鳩山首相は外務・防衛官僚に騙されているのか?

 普天間基地の県外移転を訴え続けている沖縄県宜野湾市の伊波洋一市長が4月23日に東京で講演。主催はアジア記者クラブ、現代史研究会。
 市長は普天間基地の危険性、海兵隊のグアム移転計画について、パワーポイントを使いながら詳しく説明した。

<世界一危険な普天間飛行場>

 普天間基地は1945年、米軍による沖縄占領と同時に建設された。
 スライドには、宜野湾市の真ん中にある広大な普天間飛行場と、滑走路の周囲に建ち並ぶ住宅地の航空写真が映し出される。

 滑走路から離発着する米軍機は住宅地の上を飛行する。
 アメリカ本土の基地では許されていない危険な運用だ。

 「アメリカには米軍の運用基準があり、常時飛行訓練を行うコースの真下はクリアゾーンといって一切の構築物を作ってはいけないことになっています。
 飛行機は着陸と離陸時に一番事故が多い。しかも弾薬など危険な物質を大量に積んでいますので、墜落事故が起こった時に真下に住宅地があると大きな被害が出るからです。
 普天間の写真を米国で見せると『どうしてこういう飛行場が存在するのか。アメリカではあり得ない』と」

 普天間では本来基地内にあるべきクリアゾーンが外に張り出し、そこに学校、公民館、ガソリンスタンド、住宅などが建ち3600人の住民がいる。
 さらに危険なのは、米軍基地は日米安保上の「提供施設」とされ、日本の航空法の規制が適用されないことだ。

 「米軍は日本政府から何も言われないので、どんな危険なことでもやっても良いとなっている。そのため『世界一危険な飛行場』が存在し続けることになるわけです」

 普天間では軍用機が滑走路に降り、そのまますぐに飛び立つタッチ&ゴー訓練が頻繁に行われている。
 朝7時から夜11時までの訓練の騒音はすさまじく、住民からの苦情は絶えない。
 米国本土やフィリピン・クラーク空軍基地の閉鎖などによって沖縄に訓練が集中するようになり、96年の返還合意後にもそれまで年間1万5000回だった飛行回数が2万~3万回に増加した。

 伊波さんは2004年7月に訪米し、ワシントンで「普天間飛行場は危険水域をはるかに超えている。いつ事故が起きても不思議ではない状況がずっと続いている」と米国側に訴えた。
 その1ヶ月後の8月13日、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した。

 「日本政府は基地運用の問題を一言も言わず容認してきている。それが今日の普天間の危険性をつくりあげている。沖縄だけではなく厚木も岩国も同じ。日米地位協定のあり方が住民を苦しめている」

<海兵隊のグアム移転計画>

 鳩山政権もまた迷走の末、普天間基地の代替施設として辺野古基地建設を言い出している。
 しかし宜野湾市では、在日米軍関連の公文書を翻訳・分析、マスコミが報じない事実を突き止めた。

 「普天間の部隊はグアムに行くのです。その計画が着々と進んでいるにも関わらず、国内でほとんど報じられることなく今日に至っています」

 日本政府が発表しているのは、2005年10月「日米同盟・未来のための変革と再編」での合意内容。
 ここでは司令部のみがグアムに移り、普天間の部隊、沖縄の海兵隊は旅団規模で辺野古の代替施設に移るとされた。

 しかし2006年5月に合意した「再編実施のための日米ロードマップ」では、司令部だけでなく部隊全体がグアムへ移ると変わっている。
 「約8000名の第3海兵機動展開部隊の要員と、その家族約9000名は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する」。
 つまり部隊が丸ごと移るわけで、そのため日本政府はこの移転費として60億9000万ドル(7000億円)を拠出することに合意している。

 にも関わらず日本政府は、沖縄の海兵隊は1万8000名おり、8000名移転しても1万人が残るから辺野古に代替基地が必要だと主張してきた。
 しかし沖縄県の調査によると、沖縄の米海兵隊は2008年時点で1万2400名しかいない。
 ここから8600名の常駐部隊と2000名の一時配備部隊の加わった計1万600名がグアムに移る(2009年11月環境影響評価書)。
 すると残りは1800名のみ。「1万8000人」という数字は基地建設のためにでっちあげたものに過ぎないようだ。

<米政府と本当に交渉したのか?>

 「日米両政府は96年のSACO当初からの継続性を言い続ける必要があった。だから、あたかも普天間のヘリ部隊全部が移る先として辺野古建設を言い続けているのです」

 伊波市長はこう指摘するが、実際にはグアム移転計画は着々と進んでいる。
 2006年7月、ロードマップに基づき米国の太平洋司令部は「グアム統合軍事開発計画」を作成。
 2008年9月、この計画に基づいて海軍長官から米国下院軍事委員会議長あてに報告書が提出された。
 そこにはヘリ部隊も含め普天間飛行場のほとんどの関連部隊がグアムに移駐すると示されていた。

 2009年6月、米国海兵隊司令官ジェイムズ・コンウェイ大将は、沖縄からグアムへの海兵隊移転を評価し、「前方展開態勢を備えた海兵隊戦力を実現し、今後50年間にわたって太平洋における米国の国益に貢献する」と報告。

 そして2009年11月、およそ8000ページに及ぶ「グアム統合軍事開発計画」の環境影響評価書が発表された。
 そこには沖縄からグアムに移る海兵航空部隊は約2000名と記されている。
 普天間の海兵航空部隊は約2000名で日本には普天間以外に海兵航空部隊はいない。
 つまり普天間の部隊のほとんどがグアムへ移るわけだ。

 かつてメア元在沖米総領事は「グアム統合軍事開発計画は紙切れに過ぎない。ハワイの司令部が作ったが実際はそうはならない」と語った。
 しかしグアム州政府や地元住民へのパブリックコメントがはじまり、計画は最終段階に入っている状況だ。

 「グアム移転計画は確かに最終確定していませんが、辺野古はアセスにも入っていません。どうして日本の辺野古計画は確定で、グアム移転計画は未確定なのか。
 グアム州政府やグアム住民に対しては、沖縄から部隊が移ってくると具体的に説明している。なぜ7000億円出す日本政府に何の説明もしないのか。
 政府としてはアメリカに計画の説明を求める権利があると思います」

<海兵隊の役割は日本防衛はでない>

 海兵隊が沖縄にいないと有事の際にすぐに展開できず、抑止力にならないと主張する人たちもいる。しかしこれにはまったく根拠はない。
 そもそも海兵隊は日本防衛のために駐留しているのではない。
 第三海兵隊機動部隊のエリアはミシシッピ川以西のアメリカも含め、インド洋までの全てのエリアをカバーする役割を担っているからだ。

 そのため日本の「抑止力」の中核となるはずの沖縄の海兵遠征部隊31MEUは、普天間のヘリ部隊と共に海外の演習に参加し、1年の半分は日本にいない。
 隊員たちは佐世保に配備されている揚陸艦エセックスなどに乗り、西太平洋の同盟国であるフィリピン・タイ・オーストラリア・韓国などの演習場に出かけている。

  「一日たりとも沖縄からはずすわけにいかない、富士演習場にも置けないなど色々言われていますが、実際は沖縄にいないのです」

 この31MEUもグアムに移転する可能性が高い。
 このように海兵隊が沖縄からグアムに移駐しようとしているのは、アメリカ自身の防衛の為だ。
 冷戦時代は西側諸国との同盟関係を維持し、国家間戦争から同盟国を防衛するのが目的だった。
 しかし2001年のテロ事件以降、テロに対処することが米国の最大の目的となった。

 そしてQDR(4年毎の国防見直し)の勧告に基づいて、沖縄の海兵隊の適切な移設先を探した結果、グアム、マリアナが最も最適と評価されたのだ。
 その結果、2006年の日米ロードマップ合意では次のように記されている。

 「海兵隊をグアムへ移転させることは、太平洋上の米国領土で最前方の配備地に海兵隊を置くことである。
 グアムは海兵隊のプレゼンスを支援できる能力があり、沖縄と比較しても、活動の自由を最大限得られ、配備にかかる時間の増加を最小限に押さえることができる」

<事実を伝えない本土のマスコミ>

 今年3月、NHK沖縄放送局が「特集 米国海兵隊取材」において、米国側の重要な発言を放送。
 太平洋海兵隊司令部ラッセル・スミス大佐は次のように語った。

 「沖縄は発展を遂げ、色々なものが基地のフェンスに迫るようになってきました。
 30年~40年前と比べ、人口が増え、経済が発展し、環境問題に対する意識が高まったためアメリカ軍が日本で行うことのできる訓練は限定されるようになってしまいました。
 米軍が即応能力を維持するため日本本土や沖縄で行う必要がある訓練に影響が出ています」

 「他国を招き沖縄の海兵隊と一緒に訓練することは困難です。
 なぜならば日本政府の意向に配慮しなければならないからです。
 日本政府は恐らく他国の軍隊が日本領土に入るのを望まないでしょう。
 グアムはアメリカの領土のため、各国の軍隊を招いて合同で訓練することも可能になるでしょう。日本ではそれが困難でしょう」

 つまり沖縄からグアムへの移転はアメリカの意志なのだ。
 伊波さんは「むしろ日本側から海兵隊に去っていかないでくれと言っているのではないか」と指摘。
 当然にも徳之島にヘリ部隊が2000名移転することなどあり得ないとし、「外務省や防衛省が言うことをそのまま書いている。グアムに行って調査すればすぐ分かる。事実とまったく違う議論が日本国内で行われている」と本土のマスコミ報道を批判した。

 講演後の質疑応答では「沖縄は基地返還ごとに経済発展してきた」と、普天間基地跡地利用計画が策定されていることを述べ、基地廃絶と県民大会への想いを訴えた。

 (編集部・温井立央)

 (本誌1304号掲載) 

 

One Response to 着々と海兵隊のグアム移転計画を進めるアメリカ 伊波洋一・宜野湾市長講演会

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by 松尾芳孝YoshitakaMatsuo, Actio編集部. Actio編集部 said: レポート「着々と海兵隊のグアム移転計画を進めるアメリカ」伊波洋一・宜野湾市長講演会を全文掲載「 [...]