スポンサーの圧力を信頼関係ではねかえそう

 3月15日上野水上音楽堂で開催された「バカでもできるもん!! 環境作戦会議」。トークセッションのテーマの一つは、「覆面記者とお忍び政治家が語る!マスコミ・政治家の取扱説明書」。出演したのは『週刊SPA!』の北村尚紀さん、元新聞労連委員長の明珍美紀さん、フリーライターの志葉玲さん、前衆議院議員の阿久津幸彦さん、そして覆面で登場した某民放テレビ局ディレクター。虔十の会代表坂田昌子さんのコーディネートで行われた活発な議論を載録する。(文責 編集部)

  

「バカでもできるもん!! 環境作戦会議」

<読者がメディアを支える>

坂田 今日のイベントでは6つの大問題を取り上げました。東京・高尾山トンネル、沖縄・泡瀬干潟のリゾート開発、沖縄・東村高江の米軍ヘリパッド基地建設、群馬・八ッ場ダム、青森・六ヶ所村再処理工場、山口・祝島の上関原発の6つです。

 このどれもテレビや新聞、雑誌などのメディアではなかなか取り上げてくれないし、政治家も取り組んでくれない。そのため、メディアや政治家には期待できないと思っている人も多いのではないでしょうか。その点について、実際にメディアや政治の現場に身を置く立場からどうでしょうか?

志葉 私はフリーランスで活動していますが、フリーの立場でも企画を通すのに苦労します。例えば東京電力の悪口を某ビジネス誌で書いたら、連載がそっくりそのままなくなってしまった。でもそんなことに屈せずに仕事を続けていくしかない。フリーランスだからこそどんな問題でも取り上げ続ければ、読者や編集者のなかから応援してくれる人が出てくる。そうなれば「もっとがんばろう」と勇気が湧いてきます。

志葉玲さん

北村 『SPA!』誌上では様々な社会問題を取り上げてきました。いろいろと制約はありますが、その枠の中で可能なことはたくさんあると思います。企画の出し方や記事の書き方で可能性は広がります。もちろん様々な圧力もあるし、スポンサーの縛りもありますが、圧力をかけられず、スポンサーも怒らせないで出す方法を探るわけです。私なりにそれを色々工夫しながらがんばってきました。

 例えば去年初めて原発関連の企画をやりました。実現するまで30回も40回も没になり続けていたんですが、やっと実現できた。取材を続け企画を出し続けていれば、そのうちいいタイミングがやって来ると思います。

明珍 新聞の場合、全国紙はそれぞれの地域に支局がありますね。そこで働いている記者が皆さんとの一番身近な接点です。各記者は非常に熱心ですし、問題意識もそれなりにもってはいますが、なかなか皆さんの声に対応しきれていないのが現状です。人数の問題もあるし、記者の興味の問題もあるでしょう。

 でも私が記者の一人として実感するのは、例えば坂田さんみたいにいつもメールをくれてイベントの紹介をするような非常に熱心な人がいると、やはりそちらの方に目が向き、どんどん関わっていくようになることです。ですから、「マスコミは取り上げてくれない」とのお気持ちはあるかもしれませんが、諦めずに発信していくことが大切です。また、それに対して私たち記者の側もなんとか応えようとする姿勢が必要だと思います。

明珍美紀さん

<政治家は世論に敏感>

坂田 みんなマスコミは何でも知っていると思っていますが、実際には様々な情報をもらわないと分からないことがたくさんあるんですよね。政治家もそうじゃないですか。

阿久津 私は2000年から2005年まで衆議院議員を2期務めさせていただきましたが、前回の郵政解散、小泉ブームの時に落選してしまいました。前衆議院議員ですから元政治家ということになりますが、その経験から申し上げます。

 政治家は全ての案件を知っているかと問えば、全然そうではありません。官僚からレクチャーを受けますが、国側の考えだけです。新聞などを読んだりもしますが、自分で調べないとよく分からない。

 私の場合、最初に関わったのは八ッ場ダム建設問題です。これは民主党内でも大きな問題になっていたので取り組みやすかった。治水の名目でダムが造られる計画ですが、その治水計画が実にいい加減です。上水道をやりくりすれば水の供給には全然困らないことが実際に調べてみて初めて分かりました。

阿久津幸彦さん

坂田 阿久津さんの選挙区は東京24区八王子ですが、取り組んだのは高尾山ではなく八ッ場ダム問題だったんですね。

阿久津 八ッ場ダムは取り組みやすかったのですが、高尾山は違いました。衆議院選挙は小選挙区ですから地元が重要です。小選挙区は1人区なので共産党さんの票から自民党さんの票まで幅広く取らないと1位で当選できません。どうしても賛成派と反対派がはっきり別れる地元の問題を扱うのは難しい。その点群馬県は地元ではありませんから、八ッ場ダムはやりやすかったわけです。

 ただし「高尾山の自然を守りたい」との意見は八王子市民の8割にもなります。一方「圏央道があった方が便利」と考える人もやはり8割ぐらいいるわけです。ですから「圏央道反対」をテーマにすると政治家は取り組みにくいのですが、「高尾山の自然をみんなで守ろうよ」だったら関わることができます。

志葉 たいてい政治家の方は、世間の反応を見てますよね。マスメディアがどれくらい騒いでいるか、だったらこれはやった方がいいと、冷静に損得勘定している側面がある。良心的な政治家が一人で動いても、仲間が集まらなければなかなか上手くいきませんからね。やはりその意味でも、メディアがどう取り上げるかは重要な判断材料だと思います。

阿久津 マスメディアは反対派の意見と賛成派の意見を並列して書けばいいかもしれませんが、政治家の場合は最終的にどちらかにハンドルを切らなくてはならない。ですからマスメディアが取り上げれば取り上げるほど、仲間が大勢いればいるほど関わりやすくなります。支援者が多く、なおかつ影響力のある人が後押ししてくれると政治家はずっと問題に取り組みやすくなりますね。

 それと今時の政治家は、テレビで取り上げるとなれば必ず動きますね。あるいは委員会で質問をしたら、新聞や雑誌が書いてくれるのなら必ず動く。常に世論を見て判断する。例えば、高尾山はミシュランガイドの三つ星に指定されました。それだけで世間の目は変わって、高尾山の自然を守るのが一種のトレンドになります。そうすると政治家も動きやすくなる。

 あと皆さんへのお願いですが、例えば6つの問題があったとして、6つ全部皆さんと一致するのは難しい。でも1つでも2つでも協力できるなら、マイ政治家として使ってもらいたい。そんな風に懐を広く深く持っていただけると、政治家は乗っかりやすいですね。

<コミュニケーションが大切>

坂田 ところで皆さんにとってこの6つの問題の中で一番取り上げにくいのは何でしょうか。

坂田昌子さん

覆面テレビディレクター 
 ぜんぶ取り上げにくいですね。不況になってますます難しくなっていて、スポンサーがらみの問題はすごくやりにくいですね。東京電力さんなんてテレビ局の大スポンサーです。さらに原発は国策じゃないですか。

 今年に入ってからも原発問題でもめました。過去に放送したものをもう一回使おうとしたら駄目だとなった。ある意味で前よりも厳しくなっています。自分の番組でなくても、同じ局の他の番組に関連するスポンサーが入っていたらかなり厳しいですね。

某民放テレビ局ディレクター

北村 私の場合は六ヶ所ですね。『SPA!』ではスポンサーの圧力はありませんが、取り上げる切り口が難しい。

明珍 新聞の場合、現場で取材している記者でスポンサーのことを気にする人はほとんどいないと思います。膠着している問題を書けるかどうかは、記者の力量と企画力の問題だと思います。

阿久津 一番取り上げにくいのは、原発と米軍ヘリパッドの問題ですね。原発は国策なのでかなりデリケートですし、米軍問題も小沢一郎民主党代表が第7艦隊の話をちょっとしただけで大問題になってしまう。

 民主党が政権をとっても外交は継続します。することになります。江戸時代に締結した不平等条約を明治時代になってもなかなか解消できなかったのと同じで、米国と約束したことはそのまま生き続けるわけです。その意味で米軍の問題は、政権を目指す野党には特に取り上げにくい問題です。

坂田 そういう障害をかいくぐってうまくマスコミや政治家を動かすにはどうしたらいいのでしょうか。例えば激励メールとかは効果ありますか。

北村 昨年の高尾山特集や女性の貧困問題、今年1月のパレスチナ問題などを通じてどんどんメールが来るようになりました。それにより、「こういう企画をやっていいんだ」という実感が自分だけでなく編集部の中にも出てきました。

 読者の意見が直接届く機会はなかなかないので、メールは単なる1票ではなく、投票率0・1%の中の1票、かなり重みのある1票になっています。バスケットのポストプレーのように、その1票で更に先に進めるきっかけになります。

北村尚紀さん

覆面テレビディレクター  テレビの場合はメールの効果は期待できないですね。テレビはスポンサーと視聴率が命です。スポンサーを敵に回すのはかなり厳しい。たとえそれをかいくぐって放送しても、「じゃあ視聴率はどうなんだ」となります。

 番組は1分毎に視聴率が出ます。例えば、以前レバノン攻撃を放送したとたんに視聴率はウナギ下がりになってしまった。そうすると「もう2度とやらない」となる。だからみんなに観てもらって視聴率を上げるしかありません。

 現場で番組を作っているスタッフはすごく問題提起したいのですが、なかなかできない。程度の差はあれ、新聞や雑誌も同じだと思います。問題意識を臭わせるような番組を、「ぜひそれを汲み取ってください」って気持ちを込めて作ります。できればそれを「テレビはダメだ」の一言でナデ切らないで欲しいですね。

志葉 覆面さんの正体は知っていますが、非常に真面目な人で、危険な現場にも何度も行っています。実は彼のような人は、テレビ業界の中にかなりいます。私は講演などでは、「今のマスメディアはだらしがない」とさんざん文句言ってますが、一方で覆面さんみたいな人がいるのも分かっています。

 ですから、それこそメーリングリストでもつくって「今日これ放送したぞ」、「応援メールしよう」みたいに激励したらどうでしょう。エコな人たちも「祭り」みたいな感覚でメディアに対していろいろ意見を言った方がいいですよ。テレビで原発の問題をやるとすぐに東京電力から電話が来ます。環境を破壊する側は常に圧力をかけ続けているんです。こっちの側も声を上げないと。

明珍 新聞労連で「市民とメディア」プロジェクトを組んだことがあります。読者の皆さん方は新聞記者の顔が見えないだろうから、それならば私たちが前に出ていって皆さんと一緒にいろんなことを考えていこうと。シンポジウム形式で北海道から沖縄まで地域ごとに開催し、多くの市民とコミュニケーションできました。

 やはり市民とのコミュニケーションがとても大事ですね。知リ合いの新聞記者がいればいいですが、いなくてもいろんなところに誘ってみる。イベントでもいいし、食事会でもいい。ひるまずにどんどん突きつけていくことが必要です。

阿久津 政治家の場合は直に突進した方が効きますよ。例えば、私は八王子市内で定期的に街頭演説をしていますが、演説の時に近づいてきて、「実は今度話を聞いて欲しい」と言われればその場でOKです。その後メールが届けばさらにバッチリです。

 私自身、高尾山問題がぎりぎりの状況にあると知り、舵をぐっと切ろうと思ったのも、坂田さんと会って意気投合したからです。「このお姉ちゃん面白いじゃないか」って思ったことが大きい。そういう顔の見える人間的なつながりが一番大切な気がします。

坂田 そうですね。参加者のみなさんも「マスコミ」「政治家」は、「とりあげてくれなーい」ってぼやいてないで、関心のある記者や政治家にどんどん突っ込んでいきましょうよ。今日、こうやって来てくださってるのだから、会場でこの方たちをみかけたらすぐ声をかける!(笑) みなさん、今日はありがとうございました。

(1289号 2009年4月10日発行)