森に入って「内なる自然」を取り戻す

都市化が進んだ現代の日常生活には様々なストレスが存在する。そんな疲れを癒す力を秘めた森林療法について、創設者の上原巌さんに聞いた。(写真・資料提供:上原巌)

上原巌さん

上原巌さん

 プロフィール◇うえはら・いわお
1964年長野市生まれ。東京農業大学森林総合科学科准教授。農学博士。日本カウンセリング学会認定カウンセラー。みんなの森代表世話人。「六ヶ所あしたの森」顧問。著書に『ジョン・レノンが愛した森 夏目漱石が癒された森』『上原巌が行く 実践 森林療法最前線』『森林療法のてびき』『森林療法序説』(全国林業改良普及協会)『森林療法のすすめ』(コモンズ)、編著に『森林療法あらかると』『事例に学ぶ森林療法のすすめ方』(全国林業改良普及協会)など多数。上原研究室HP 
http://www.geocities.jp/ueharaiwao/

不景気な今の時代こそ自然療法

◆森林療法が注目されています

 森林療法は、自然の中で心身の疲れや病、障害を緩和し、病気になりにくい心身を作ることです。主に福祉や医療の現場で利用され、もともと弱者のための療法でした。ドイツをはじめヨーロッパなどには様々な自然療法があり、健康保険の適用を受けて保養地で森歩きしている人がいます。

 私は社会福祉施設や養護学校に勤めながら森林療法を実践したり、森の散策を通して引きこもりや登校拒否の子どものスクールカウンセラーを行ってきました。今は企業のビジネスマンや学校の先生を対象に身近な森林環境を活かしたワークショップを開いています。ワークショップを受けた保健の先生が、不登校やリストカットを続ける自分の学校の生徒と共に周囲の林でカウンセリングするのです。

 不思議なことに森林療法、森林浴の分野は不景気な時ほど脚光を浴びます。景気の良い時はお金もうけが中心になって世の中は「イケイケムード」になるのですが、不景気になると先行きの不安などから、自分の健康や自分自身を見直すようになるのです。これは良い機会でもあります。

 例えば英国では第一次世界大戦後に長期の不景気になり、今の日本のようにみんな将来や健康への不安を抱えていました。そこで身近にできる簡単でお金のかからない健康法として考えられたのが「散歩」でした。森や草原、牧場などを歩ける公的な散策路「フットパス」を全土に張り巡らしたのです。この散策路は地球を4周半もするぐらいの距離で、英国は今やウォーキング大国と言われるほどになりました。

 このような森林散策などの療法は、高い経済効果もあります。散歩をすることで高齢者も元気に過ごせるようになり、医療費が削減できる。健康な人が多くなれば、仕事もはかどる。疲れている学校の先生も、休養することではつらつと働けるようになっていくことが期待できるのです。

 また生活習慣病の予防にもなります。高血圧の改善、糖尿病や動脈硬化の予防、ストレスの減少、心肺機能の向上、免疫機能の活性化などです。必ずしも万人がそうなるわけではありませんが、多くの人にとって効果的だとの研究結果が出てきています。

 森林・林業白書に報告されている林野庁の試算では、こうした森林療法によって年間2兆円以上の保健休養の経済効果があると言われています。

森林療法

落ち葉に埋まって楽しむ

(続きは本誌2010年3月号でご覧ください)