少子高齢化に対応する雇用と福祉を

急速に進む高齢化、非正規労働の若者の増大。福祉・介護の労働現場の実態を『働きすぎる若者たち』で告発した甲南大学教員の阿部真大さんに聞いた。

阿部真大さん

<デッド・エンド・ジョブの福祉業界>

◆『働きすぎる若者たち』が話題となりました

 大学院博士課程で労働社会学を専攻していた2004年から2005年にかけて、ティーチング・アシスタントとして富山・秋田・千葉・神奈川の特別養護老人ホームで聞き取り調査を行いました。

 当時は、集団ケアによる高齢者介護は人権を無視すると問題になっており、厚生労働省がユニットケア、いわゆる大部屋ではない個室ケアの流れを打ち出していました。僕はそのユニットケアを先進的に行っている評判の良い特別養護老人ホームをフィールドに選びました。

 ユニットケアは利用者にとっては非常に質の良いケアですが、調査により若い職員や男性職員は労働条件に対し強い不満を持っていることが分かりました。従来の集団ケアに比べ死角が多くなるからです。

 本来ならば大部屋で看るよりも1人当たりの人員を増やさなければいけません。しかし介護報酬が非常に低く抑えられているので人員が増やせない。大部屋で見渡して対処できたことが、個室になって逆に見えない部分が多くなり対処できなくなったのです。現場を離れられない一種のアリ地獄状態になり、トイレにも行けず膀胱炎になってしまう職員も多いとのことでした。

 「そもそも介護の現場は低賃金なので人が集まらない。自分たちがやめたらこの人たちはどうなるんだ」。人手不足のために労働が過酷になり、そのためさらに人手不足になる。そういったジレンマの中でケアワーカーが働かざるを得ない状況に追い込まれていた。利用者側の視点だけでなく、労働問題として介護の問題を考えなければと本を書いたわけです。

◆福祉業界に入る若者は減少しています

 NHKなどの報道で実際の介護労働の現場を知ったり、僕の本を読んだりするとそこに行こうとは思わないですよね。福祉業界がまだ夢をもって語られていた時代は人が集まったかもしれませんが、ある種先のないデッド・エンド・ジョブ(袋小路職)であることが明らかになってしまった。

 人手不足で介護報酬が低いのは相変わらず。介護報酬は今年の4月から3%アップしましたが、実質的な賃金の上昇に繋がってない。そんな状況でわざわざ2年の専門課程を経て介護福祉士になろうとは思わないでしょう。

 今は人手不足が深刻化していて、施設はあっても稼働していないところが多いと聞きます。それで外国から労働者を入れる動きが加速しているのです。

 実は80年代から介護の現場に限らず低賃金サービス業は非常に大きな問題でした。しかし担っていたのは主婦と学生のバイトで、特にケアの現場は基本的に主婦のパートが担っており、労働問題として前面には出てきづらい状況だった。

 日本の家族モデルは、女性が家庭の中で再生産労働を担い、男性が女性を扶養する形で企業から手当が出る。その枠内に日本型福祉社会論があった。ところが近年その図式が崩れてしまった。若い人たちが、学校から正社員へと進むパイプから漏れ落ち、ケアの職場や年長フリーターといった非正規労働にどんどんあふれ出してきたのです。

★続きは『Actio』1294号(2009年8月1日発行)で!

あべ・まさひろ
1976年生まれ。甲南大学専任講師。専攻は労働社会学・家族社会学・社会調査論。著書に『搾取される若者たち』(集英社新書)、『働きすぎる若者たち』(NHK生活人新書)、共著に『若者の労働と生活世界』(大月書店)、『グローバリゼーションと文化変容』(世界思想社)、『合コンの社会学』(光文社新書)、翻訳『キャリアラダーとは何か』(勁草書房)など。

 

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