが如実に表れているのです。

 福島市は校庭の除染に関し、「国の指示がない限りやらない」と言い続けてきましたが、今ようやく作業を始めたばかりです。法的には正しいのでしょうが、対応が何もかも遅いので多くの市民は怒っています。 インターネットなどを通じて様々な情報が広まってきた結果、おかしいと気付く人が増えています。同時にマスコミ以外の情報に触れていない人との温度差は、どんどん拡大しています。

<集団で疎開する態勢づくりを>

 原発が爆発して以降、私たちの体内に放射性物質はかなり蓄積しているのでしょう。一日中外にいた場合、空間線量だけを積算してもすでに5mSvを超えています。屋内に16時間いたとしても3mSvは超える。これは外部被曝だけですから、水や食べ物などの内部被曝もあわせるとどのくらいの被曝量になるか分かりません。

 福島市は盆地で山に囲まれています。その山の雪解け水からも2000ベクレル以上の放射線が出ています。もはや校庭だけでなく生活圏すべてに放射能が降り積もっている。いくら高圧洗浄で除染してもどこかにホットスポットとして溜まる可能性があります。

 今後、低線量被曝が何十年も続くことを考えれば、小さなお子さんや出産間際の女性、子どもを産む若い世代などを中心にできるだけ避難した方が良い。そう考えて会では移住先の紹介を始めました。

 現在受け入れ態勢を整えている自治体は全国にあります。しかし肝心の被災地の行政は「安全だから避難する必要はない」とのスタンスで、避難区域に該当しない福島市・郡山市・伊達市・二本松市など中通りからの県外避難を認めようとしません。

 これにより移住先で困ることが多々あります。たとえば東京都は被災証明書、罹災証明書をもっている人には都営住宅を1年間無料で貸しますが、自主避難の人は認めていません。自主避難でも証明書を出すべきです。

 さらに学校に通っているお子さんにとっても様々な問題があります。部活をしている中高生は、「チームプレイなんだから俺だけ逃げるわけにいかない」と、新学期がはじまるとみんな戻ってきてしまった。

 つまり疎開するには、学校全体で実施するしかない。たとえば福島とどこかの自治体が手を組み、空いている学校などへ学年ごとに集団疎開させる。普段はバラバラでも部活の練習試合の時は集まるようにする。「お母さんたちも交代で面倒をみるから疎開しよう」となれば、友達と一緒なので行きやすくなる。本当は国が音頭をとって自治体に働きかけるべきだと思います。

<離れた地域が助け合うために>

 今は不安を覚える人が自主判断で避難しています。みんな苦渋の選択で、自分たちだけ逃げて申し訳ないと、後ろめたい想いで不安にかられながら出ていく。行政はこうした住民たちがどこに避難しているのか把握していません。

 みんなバラバラになり、子どもがいなくなっているのに、どうやって復興するのでしょう。福島に残るのも不安、かと言って避難する態勢もない、本当に苦しい状況に立たされています。

 全国の皆さんには、苦境に立たされている福島県民の現状を知って欲しいと思います。避難する子どもは、友達と離れてまったく知らない場所へ移住しなくてはいけない。親御さんたちも、仕事を一から探さなければいけない状況です。全てを捨てて出て行く辛さを分かってください。

 是非、お住まいの自治体に働きかけて、集団での受入先を作っていただきたいと思います。市民団体、町内会などの住民組織と地元自治体が協働でネットワークをつくる。住民組織の人たちと私たちが直接結びつき、自治体は自治体と結びつくことで二重のネットワークができます。離れた地域がお互いサポートしながら、何かあった時には助け合える、そんな仕組みづくりの社会実験にもなると思います。

「子どもたちを放射線から守る福島ネットワーク(子ども福島)」
 (http://kofdomofukushima.at.webry.info/

(本誌1316号掲載)

 

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