土井敏邦 パレスチナ記録映像4部作完成記念シンポジウム 編集部 温井立央
占領の構図を伝えないメディア
2月28日、ジャーナリスト・土井敏邦さんのドキュメンタリー『パレスチナ・届かぬ声』(仮題)が、東京都内で上映された。昨年末から今年初めにかけてガザはイスラエルに攻撃され、1300人を超える死者と数千人の負傷者を出す大惨事となった。そのガザから帰国したばかりの土井さんと日本女子大学教授の臼杵陽さん、「朝日新聞」元中東総局長川上泰徳さんのシンポジウムも行われ、会場の明治大学リバティホールは満席となった。
土井さんは、オスロ合意後の1993年10月、ガザのジャバリア難民キャンプで撮影を開始。その後パレスチナ・イスラエル双方を取材し、イスラエルの「占領」を立体的に描く4部構成の記録映画を完成させた。今回はそのダイジェスト版の上映。
第1部は、PLOとイスラエルの「和平合意」が、本当の和平につながらない様子を描く。封鎖によってイスラエルに従属せざるを得ないパレスチナの経済構造が明らかにされた。
第2部は「イスラエル化するパレスチナ」。冒頭、イスラエル当局が東エルサレムのパレスチナ人住居を「違法建築」を理由に破壊する様子が映し出される。当時のエルサレム市長オルメルトは、「イスラエルはユダヤ人国家だ」と明言。70%以上を占めるユダヤ人の人口比率を維持するためにパレスチナ人の住居を破壊し、IDカードを没収するなどの差別政策をとった。まさにエルサレムのイスラエル化である。
さらにイスラエルは分離壁を作り、パレスチナ人の土地を奪う。フェンスが作られ、自分の土地に行くのにも通行証明書を提示しなければならない農民たち。通すか通さないかは兵士しだい。しかもイスラエルはブルドーザーでオリーブの樹を勝手に引き抜いていく。「占領」とは、パレスチナ人の日常生活を破壊し、住めなくさせることだと分かる。
第3部は自爆テロの背景を描く。土井さんは「ハマスの行っているテロは許されない。しかしなぜパレスチナ人がテロをしなければならないのか考えて欲しい。そして個人ではなく国家のテロをきちんと認識する必要がある。今回のガザ攻撃は戦争ではなく国家レベルのテロ」と指摘。映画は、ハマスの自爆テロ被害者とイスラエルの攻撃による被害者の両方を描き、ユダヤ人の考える和平「シャローム」とパレスチナ人の考える和平「サラーム」の違いをあぶり出していく。
第4部の「沈黙を破る」では、元イスラエル兵士がこれまで語られることのなかった占領の実態を語る。「18歳の若者が銃を手にし、自分の両親や祖父母ぐらいの年齢のパレスチナ人を好きなようにできる。それが次第に快楽になってくる」「退屈、無感動が高じるにしたがい暴力もエスカレートしていく。精神が退廃し、転げ落ち、元に戻れなくなる」。モラルの荒廃が国家の存在をも危うくしていると訴える若者の姿が印象的だ。
上映後は、映画作家ジャン・ユンカーマンさんのコメントを挟んで、ガザ現地の報告。爆撃から10日間経っても燃え続けている白リン弾、目の前で両親や子どもを殺された人々。そして破壊されたビニールハウス、セメント工場、畜舎などが映し出される。イスラエル軍は撤退する12時間前にガザ市東部の工場地帯を徹底的に破壊した。これはハマスとは何の関係もなく、パレスチナ人の経済基盤を破壊するためだけにおこなわれた。
こうした攻撃をイスラエル国民の90%が支持しているが何故なのか。市民へのインタビューを通じ、その心理が明らかにされていく。「我々はガザから撤退した。なのに彼らはもっと要求してくる。この攻撃はハマスの攻撃を止めさせるため。我々は彼らを罰しているんだ」。
何百人のパレスチナ人が殺されていることを知りながら、多くの人は攻撃を正当化する。これはパレスチナ人の姿を見えなくさせる分離壁の結果だ。映像を見た川上泰徳さんは「イスラエル人は占領を意識しなくなっている。西岸の入植地に行くのもパレスチナの村を通らずに行けるよう道路が高架になっている。封鎖され食料もない壁の向こう側のことは報道されない。報道されるのは向こうから飛んでくるハマスのロケットのことだけ」と語った。
土井さんは最後に「パレスチナ人に必要なのは援助ではなく、人間としての尊厳です」と力強く訴えた。
