プロフィール▼いせざき・けんじ
1957年生まれ。東ティモール、シエラレオネなどでNGOや国連職員として紛争処理、武装解除などを経験し、アフガニスタンでは日本政府主導のDDR(武装解除、動員解除、社会復帰)を指揮。東京外国語大学総合国際学研究院教授。「HIKESHI マエキタ伊勢崎研究室」を主催。火消し(HIKESHI)プロジェクト 
http://hikeshi.org/index.html

東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンなど世界各地の紛争地域で紛争処理、武装解除を担った伊勢崎賢治さん。「HIKESHI マエキタ伊勢崎研究室」の活動や、戦争を予防するために何が求められているのかを聞いた。
 (聞き手=編集部・渡瀬義孝)

<戦争を止める広告=ピースアド>

◆戦争とアートの関係に注目していますね

 1989年から2007年までの18年間、世界では89カ国が紛争を抱えていました。
 これが2007年度には31カ国に減少しました。
 つまり58カ国は、この18年間に紛争の火を小さくすることに成功したと言えます。

 その一方でルワンダでは、ラジオを通じたプロパガンダが未曽有の大量虐殺を引き起こしました。
 紛争の火を消し、戦争を未然に防止するには、何が戦争を生む広告(プロパガンダ)であり、何が戦争を止める広告(ピースアド)なのかを、厳密に見分ける必要があります。

 プロパガンダにとって最も有力なツールはアートです。
 アートが政治的に利用される最たる例は、国家が戦争を起こしたい時です。
 大きな戦争は独裁国家ではなく民主国家がやってます。世界最大の民主主義国家であるアメリカが典型ですね。
 したがって戦争をするには有権者の動員が必要で、それにアートが利用されるわけです。

 選挙で民主的に選ばれたヒットラーもアートを利用しました。
 実はナチス時代の芸術はとても素晴らしいもので、建築デザインも優れていました。
 しかしそこには「負の社会性」の烙印が押されていて、僕の学生時代には正当に評価できない雰囲気がありました。
 本当は掛け値なしにかっこいいのに、それを口にできない。

 一方で僕はピカソの『ゲルニカ』は素晴らしい作品だと思いますが、渋谷で壁画として飾られている岡本太郎の『明日の神話』は駄作だと思います。
 前者はゲルニカ爆撃の悲劇を描き、後者は原爆が炸裂する瞬間を描いた。
 両方とも社会性をもっていますが、前者は社会性を抜きにしても素晴らしい作品、後者はそれを抜いたら駄作です。

 まさに芸術性と社会性には複雑な関係が存在する。
 僕は元々建築家ですからずっとこの問題を考えてきました。
 体制側が政治的プロパガンダのためにアートを利用するのは一番怖いことですが、だからといってアーティストが自分の作品に社会性を持たせることでそれに対抗するのがいいとも単純には言えない。
 そこに潜んでいるジレンマを自覚しつつ、素晴らしいアーティストが育ってくれればいいなと思っています。

 (続きは本誌1303号でご覧ください)