映評『食の未来』(デボラ・クーンズ・ガルシア監督作品) アグリビジネスに支配される世界の農業
遺伝子組み換え食品がもたらすリスクのとめどない拡散
この映画は、遺伝子組み換え食品にまつわる様々な問題を取り上げている。
遺伝子組み換え食品については様々な議論がある。「人に害はない」と主張する研究者もいる一方、遺伝子組み換え大豆をラットに食べさせ出産させたところ、子ラットの51・6%は生後3週間で死亡したとする報告もある。
アメリカでは、害虫を殺す遺伝子を組み込んだ殺虫剤不要のジャガイモが、食品としてだけでなく農薬としても商品登録されている。つまり私たちは知らず知らずのうちに農薬を食べているかもしれないのだ。汚染米どころの話ではない。
日本の食料の大部分は、遺伝子組み換え食品を大規模に生産するアメリカに頼っている。本当に安全なのか? まずはこの映画を見て考えてもらいたい。
<世界一緩い日本の表示義務基準>
現在日本で表示を義務付けられている遺伝子組み換え作物は、大豆、とうもろこし、じゃがいも、菜種、綿実、アルファルファの6つの農産物。しかし実際にスーパーの店頭に並ぶのは、包装に「遺伝子組み換えでない」と記されたじゃがいもだ。「遺伝子組み換え」と表示された作物をわざわざ買う人はほとんどいないから、表だって売られてはいない。
遺伝子組み換えの大豆、とうもろこし、じゃがいもを加工した31品目の加工食品も表示が義務づけられている。豆腐・納豆・味噌・おから・コーンスナックなど、実に身近な食品を含む。問題は、表示されていないからといって完全に遺伝子組み換え作物が除外されているわけではないことだ。
厚生省のホームページには、「含有量がごく少量な場合まで表示を義務づけることは現実的でなく、何らかの線引きが必要であるが、当面JAS法と同様の整理で、全原材料中重量が上位3品目以内で、かつ、食品中に占める重量が5%以上のものに限り義務表示とする」と記載されている。この「上位3品目内、5%以上」という表示義務基準は、本場北アメリカ以外では世界一甘いものだ。
さらに遺伝子が検出できないとの理由で、表示義務が免除されているものがある。たとえば日常必需品である食物油。ナタネ油の80%はカナダ産の遺伝子組換えを原料としている。ゆえにナタネ油からつくられたマーガリンやマヨネーズ、あるいは植物油で揚げた菓子などには、当然にも遺伝子組換え作物が原料として含まれている可能性が高い。ポテトチップスのじゃがいもは遺伝子組換えでなくとも、揚げた油は組換えかもしれないのだ。
私たちが毎日口にする油や醤油に大量の遺伝子組み換え作物が利用されているにも関わらず、表示はされない。また牛や豚の飼料にも表示義務も利用制限もない。組み換え飼料を食べた家畜からとれる肉や乳製品を、私たちは毎日食べていることになる。
<モンサントが独占する種子販売>
なぜこれほどまでに遺伝子組み換え作物が増えたのか? この映画は、北米におけるアグリビジネスの実態を赤裸々に暴いている。私たちの食は、遺伝子組み換え作物の種子を独占的に販売している一握りの企業に支配されつつあるのだ。
どんな農業も、種を植えその果実を獲得し、その一部を翌年植えるために種とするサイクルで成り立ってきた。この当たり前のことが、北アメリカでは通用しなくなっている。
1980年、石油を分解する微生物の特許取得が初めてアメリカで認められた。これをきっかけにアメリカでは、あらゆる遺伝子の特許登録が可能になった。以降、デュポン社とモンサント社は、植物の種子や動物やヒトの遺伝子を次々と特許登録したのだ。
1998年、カナダのある農家はモンサント社から突然特許違反で訴えられた。同社が特許登録している遺伝子組み換えのラウンドアップ・レディ・キャノーラ(ナタネ、ナノハナ)を勝手に栽培していると訴えられたのだ。この訴えは、毎年収穫した種を翌年植えつけてきた農家にとっては「寝耳に水」の事態だった。
しかし裁判では、その種をどのように取得したかではなく、特許取得されている種が現実に栽培されていることが問題だと判決が下り、農家は所有していた450kgの種を処分せざるを得なかった。
今やアメリカ、カナダではほとんどの種子が特許登録されており、モンサント社から遺伝子組換えした種を購入しなくては農業を続けることができない状況だ。モンサント社は遺伝子組換え技術により、一代限りしか発芽しないターミネーター技術や、薬剤を一緒に使わなければ種子としての機能を果たさないトレーラー技術を種子に組み込んでいる。ゆえに農家は、嫌でも毎年同社から種子や薬剤を買わなければ営農できない。
そのツケは、私たちの食卓にも確実に忍び寄っている。
<遺伝子汚染のリスクが高まる>
モンサント社の種を買ってもいないのに、なぜカナダの農家は特許違反で訴えられたのか? 原因は遺伝子汚染かもしれない。
遺伝子組換え作物が発芽・開花し、その花粉を昆虫が運ぶことで、周辺の作物が受粉すればどうなるのか? 既に日本国内でも、海外から輸入された種が配達の途中にこぼれて発芽したらしいものが確認されている。
たとえ農家が不耕起や無農薬で有機作物を作ったとしても、昆虫が組み換え作物の花粉を運んできたら防ぎようはない。そして一度遺伝子汚染の被害にあえば、農家は加害者であるモンサント社などの種子会社から種を買わなくては営農できない。こんな滅茶苦茶なことがまかり通りつつあるのだ。
そのモンサント社がターゲットとしているのは北米だけではない。すでに日本でも種の支配へ向けて動き出している。モンサント社の支援を受けた人物は、茨城県、滋賀県、岐阜県の3県で遺伝子組換え大豆の試験栽培を実施しているらしい。
特別な外来種でなければ、自分の土地に自分の所有する種を植えること自体を裁く法律は日本には存在しない。ヨーロッパ各国では自国農業を守るため、遺伝子組み換え作物を導入させない政策を採用しているが、日本政府には食料に関するセキュリティ意識はまったくないようだ。軍事同様、アメリカの要求を受け入れるだけのようだ。
ともあれ、このままでは私たちが想像もしないような「食の未来」が待ち受けているかもしれない。強い警鐘を鳴らす映画だ。
(山咲唯一)
