TomDispatch January 8,『Oil2009:Be Careful What You Wish for』

TomDispatch(http://www.tomdispatch.com/)1月8日号に掲載されたマイケル・T・クレアの記事を紹介。同氏は大学で世界平和と安全保障を研究しながらNGOヒューマン・ライツ・ワッチとアームズ・コントロール・アソシエーションの理事を兼任。石油依存からの脱却を訴えている。(訳・水澤努)

 

 つい先日まで、石油価格は歴史的な高値を記録していた。昨年7月7日号のウォールストリート・ジャーナルは「石油価格は1バレル200ドルの大台に乗るか」なる見出しで記事を掲載し、石油価格高騰が「アメリカ経済全般に莫大な負担を強いる」と警告した。

 だが今日の石油価格は1バレル40ドル強、昨年7月の3分の1以下となっており、2009年中に25ドルまで下落すると予測する経済学者もいる。これはナイジェリア、ロシア、イラン、クウェート、ベネズエラなどの石油産出国にとっては大きな打撃だが、不景気に苦しむアメリカの消費者には思わぬ幸運となる。

 しかし、単純かつ重要な現実を忘れてはならない。その価格がどうであれ、石油は2009年においても2008年同様、世界に大きな影響を与える。なぜなら、好景気であれ不景気であれ、石油は世界のエネルギー供給に大きなシェアーを占め続けるからだ。

 代替エネルギー開発にも関わらず、少なくともこれからの数10年間、石油はエネルギー源としてトップの座をキープするだろう。2008年12月の米エネルギー省予測では、石油は2015年においてもアメリカのエネルギー総供給量の38%を占め、天然ガスと石炭を合わせても23%にしかならない。

 バイオ燃料やその他の代替燃料の使用が増大するにつれて石油への依存率は少しずつ減少しているが、2030年になっても依然として最も支配的な燃料であり続けるとエネルギー省は予測している。

 世界的にも同様な状態だ。バイオ燃料や他の再生可能エネルギー資源は重要な役割を担うと期待されているが、数10年間は石油が最重要エネルギー資源であることに変わりはない。だから石油をめぐる政治に注目していれば、世界で何が起こっているかはすぐに分かる。

 現在の低価格状態は石油産出国にとっては不利で、ベネズエラ、イラン、ロシアなどアメリカが敵意を抱いている諸国に打撃を与えている。近年これらの国々は急増したオイルマネーを利用して、アメリカの利益に反する政治的活動への資金的サポートをおこなってきた。しかしながら石油価格の急落は、メキシコ、ナイジェリア、サウジアラビアなど石油産出国の連携基礎を揺さぶっている。

 これらの諸国は石油収入が減少するにともない、国家の収入も減少している。石油価格の下落は海洋掘削のベンチャー事業に冷水を浴びせ、非食用植物の新たなバイオ燃料開発への投資を鈍らせる原因となっている。

 おそらく石油価格下落で最悪の影響を受けているのは、太陽光、風力、潮力など、汚染もなく地球温暖化を促進することもないオルタナティブエネルギーの開発だろう。長期的に見るとどうなるのか。

 ひとたび世界経済が回復に向かったら、エネルギーオプションが限られてしまうので、新たなオイルショックが訪れることになる。石油の影響から逃れられないことは明白なのだ。それがどんな形で現れるかを知るのは難しいが、ここに石油の運命に関する3つの暫定的な予測を示したい。それはまたわれわれ人類の運命に関する予測でもある。

<再高騰までは低価格が続くだろう>

 確かにこのタイトルはまるで意味がないように見える。しかし他に言いようがないのだ。世界的なリセッションへの突入により需要が急速に萎んだため、石油価格はこの4ヶ月の間に底値をついた。2008年春から夏に起きた記録的高値に再度向かうことは、需要が好転するか世界的な規模で劇的な石油減産が起きるまでありそうもない。残念ながら、現時点でそれがいつなのかを予測することは不可能だ。

 石油需要の収縮は驚異的な規模で起きた。昨年の夏まで上昇する一方だった石油需要は、秋口に急落に転じ、日量数10万バレルずつ減少した。2008年全体では日量5万バレルずつ減少したことになる。エネルギー省は、今年は日量45万バレルを大きく越える規模で石油需要が落ち込むと予測している。2年続けて世界の石油消費が減少したのは30年ぶりだ。

 言うまでもなく、今回の石油価格暴落は想定外だった。世界の石油産業は産出能力を着実に増大し続け、2009年もその予定だった。1980年のリセッション以降、国際的な石油需要はほぼ毎年上昇し続けてきたので、今後もそうであると誰もが信じていた。ブッシュ政権による強力な圧力の下、サウジは昨年6月産出能力をアップし、さらに日量250万バレル付け加えることを明らかにしていた。

 今日、石油産業は余剰生産と需要不足に苦しめられている。石油価格が暴落するのも当然である。昨年12月17日OPECは日量220万バレルの減産を決定したが、これさえ価格上昇をもたらすことはできなかった。どこまで需要と供給のアンバランスは続くのだろうか。

 ほとんどのアナリストは、年末までではないにしても、本年中頃までは続くだろうと考えている。本当に需要が回復するのは2010年か、それ以降までは無理だろうと予測する者もいる。それは、どれだけリセッションが根深く、長期に渡るものなのかにかかっている。

 重要な要素は中国の石油消費量だ。2002年から2007年の間に世界の石油消費量の伸びの35%は中国が占めていた。さらにエネルギー省によると、今後10年間に石油消費量の伸びの24%は中国が占めると予測される。急増する中国の消費、相変わらず続く先進国の石油需要、価格高騰を予測しての投機マネーの流入、これらが昨年夏天文学的な規模で価格が上昇したことの理由とされてきた。

 しかし中国経済が目に見えて落ち込んできている今日、こうした予測はもはや無効となった。多くのアナリストは、中国での需要の急速な落ち込みは今後も世界経済に減速をもたらすと予測している。こうした条件下、早期の石油価格上昇は望めないだろう。

<一度上昇し始めたら価格は急騰する>

 現在、世界の多くの消費者は想定外の石油余りを享受しているが、これにも問題がある。価格が低迷する限り、石油会社はコストがかさむベンチャー部門に投資するインセンティブを持てない。つまり新たな石油生産能力を開発できずに、減産だけが続くことになる。このことは、再び需要が急増し始めた時には供給が追いつかなくなることを意味する。

 『Financial Times』のエド・クルークスは指摘する。「石油価格の下落は危険な鎮痛剤中毒のようなものだ。短期間の安堵は長期間の害悪と引き替えに得られる」。石油生産投資の減退はすでに急速に進行している。

 例えば、サウジアラビアは4つの主要なエネルギー・プロジェクトの遅延を発表した。これは将来の石油増産計画が大きく遅れたことを意味する。これらの計画の中には12億ドルを投入した歴史的なベンチャー事業であるダマン油田プロジェクトや、日量90万バレルを産出するマニファ油田プロジェクト、ヤンブとジュベイルにおける新たな石油精錬所の建設などが含まれている。いずれも原因は国際的な石油需要の低迷だ。「われわれは投資家と新たな経済状況について相談しなくてはならない」とアラムコの社員カレド・アルブレイクは語る。

 加えて今日では、簡単に採掘できる石油はほとんどなくなってしまった。世界に埋蔵されるすべての石油は採掘が困難なものばかりなのだ。これらは、原油価格が現状の1バレル50ドル以下にとどまる限り、採掘にかかる費用が高すぎて採算がとれない。

 これらは主に、カナダ、メキシコ湾、ギニア湾、ブラジル海域など沖合のタールサンドから採取されるが、1バレル80ドル以上にならないと利益を生まない。つまり石油価格は現状の倍になる必要がある。このような状況下、石油メジャーズはカナダやその他沖合での新たな油田開発プロジェクトをキャンセルあるいは延期している。

 アラブ首長国連邦のモハメド・ハミルエネルギー相は、昨年10月ロンドンで開催された石油産出国会議で、「石油価格の低迷は世界経済にとって非常に危険だ。現在進行中のプロジェクトの多くは見直されるだろう」と語った。石油業界が投資を削減しているので、世界経済が再生した時、増大する需要に応えるだけの石油生産能力が準備できない。

 エネルギー省による最近の予測では、石油価格は2010年に1バレル78ドル、2015年110ドル、2020年116ドルになる。もっとずっと急速かつ高値に向かうと予測するアナリストも存在する。特に石油需要が急増し、凍結されているプロジェクトの再開が遅れた場合はその危険が大きい。

<価格下落も世界経済を混乱させる>

 2003年から2008年までの石油価格の着実な伸びは、世界的な石油需要急増の結果であると共に、エネルギー産業が十分な石油量の供給に困難を感じたことの結果でもある。多くのアナリストはピークオイルの切迫を警告しているのだ。

 ピークの時点から石油産出高は後戻りのできない下落へと向かう。それゆえ石油消費国は石油資源確保に向け凄まじい努力をしており、アメリカ、ヨーロッパ、中国などの企業はアフリカやカスピ海の油田採掘権獲得に向けて必死に駆け回っている。

 確かに石油価格の下落にともない石油の過剰感が生まれる中で、この熾烈な競争は沈静化する傾向にある。しかしながら、そうした状況にあっても石油が国際政治への影響力を失うわけではない。それどころか、実際に低価格の石油が新たな形で国際政治を攪乱している。石油消費国の競争は弱まったかもしれないが、石油産出国で否定的な政治状況が間違いなく拡大しているのだ。

 アンゴラ、イラク、メキシコ、ナイジェリア、ロシア、サウジアラビア、ベネズエラなどの国の予算は石油輸出に大きく依存している。これが医療、教育、インフラの改善、食料やエネルギーへの補助金、その他の社会福祉プログラムを支えてきた。

 例えば、エネルギー価格高騰によって産油国の若年失業率は低下し、政治的な安定度も増した。だが価格暴落によって、すでに政府は貧困者、失業者、中流階級への支援策の予算削減を強いられ、世界中で政情不安の原因となっている。

 例えば、ロシアの国家予算は石油が1バレル70ドル以上の場合にのみ収支のバランスがとれる。収入が減るにつれ、クレムリンは国家債務の返済や危機に陥った企業の救済のため、堆積油層の掘削を強いられている。さらにルーブルの下落は事態に拍車をかけている。エネルギー大国と呼ばれた国の資金が急速に枯渇しつつあるのだ。

 失業率は増大し、多くの企業は資金を節約するために労働時間を圧縮。プーチン首相の人気はいまだ高いが、国民の不満は噴出し始め、公共交通料金の値上げなどへの抗議行動が散発的に起きている。

 石油価格の下落は天然ガスを独占するロシア最大の企業ガス・プロムを直撃している。この1社だけでロシア政府の税収の約4分の1を納めてきた。天然ガスの価格は常に石油価格とリンクしてきたので打撃は大きい。CEOアレクセイ・ミラーの見積もりによると、天然ガス価格は昨夏3600億ドルだったものが、今日では850億にまで下落した。

 石油価格の急落はまたイラン、サウジアラビア、ベネズエラの政情にも大きな影響をもたらしている。これらの国々もまた昨夏までの石油価格高騰の恩恵をうけ、公共事業を興し、生活必需品を援助し、雇用を創出してきた。ロシア同様、これらの諸国も石油価格が永遠に1バレル70ドル以上で推移するとの前提で、大盤振る舞いの予算を組んできたのだ。

 今や産油国はおしなべて堆積油層を掘り進めるしかなくなった。債務だけが増え続け、公共事業や社会保障は削減される。それらはみな国内の反政府勢力を活性化させ政情不安をもたらす原因となっている。

 例えば、イラン政府はガソリン等エネルギーへの補助金をうち切る計画を発表した。このことは失業率と生活費の急上昇をまねき、人々は不満を募らせ、反政府気運が全国に広がっている。サウジ政府は当面は堆積油層の掘削に頼り、予算のカットはしないと約束したが、同様に失業率は上昇している。

 クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など産油国の不景気は、エジプト、ヨルダン、イエメンなどの非産油国にも影響を与える。というのも好景気の時、これらの国々の若者たちは高い賃金を求めて産油国に移動してくるが、不景気になると最初に解雇されるのは彼らだ。ほとんど雇用のない本国へ送還されることもしばしばある。

 これらの事態がイスラム人口の急増を背景に起こっており、その中でエジプトのムバラク大統領やヨルダンのアブドラ国王など親米勢力の支配を、「アラブの裏切り者」と批判する急進的な勢力も伸張している。こうした状況と最近のイスラエルによるガザへの壊滅的な攻撃、およびこれへのアラブ諸国の生ぬるい対応を合わせて考えるならば、さらに反政府気運が高揚し暴力の発動は避けられなくなる。しかし例えそうなったとしても、誰もその背景に石油が絡んでいるとは思わないかもしれない。

 深刻な不況に襲われた世界において、主要な産油国を巻き込んだ嵐のようなエネルギー危機はこのように別の形であらわれている。それがいつどこで爆発するかは予測できない。だがそれは、次にやってくる石油価格高騰の時代をより苦難に満ちたものにするにちがいない。

 そう、確実に、石油価格は高騰する。おそらく数年後、いっきに上昇してこれまでの最高値を更新するだろう。その時われわれは、2008年の春から夏にかけてと同様、需要の急増と供給不足による石油価格急騰に直面する。いかに現状の石油価格が低迷していようと、石油依存のツケは必ず回ってくる。

(1287号 2009年3月10日発行)

マイケル・T・クレア著の『血と油』

 

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