今年10月、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)とカルタヘナ議定書第5回締約国会議(COP/MOP5)が開催される。多くの生物種が絶滅の危機に瀕している今、国際会議では何が焦点となるのか。国際自然保護連合(IUCN)日本委員会の道家哲平さんに話を聞いた。(写真提供:道家哲平/聞き手:温井立央)

プロフィール▼どうけ・てっぺい
1980年東京生まれ。日本自然保護協会、国際自然保護連合(IUCN)日本委員会事務局担当、生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)運営委員、生物多様性フォーラム評議員。

<誰もが多様性の恵みを得ている>

◆生物多様性は私たちにどう関係するのですか

 そもそも「生物多様性」という言葉は、自然保護関係者ではない人たちにその重要性を伝えるためのツールとして考えられました。
 「他人事ではなく、あなたにも関係することですよ」と呼びかけるものです。
 私たちが生きていくうえで生物多様性がいかに重要なのか。
 それを過去・現在・未来の切り口から考えてみます。

 まずは過去からのつながりです。
 生き物は36億年という長い時間を経て、一つの種に集約することなく多様性をもって現在に至っています。
 単細胞生物から人間に至るまで、長い営みが多様な生物の中に刻まれています。
 私たちが五重塔を見て過去の人たちの偉大さを感じるならば、同様のことが多様な生物種についても言えるはずです。
 地球で紡がれてきた命の多様性・面白さは、私たちが守り、維持して将来に引き継ぐべき遺産なのです。

 2つ目は現在の生態系サービスからの視点です。
 今、私たちは地球上の自然から多くの恵みを得ています。
 食料や木材などの供給だけでなく、ハチや昆虫の授粉によって多くの果実や野菜を生産しています。
 海岸に珊瑚礁、海草藻場、マングローブ林があれば、魚の生育する場となり、津波などの被害を軽減できます。
 こうした多くの恩恵は、多様な生態系があればこそ持続可能なものです。

 3点目に将来への対応があります。
 今、気候変動枠組み条約の議論で、平均気温が2度上がると言われています。
 これは確実な変動であり、自然界に非常に大きなインパクトを与えます。

 たとえば昆虫は温度が上がることによって、卵から成虫になり産卵するという成長サイクルのスピードが変わります。
 ある研究では、平均気温2度上がることでアブラムシは5世代サイクルが早くなる一方、アブラムシを食べるテントウムシは2世代しか早くなりません。
 害虫と呼ばれるアブラムシの方が益虫といわれるテントウムシより環境適応しやすくなるのです。

 ただしアブラムシが増えたとしても、それを食べる多様な昆虫がいたら状況は全く違ってきます。
 多様な生物のいる世界は、これから起こる地球環境の変化に対して、柔軟に対応できる知恵やオプションを備えています。
 それが長い時間の中で、多様な生物が生まれてきた理由でもあります。
 だからこそ単一の樹種しかない森を残すのか、多様な森林を残すかで今後の社会の対応は全然違ってくるのです。

 以上のような説明の他に、企業の方には自然の構造を模倣するバイオミミクリーを例にあげます。
 たとえば空気抵抗を減らす為にカワセミのくちばしの形を取り入れた新幹線の先頭部分、蓮の葉のように水をはじく撥水性のある素材など、こうした技術革新、イノベーションの可能性も生物多様性の中に秘められているのです。

生物多様性条約第9回締約国会議

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 (続きは本誌2010年10月号でお読みください)