上関原発予定地(長島・田ノ浦)での自然観察会 堀切さとみ
豊かな海が生物とのつながりを実感させる
3月7日、山口県上関原発の建設予定地、長島・田ノ浦の海岸で行われた自然観察会に参加した。主催した「長島の自然を守る会」は、10年前から地道に観察会を行い、環境保護を訴えてきた。3月中に埋め立てが開始されるかもしれない状況のなか現地を訪ねた。
柳井港から祝島行きの定期船に乗り、集合場所の蒲井港で降りると、そこはまさに秘境とよぶにふさわしい場所だ。なんという透明な海。その美しさにおもわず溜息がもれる。
港で車に乗り合わせ、山道を上り「人々のつどいの家」に向かう。原発に反対する人たちが作ったログハウスだ。到着すると地元の人だけでなく、生物学者、大学教授、フリースクールのスタッフや小学生、カヌーイストなど、全国から40人以上が集まっていた。
昼食をはさんで、海洋生物学者の新井章吾さんの話を聞く。今回の観察会は、3月上旬の1週間だけみられるスギモクの生殖活動に立ち会うことが目的だ。
スギモクは杉の葉に似た海藻。普段は海底の砂に埋まっているが、繁殖期間だけはゆらゆら左右に踊るように起きあがり姿を現す。日の光が差し込むと黄金色に輝き、「風の谷のナウシカ」に出てきた金色の草原のようになるという。
新井さんは数年前に田ノ浦で300メートルにおよぶスギモク群落を確認。本来は日本海の固有種であり、瀬戸内海で繁殖しているのはかなり珍しい。淡水が湧いている海底にしか生育できないため、絶滅箇所が増えている。
波が高いので全員が漁船に乗れず、磯の観察に行くグループと二手に分かれる。私は漁船に乗ったが、海上は白波が立ち船は大きく揺れた。
新井さんが海に潜り、スギモクのあるところまで案内。船上から身を乗り出し、箱メガネで海をのぞく。くすんだ黄土色のスギモクが揺れている。海底の砂はまっ白で、「ニホンタナモグリ」の開けた小さな穴がたくさんあいている。
近年、瀬戸内海は汚染がすすみ、干潟も半分に減ってしまった。そんな中、ここはスギモクをはじめ様々な希少生物が生育している。脊椎動物の祖先といわれる「ナメクジウオ」も、砂をすくっただけでたくさん出てくる。長島には干潟や湧水の源となる林がきれいに残っているからだ。
再び「つどいの家」に戻る。鹿児島大学教授の佐藤正典氏が、磯観察グループの採取した生き物たちを前に、「これは珍しいなあ」と目を輝かせ説明していた。全国の干潟の生物調査をしている佐藤氏は「原発の温排水は、海水の温度上昇を招くだけでなく、生物に甚大な影響を与える」と指摘。
小さな生き物は取水口に注入される生物付着阻止剤(次亜塩素酸ソーダ)の有毒作用にさらされ、続いて復水器の配管内部を通過する際に、急激なヒートショックをうける。これによって多くの稚魚や微生物が死滅してしまうのだ。
「原発が温暖化対策に寄与するというのは、あまりに短絡的。環境問題はもっと複雑に絡み合っている。その複雑さはこの小さな生き物たちをみてもよくわかる」
守る会代表の高島美登里さんは「2006年にこの海でボーリング調査が行われた後しばらくは、海水がとても濁った」と語る。「環境に悪影響はない」と一方的に言い張る中国電力や山口県に対し、科学的な調査結果を示すことで環境を守ろうとしているのだ。
昨年12月、「守る会」は「上関自然の権利訴訟」を提訴した。スナメリやカンムリウミスズメなど、長島の生態系のすばらしさを象徴する6種の生物、そして人間が原告となった裁判だ。
小さな生き物たちを皆殺しにすることなど、県や事業者は何とも思わないかもしれない。けれども一度でいいから、このような観察会に一緒に参加してほしいと思う。あらゆる生物たちが、互いにつながり合っているのを実感できるからだ。
最後に磯でとったばかりの貝やナマコなど自然の恵みを堪能しながら、こんな素晴らしいところを潰していいのかと、あらためて思った。
