泡瀬干潟の生物多様性は日本一 世界自然遺産に匹敵する海の埋め立てを直ちに中止すべき 水野隆夫さん
1月15日、多くの反対を押し切り沖縄・泡瀬干潟のサンゴの海へ土砂投入が始まった。昨年11月那覇地裁は「埋め立て事業に経済的合理性は無い」と事実上の埋め立て中止を命じたが、司法判断は完全に無視された。「泡瀬干潟大好きクラブ」代表の水野隆夫さんに聞いた。
<地裁判決を無視し、埋め立て続行>
◆サンゴの海に土砂投入が開始されました
泡瀬干潟は沖縄本島の東側にあり 沖縄最大の貴重な干潟です。しかし内閣府沖縄総合事務局は1月15 日、隣接する新港地区で浚渫(しゅんせつ)した土砂のサンゴの海への投入を開始しました。
撮影:泡瀬干潟を守る連絡会共同代表・小橋側共男氏
1区工事として約96ヘクタールを埋め立て人工島を造成する計画です。埋め立ては2002年から始められ既に6年くらい経ちますが、今回はこれまでで最悪ですね。泡瀬干潟と浅海にはサンゴだけでなく貝類、甲殻類や海草藻類など貴重な生物がたくさん生息していますが、これではみんな死んでしまいます。
やんばる地域のサンゴも、農地開発などで流出した赤土により大きな被害を受けていますが、今回の被害はその比ではありません。もろに土砂をかぶるわけですから。しかも浚渫の土は質の一番悪い土です。昨年10月から11月にかけて不可思議なことに、工事主体の内閣府ではなく沖縄市が、埋め立て予定地内から2トン近くのサンゴを勝手に移植するという暴挙に出ました。すでに多くのサンゴが死にかけています。
埋め立て事業に対して那覇地裁は昨年11月19日、 画期的な判決を下しました。約580人の県民らが原告となった裁判ですが、判決は「埋め立て事業に経済的合理性は無い」と断じました。そして「工事は地方自治法・地方財政法に違反する違法なもの」であり、「県知事・沖縄市長は今後、埋立事業に公金を支出してはならない」と明確に判断したのです。
推進側は想定外の展開にそうとうショックは受けたようです。この裁判所の決定は彼らに重くのしかかっています。しかし、国は直接の被告でないからと工事を強行しています。被告の沖縄県と沖縄市はただちに12月2日に控訴に踏み切りました。
撮影:泡瀬干潟を守る連絡会・嘉陽宗儀氏
◆海の生命は助かりますか
まだ手遅れではありません。今、工事を中止すれば自然はまだ生き返ります。内閣府は工事を中断し、ずさんな環境アセス調査をやり直し、工事による生物や環境への悪影響を緊急に調査すべきです。この埋め立て工事の表看板は環境との共生であり、環境に十分配慮して進めるとのことでしたが、実はその逆でまさに環境偽装と言えます。世界の宝ともいえる貴重な生き物たちの楽園である浅海を、内閣府が単なる土砂捨て場として埋め殺しつつあるのです。
今、北海道の旭山動物園が日本一の入場者数年間300万人を誇り北海道活性化のシンボルになっていますが、ここ泡瀬の浅海には旭山動物園とは違う本物の大自然が展開する生き物たちのドラマがあります。守り、残せば全国のエコツーリズムのメッカになり沖縄活性化のシンボルになることでしょう。
島根県宍道湖の干拓淡水化事業は39年間続き、約850億円を投じて全体の90%が終了していたのに、2002年に中止が決定し、昨年には堤防の完全撤去が完了しました。熊本県の蒲島知事も、「現在民意は川を守るよう選択している」として、国が1966年に計画を発表した川辺川ダムの建設について反対を表明しました。淀川水系の4ダム建設にも三重、滋賀、京都、大阪の4府県知事が国に建設中止を求めています。
昨年7月、泡瀬干潟の素晴らしさを多くの人に知ってもらおうと、東京・銀座で写真展を開きました。その際、辺野古と間違えている人がほとんどで泡瀬干潟埋め立て問題のことを首都圏で知らせる活動の必要性を痛感し、それが昨年12月23日高尾山の虔十の会と共催の「海と山LOVELOVEシンポジウム」に発展しました。
決してあきらめずに内閣府に対して埋め立て中止を要求して多くの声を送りましょう。内閣府のホームページ(http://www.cao.go.jp)に皆さんの意見の書き込みをお願いします。またはハガキを書いてください。宛先は 〒100―8970千代田区霞が関3―1―1 内閣府沖縄振興局振興第三担当です。
<市民の過半数は反対している>
◆なぜここを開発する計画が?
当初の構想は、陸続きで219~340ヘクタールの海域を埋め立てるものでした。しかし1989年に地元の団体から海岸線と砂州を保全する要望が出て、沖に人工島を作る出島方式に変更になりました。確かに出島方式になったことで砂州は残されますが、浅い海域への被害はより甚大なものになります。
にも関わらず2002年、沖縄総合事務局は多くの市民の反対を押し切って埋立事業を開始しました。認可面積は約187ヘクタール。第1区域が96ヘクタール、第2区域が91 ヘクタールです。埋立事業費は約489億円で、昨年度までに約199 億円投入されています。
着工当時オーストラリアの環境大臣やラムサール条約の事務局長、生物系の多くの学会などから埋め立て中止の要請が出されましたが、ことごとく無視されました。本土復帰後沖縄本島の干潟は 次々と埋め立てられ、残された泡瀬干潟は今や沖縄で最大になりました。
そもそも埋め立て計画自体、バブル時代の産物で完全に時代遅れの計画です。それを闇雲に強行しようとすることに無理があります。
2006年4月の沖縄市長選挙では、「埋め立て積極推進」の候補者が破れ、「検討委員会を立ち上げ検討する」と公約した東門美津子市長が誕生しました。しかしながら2007年12月東門市長は全体の半分、第1区域96ヘクタールだけに限り埋め立てを容認したのです。東門市長は埋め立ての中止を願う市民に支持されて市政に就いたわけですから、この決定に多くの市民は怒りました。
新聞社やテレビ局はこれまで何度もアンケートを実施していますが、毎回埋立反対が賛成の2倍以上です。最近では泡瀬の自然の素晴らしさが浸透し、反対が賛成の10倍近いはずです。
◆環境に配慮すると弁明していますが?
それは、事実とはかなり違います。政府は環境監視委員会と環境創造委員会の2つの委員会を作っているだけで、委員が2人も嫌気がさして辞めています。日本自然保護協会と沖縄県野鳥の会の委員はまだ残っていますが。工事による環境への影響を指摘して、工事を一度中断すべきと発言しても無視されています。
昨年4月には地域の自然環境・観光資源の保全をめざすエコツーリズム推進法が施行されました。沖縄県は観光立県が重要な柱です。泡瀬こそエコツーリズムに最適なのです。
しかも去年は国際サンゴ年だったんですよ。キャッチフレーズは「知ろう行こう守ろう」。政府も積極的にこのキャンペーンを行い、夏に開かれた洞爺湖サミットでは「環境」を大々的に取り上げました。その裏でこんな酷い環境破壊を行っている。言ってることとやってることが余りにも違いすぎます。
撮影:泡瀬干潟を守る連絡会共同代表・小橋側共男氏
<生物のゆりかごを守りたい>
◆絶滅が危惧される種も多数います
意外と知られていませんが、泡瀬干潟は海の生物多様性では日本一なのです。干潟を歩けばカニの大行進、群れ飛ぶ渡り鳥、泳ぐコダコ、そよぐ海草藻場、サンゴとクマノミなど多くの生き物たちに出会えます。冬の夜は海ほたるが光る。本当にたくさんの命湧く干潟と浅海なのです。
鳥類はこれまでに165種が確認されていて、うち渡り鳥が多くを占めています。ムナグロの越冬数は日本最大で、泡瀬干潟は東アジアの渡 り鳥の重要ルートですから、世界各国と結んでいる「渡り鳥条約」を遵守する意味でも保全は重要です。貝類は340種以上、海草や藻類は合わせて139種確認されています。
しかも沖縄県が2005年に発表した「レッドデータおきなわ」には、泡瀬周辺に生息する動物だけで、貝類108種、魚類6種、甲殻類7種の計121種が記載されています。特に絶滅危険度の高いのは、世界で沖縄にしか生息しない藻類のクビレミドロです。埋立は確実にこれらの命を奪うことでしょう。その前に工事を止める必要があります。
たくさんの貴重な生き物が生息するだけではありません。干潟は昔から地域の人々の生活を支えてきました。様々な貝の仲間やアオサやモズクなどの海草も採れる。沖縄戦の時、沖縄の人々はイノー(珊瑚礁に囲 まれた浅い穏やかな海のこと)の恵みで飢えをしのいだのです。干潟は歴史的に地域の暮らしを支えてきたのです。今でも休日ともなると、潮干狩りを楽しむ多くの市民でにぎわいます。
まさに泡瀬干潟は地域の宝物、沖縄の財産なのです。希少種の生息地として環境保護や観光資源として、そして生活の糧を得る場として。泡瀬の浅海の埋め立ては、沖縄振興のもっとも大切な源を沖縄県民から今、奪うことになるのです。内閣府沖縄振興局や沖縄総合事務局は一体、何のためににあるのか、自らの行動を振り返って反省する時が今です。取り返しがつかなくなる前に立ち止まって埋め立てを中断すべきです。
◆経済振興にはつながりませんね
彼らはいつも「沖縄振興のため」と大義名分を主張する。埋立でリゾートを建設すれば経済振興になるとの理屈です。しかしこの開発は自然を破壊するだけで、経済的にもまるで展望がないことはもう誰の目にも明らかなんです。
リゾートにしたくても、実際数年前に108社を対象にアンケートしたら反応があったのはたった2社だけ。ホテルなどを誘致できる展望などほとんどない。
この計画について第三者機関の沖縄県包括外部監査人は、「将来性がない」「需要予測が甘い」と断言しています。自然を破壊して作られたリゾートに、観光客が5泊するわけがありません。そんなデタラメな経済効果を想定して、埋立工事を強行しているのです。そもそも観光客が沖縄に期待するのは美しい自然です。それを壊したら元も子もありません。
埋立が始まり約6年ですが、今まで作った施設はそのままエコツーリズムの施設としても使えます。本当にこのままふるさとの宝の海を埋め立ててしまって良いのか。後世の子孫たちから、なぜ立ち止まって埋め立てを止めなかったのですかと問われて、推進派の人たちは答えられますか。
<3月17日にシンポジウムを開催>
◆サンゴ礁は人を惹きつけます
高校時代から自然保護に興味がありました。当時、週刊誌で厚生省国立公園部にレンジャー(自然保護官)の仕事があるのを知り、それに就いて一生自然に囲まれて仕事をするのが夢になりました。北海道の大自然の中で学びたいのもあって、名古屋出身ですが北海道大学に入り、厚生省の国立公園部になんとか就職できました。後の環境庁、今は環境省です。
そこでながらく自然保護官の仕事に就きました。西表国立公園を手始めに、利尻、西表、雲仙、箱根など、36年間で日本を1往復半しました。自然保護は私の天職だと思っています。そうはいっても現職の時は国家公務員ですから、思う存分には活動できなかった。その分、今がんばらなくては思っています。
じつは学生時代、インドネシアの海を訪れサンゴ礁の美しさに見とれて、思わずカメラを持っているのを忘れて海に飛び込んでしまったことがあります。そして定年退職を沖縄で迎え、そのまま、沖縄に永住を決めました。現役の頃から、何とかしたいと気になっていた泡瀬干潟と浅海の保護に取り組み始めました。
◆上京してからだいぶ経ちますね
1月初め埋め立て中止デモ行進のため上京し、早くも1ヶ月が過ぎました。当初はデモ行進と1月15日のサンゴの海への土砂投入に抗議する座り込みが終わったら、すぐ沖縄に帰る予定でした。しかし沖縄では出来ないマスコミや国会議員などとの関係作りや多くの人々とのネットワーク作りをやらねばと気づき、今後も長期で首都圏で活動しようと決めました。
泡瀬干潟埋め立て中止につながる情報や泡瀬干潟の自然について知りたい個人や団体ありましたら、ご連絡ください。3月17日には都内で泡瀬干潟埋め立てシンポジウムを開催します。 最後にたいへん恐縮ですが、東京滞在が長引いてカンパなどのご支援があるとたいへんありがたいです。よろしくお願いします。
【郵便振替】
泡瀬干潟大好きクラブ
01750-2-74545
撮影:泡瀬干潟を守る連絡会共同代表・小橋側共男氏
【シンポジウム】「救え泡瀬干潟とサンゴの海」
〈日時〉3月17日(火)18時開場 18時30分開演
〈場所〉全国教育文化会館エデュカス東京7F(地下鉄有楽町線麹町駅下車2分)
Phone.03-5210-3511
〈主催〉泡瀬干潟大好きクラブ、泡瀬干潟を守る東京連絡会
〈連絡先〉水野隆夫 090-1944-0345
※泡瀬干潟とサンゴの海の素晴らしさを知りたい人におすすめしたい絶好のガイドになるもの2つ紹介します。こんな素敵な場所を土捨て場として埋め立てる内閣府沖縄総合事務局と沖縄振興局は一体何を考えているのかと感ずるはずです。
①写真絵本(写真集)「こんにちは泡瀬干潟」 2000円 送料340円
②泡瀬の自然映像DVD「四季 泡瀬干潟」 1000円 送料200円
希望する方は、送料を添えて泡瀬干潟大好きクラブの口座に振り込んで下さい。
PROFILE▼みずの・たかお
1944年名古屋生まれ。北海道大学 水産学部卒業。環境省自然保護官(知床、西表、箱根など)として36年間で日本列島1往復半。自称「幸せな渡り鳥」。定年後、泡瀬干潟を守る活動を開始。沖縄県今帰仁村在住。「泡瀬干潟大好きクラブ」代表。
