気候変動とピークオイルに立ち向かう町づくり

Actio1月10日号でヨガの世界について語ったまるじゅんさんこと中園順子さんは、トランジションタウン・ジャパン(http://www.transition-japan.net/)のクリエイティブ・ディレクター。個人ブログ「ジモティーでいこう」(http://ttown.exblog.jp/)でも紹介しているトランジションタウン運動について聞いた。

中園順子さん

<パニックになってからでは遅すぎる>

◆運動は世界中に広がっていますね

 トランジションタウン(以下TT)は2005年秋、イギリス南部の町トットネスで始まった運動です。わずか3年間でイギリス全土から欧州各国、北南米、オセアニアなど世界150以上の市町村に広がっています。

 TTの主役は、世界中のそれぞれの地域で実際にこの動きにかかわるひとりひとり。その動きをサポートする機能として、トットネスにNPOトランジション・ネットワークがあり、世界各地に広がる「ハブ」のひとつとしてトランジション・ジャパンが2008年6月有志によりスタート。日本各地で立ち上がりつつあるTTの活動をバックアップしていくのが目的です。

 TTは、気候変動とピークオイルという「双子の問題」に立ち向かう運動としてスタートしました。気候変動は今や多くの人が知っていますが、ピークオイルは日本では未だよく知られていません。

 石油など化石燃料の生産が頭打ちになることですが、注意すべきなのは、石油はある日突然枯渇するのではなく、ピークを境に急な坂を転がり落ちるように減耗するものだということです。

 供給がピークに達した時点から増え続ける需要とのギャップが拡大し始め、石油採掘のコストも急上昇します。つまりピークオイルとは「安い石油」の時代が終わることです。それは直ちに「安い石油」を基礎に成り立っている現在の社会経済システムそのものの終焉を意味します。

 石油に依存した現在の大量消費型の社会システムは、気候変動を加速させるだけでなく、深刻化する雇用問題や金融問題、環境問題や食料問題、個人の内面に関わる孤独や心の病の問題など、ありとあらゆる大問題の根本原因でもあります。これをグローバリゼーションと呼ぶ人もいるし、産業型成長システムと呼ぶ人もいます。

 いずれにしてもこのシステムを変えていかなければ、人類は生きながらえることはできません。トランジションとは「移行」を意味しますが、まさにTTは現在の破滅的なシステムから、自然環境や人類が持続可能なシステムへ移行するための運動です。

 この運動の創始者ロブ・ホプキンスは、パーマカルチャーの先生でした。パーマカルチャーとは、パーマネント(permanent=永久の)とアグリカルチャー(agriculture=農業)を合成した造語ですが、同時にパーマネントとカルチャー(文化)の合成語でもあります。

 パーマカルチャーは、あらかじめ存在する自然条件を最大限に生かし、循環型自給農を基本に、伝統文化を見直しつつ、自分たちを取り巻く環境全体を永続可能なものへと転換する方法論です。通常は住居を中心とした農的環境に対して適用されるパーマカルチャーの原則を、そのまま既存の地域社会に適用したらどうだろう? ロブはそう考えたのではないかと思います。

 現代社会の中で分断され、有機的なつながりを失って、本来のチカラを発揮できなくなっている地域の資源、そして人々。それらをあらためて出会わせ、組み合わせることで、湧き出てくるエネルギー。生きる喜びがよみがえると同時に、コミュニティの持続可能性が回復します。

 そのとき、個々への対症療法ではまったく歯が立たなかった前述の大問題たちが、システム全体をホリスティックに変化させることで、いわば自然に治癒していく。TTは、社会と人間の幸福な全体性を回復する統合治療としても機能するわけです。

 TTでは、自分が住んでいる場所、自転車で回れるぐらいの大きさのエリアで、持続可能な循環型コミュニティを目指します。集中型のシステムである今の社会を、ボトムアップで分散型に変えていく。2007年がすでにピークオイルだったという説もあります。パニックが起きないうちに自ら進んで持続可能な社会に移行する試みです。

<つながりを大切にするフラットな運営>

◆誰でも参加できるのですか?

 トランジション・ジャパンは運動の特徴を次のようにまとめています。

・ピークオイルと気候変動という「双子の問題」に同時に対処し得る本質的かつ包括的な解決策の提示をめざす
・地域レベルに焦点を当てる
・地域住民の創造力、適応力および団結力を引き出す
・その地域にすでに存在する資源を最大限活用し、それらを有機的につなげる
・頭(Head)・こころ(Heart)・身体(Hands)の「3H」のバランスをとる
・よりよい未来を描き、その実現は十分可能であると信じ、楽しみながら取り組む

 ロブは、TTをはじめたい人たちの手引書として、『トランジション・ハンドブック(未訳)』のほか、『トランジション・イニシアティブ入門書(日本語訳)』(http://www.transition-japan.net/information/transition/primer.pdf)をまとめ、その中で「TTの12ステップ」を提起しています。

『トランジション・ハンドブック』

 これは欧米では有名な「アルコール依存症から立ち直るための12ステップ」のパロディで、まさに「石油依存症から立ち直るための12ステップ」なのですが、元ネタがわからない日本人にとっても非常にありがたいものです。「第1ステップ コア・グループを結成しよう」から始まる、いわば「誰でもスタートできるTTマニュアル」です。

 12ステップはロブたちが、トットネスでTTに取り組む自分たちの経験の中から、いわば泥縄式にノウハウをまとめたもの。12ステップの各項目は、わたしたち自身で使ってみて、感動的に有効だと思いましたが、当初ロブたちが想定したこのステップ通りの順番ではすすんでいかないこともありました。この点、彼らも今は同じ意見のようで、地域によって順番を入れ替える方がいいね、というのが現在の共通認識です。

 順番はともかく、12ステップの各項目は、TTの初期(おそらく最初の2年間くらい)において、困った時は何度も戻って参照できる原点(原典)だというのがわたしの感想です。さまざまな場面で役立つ格言集として、ぜひご一読ください。

 よく「成功事例を教えてください」と言われますが、TTの完成形はまだありません。TTは人類初の、世界同時多発的な壮大な実験。たくさんの仲間が試行錯誤しながら、「だれでもマネできる、失敗しにくい、役立つノウハウ」を蓄積し、共有しつつ進んできました。

 草の根市民運動というのは、だれでも参加できるけれど、効果が出なかったり、まわりに広めていくことが下手だったり、内部分裂したり、くたびれてしまったり、ありがちな落とし穴に落ちやすいのですが、TTが他の市民運動とちがうのは、そうならないための心理学的研究やサポート体制に力を注いでいることです。

 TTは3人いれば始められます。だからまずは2人の仲間を見つけることから始めればいいでしょう。ジモトに全く知り合いがいなくても、SNSなどネット上で仲間を見つけることもできるし、トランジションジャパンで同じジモトのマッチングサービスもやっていけたらと思っています。

 でもいちばん重要なのは、あれこれ思い悩む前に、この指とまれと手をあげること。驚くほどたくさんの、多様な力強い手が挙がり、それらが勝手に動き出し、ひとりでに展開していったらもう止めることはできなーい(笑)という経験を、わたしもしていますし、多くの人が興奮気味に語ってくれています。

 日本人の多くは企業のようなトップダウン型のグループ運営になじみすぎていて、フラットな組織で創造的な場を楽しく進行することになれていません。いつものやり方を無意識に持ち込み、ふと気づけば声の大きい人やよくしゃべる人ばかりが残ってしまって、口べたな人やおとなしい人がいなくなってしまうようではつながりも広がりも実現できません。

 仲間への思いやりや多様性への理解はもちろん大切ですが、さらにファシリテーションやリーダーシップ、コミュニケーションのスキルを積極的に学ぶのもおすすめです。グループの活動が持続可能で楽しいものになるだけでなく、個人的にも人付き合いの幅が広く、奥が深くなり、人生がより味わい深いものになることでしょう。

 また、オープンスペーステクノロジーやワールドカフェなどのクリエイティブなミーティング手法を積極的に採用し、たとえ大人数でも全員が主役として終始情熱を持って取り組めるよう配慮します。これらの方法は、各人のポテンシャルや創発性を促進するよう設計されているため、12ステップにもあるワーキンググループの立ち上げにも自動的につながります。

 TTに役立つノウハウ集は、常にバージョンアップされています。その最新版を2日間で身につけるプログラムがトランジション・トレーニングです。名前に似合わず東洋的な哲学/心理学的アプローチがバックグラウンドにあり、ここだけの話、TTのみならず、すべての市民活動家におすすめしたいです。

<心と身体も持続可能な運動を目指す>

◆運動を通じて自己実現すると

 そうですね。グローバリゼーションのもたらす危機を煽って、「ローカリゼーションしていかなくてはいけない!」と大上段に訴えるのではなく、12ステップの中にも出てくる言葉ですが、むしろ「流れにまかせる」ことこそTTの本質なのだと思います。

 メディアが伝えていない事実や様々な選択肢を提供はするけれど、何を選び行動するのかは各個人、各TTに委ねる。グループでわいわいやっているうちに、当初目指していたのとは異なる方向に進むことになるかもしれない。「それじゃ計画と違う」と無理矢理もとに戻す予定調和的な進み方ではなくて、自然に流れる方向に向かっていってもいいじゃないかと。

 例えば私の活動しているTT小金井は、現在日本ではもっとも都市型のTT。TT藤野やTT葉山にくらべ、食料自給率がかなり低い。キューバのハバナのように空いている土地を農地化していこうと思っても、どこまで自給率を上げられるかは疑問。メンバーたちが主体的にいろいろ考え行動していった結果、もしかしたら「集団移住しよう」という話になるかもしれない。それでもいい、みんなから出てくるものに導かれよう、というのがトランジションの考え方だと思います。

 スウェーデンの環境NGOナチュラル・ステップの創始者カール・ヘンリク・ロベールは、バックキャスティングを提唱しています。あらかじめゴールのイメージを想定し、ヴィジョンを描いておいて、そこから逆算して現在の行動を決めていくやり方です。目先のことだけに振り回されるのではなく、遠い将来も見通して行動していく上で必要な考え方で、TTもこの考えをベースにしています。

 でもバックキャスティングが絶対的ルールとしてあたかもノルマのように機能しだすと、「燃え尽き症候群」のリスクが増大し、活動している人たちは持続可能ではなくなってくる。「失敗しにくいノウハウ」のひとつとして、メンバーの心身の健康への配慮や、そのための方法論や事例が、TTではとても重要な項目と考えられています。

 「ここにいなくてはいけない」とか、「ここを何とかしなくてはいけない」ではなくて、自分たちの内側から自発的に出てくるものを大事にしていくことが第一です。みんな心の中では考えていても口に出していないことや実行してないこと、そういうポテンシャルをどんどん引き出していけば本来的な方向におのずから導かれていくはずだと思います。

<地に足をつけてジモティーでいこう>

◆ブログでも情報を発信されています

 TTにしてもローカリゼーションにしても、なじみのない横文字でちょっと取っつきにくいと感じる人も多いかも。ブログタイトルにある「ジモティー」は少し前に流行った言葉でいい感じに古くなってるし、ダサさも含めひっかかりととっつきを評価し、わざと使っています。

 都会に住んでいると、大地や周りの人たちとつながっている感覚が希薄になります。今は地方もそうかもしれませんが、そんな喪失感のなかで仏教ブームが起き、ヨガやスピリチュアルなものが流行り、OLさんが田植えに行くのが流行になったりしています。ローカルにいる心地良さ、大げさに言えば、八百万の神などに通じるような感覚の大切さが再発見されているのだと思います。

 そんななかで、とりあえず自分のジモトでつながるのは今すぐ出来ること。例えば、チェーン店のコンビニやスーパーではなく、ジモトで家族経営しているお店に行ってみる。実際にやってみると、そういうつながりってすごく気持ちよかったりする。そんな具体的なアクションを進めていくきっかけとして、ジモティーという言葉があってもいいのかな、と思うわけです。

 TTと似たローカリゼーション的な活動は日本にもたくさんありますが、これらをひとくくりにする一般名詞がまだありません。無数の小さなNPOが、同じ事を訴えながらそれぞれ異なる固有名詞やキャッチフレーズを使い、同じ名前でそれらを呼ぶことがないために、今もっとも求められているはずの重要な解決策を手にしながら、細かな砂粒たちはバラバラと指の間からこぼれていく・・・共通した未来像としてひとつの大きな像を結ぶことができずにいます。今ものすごく待たれているのに、世の中に存在感をもって示すことができないでいます。 

 どんな名前であれ、たとえばエコビレッジのように、一般名詞としてだれもが使える言葉が必要。TTじゃなくても、ジモトでも地域力でもなんでもいいので早く一般名詞化させ、だれもが自由に使えることが重要です。一般名詞が登場したら、似たようなさまざまな活動どうしの望ましいつながりが急激に増え、人的流動性やおたがいのいいトコどりなど、もっと自由に動き出していく・・・そのときを楽しみに活動を続けていきます。

PROFILE▼なかぞの・じゅんこ
お茶の水女子大文教育学部卒業後、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして国際カンヌ広告フェスティバル銅賞、日経広告賞、読売広告大賞など受賞多数。現在、IYC(インターナショナル・ヨガセンター)インストラクター、ワークショップ通訳。EDE(エコビレッジ・デザイン・エデュケーション)運営委員。トランジション・ジャパン、クリエイティブ・ディレクター。高尾山を守る運動を支援する。翻訳書に『ヨガ・マーラ アシュタンガ・ヨガの実践と哲学』(産調出版)。

(1291号 2009年5月10日発行)

『Actio』最新号特集「ローカルが楽しい」では、トランジション藤野とトランジション葉山の活動を紹介しています。
  

 

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