映評『BOX 袴田事件 命とは』
この映画は実際に起きた事件を基にしています。
昭和41年6月30日、静岡県清水市の味噌製造会社専務宅が放火され、一家4人が殺害されました。
警察は従業員で元プロボクサーの袴田巌を逮捕・起訴。いわゆる「袴田事件」の始まりです。
1日平均12時間の自白を迫る取調べは過酷で、拷問に近いものです。
意識が朦朧とする中、袴田は調書にサインをしてしまいます。
その裁判を担当したのが静岡地裁の熊本典道。
熊本は調書を丹念に調べ、長時間の取調べと、日によって供述内容が二転三転することに疑問を抱きます。
さらに公判で袴田が無実を主張したことから、冤罪の想いを強くします。
自白以外に有力な証拠がないまま1年が経った頃、検察は新証拠を提出。
それは一度捜査した味噌蔵の樽から発見された血染めの衣服でした。
なんで1年も経って都合よく証拠が発見されるのでしょう? とても不可解です。
熊本は無罪を主張するも、裁判官の合議で最終的には多数決によって有罪=死刑に。
自らの意に反する判決文を書く主任判事の熊本。
彼の苦悩とやるかたない憤りが伝わってきます。
その後、裁判官を辞職した熊本は、事件の真相をつかむべく奔走します。
次々明らかとなる証拠の矛盾。これは警察の捏造ではないのか?
しかし高裁、最高裁でも判決はくつがえりません。
昭和55年12月12日死刑確定。
いつ死刑が執行されるのか分からず、看守の足音が毎日響く留置所で、袴田は精神に異常をきたします。
熊本も酒におぼれ、自殺未遂を繰り返します。
袴田役の新井浩文、熊本役の萩原聖人の演技が鬼気迫ります。
熊本は「人を裁くことは自分も裁かれること」と語ります。
もし裁判員制度で自分が裁く側に立った時、どうすればいいのか。
そして今も袴田巌さんは収監されたままだという現実が重く心に残りました。
(額賀まりえ)

監督=高橋伴明
2010年/日本/1時間57分
銀座シネパトス他、全国で公開中
詳細 http://www.box-hakamadacase.com/
(2010年8月号掲載)
