原発の温排水は大量のCO2を海洋から放出させる 温暖化対策に逆行する原発輸出をストップしよう STOP!劣化ウラン弾キャンペーン 久保田誠
地球温暖化の防止に向けた京都議定書は、今年からいよいよ排出ガスの削減実行期間に突入した。日本は2012年までに1990年比でマイナス6%削減する義務を負っている。しかし実際には京都議定書の成立・批准後も日本の排出は増え続け、06年には90年比でプラス7%に増加。削減義務達成は事実上困難な見通しだ。
こうしたなか政府は3月28日、「京都議定書目標達成計画」の全面改訂版を閣議決定し、「発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電については、地球温暖化対策の推進の上で極めて重要な位置を占める」と明言した。
原発推進によって温室効果ガス削減の遅れを補おうとする日本政府のエネルギー政策を抜本的に覆すことが問われている。
<原発のCO2排出量は高稼働率が前提>
原発を温暖化対策の切り札として位置付けようとする日本政府の姿勢は、世界的にも際立っている。
2月8日、内閣府の原子力委員会に設けられた「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇談会」が、「温暖化対策として現時点で最も有効な大規模電源である原子力エネルギーの利用を、世界の模範となるようにして進展させる必要がある」とした報告書案を提示した。
マスメディアでも、原発が温室効果ガス削減に大きく寄与すると印象づける論調は強まっている。今年1月の「日経エコロミー」には、安井至氏(国連大学副学長、東大名誉教授)の以下のコラムが掲載された。
「原発の運転状況は、(温室効果ガスの削減に)実に大きな影響力を持っている。設備利用率というが、大体75~80%程度である。1998年度には、この設備利用率が84・2%に達して、そのため、1998年の温室効果ガスの排出量はかなり低い。最近の状況は、かなり悪い。2005年度、2006年度では、それぞれ71・9%、69・9%に過ぎない。2007年度は果たして何%になるのだろう」
こうした主張の背景には、電力会社や電気業界が積極的に発表している排出量データが存在する。テレビCMでも「原子力は、発電時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーです」と宣伝され、多くの人はなんとなく信じてしまう。
図1は、電事連(電気事業連絡会)や各電力会社などが公表した、電源別(発電方法別)キロワット時あたりのCO2排出量の比較グラフ。このグラフは、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)に基づいて、発電時だけではなく施設の建設から燃料の採掘、製造、輸送、設備の保守など、関連する事業全体の排出量も集計している建前。
石油や石炭、LNGといった化石燃料を燃やす火力発電と比べれば、原発の温室効果ガス排出量が少ないのは当然。問題は、「自然エネルギー」の主力となっている太陽光発電や風力発電よりも、原発のCO2排出量が下回っていること。これを見て「原発は自然エネルギーの太陽光や風力よりも排出量が少ないから素晴らしい」と受け止めている人も多いだろう。
確かに原発は発電時、より正確には核分裂反応ではCO2を出さない。しかし、巨大な施設の建設や保守管理で多量のエネルギーを消費する。キロワット(電力)あたりのCO2排出量が低いのは、原発の出力が桁違いに大きいからに他ならない。
当然にも「大出力かつ高稼働率で回る」ことが前提とされているから、逆に稼働率が下がればキロワット(電力)あたりのCO2排出量は急激に上がる。つまり、「発電時にCO2を出さない」という原発の「メリット」は、発電を停止してもLCAベースで排出されるCO2は減らない「デメリット」を意味する。実際に原発は止まっている時の方が、大規模な点検や修理・改修工事を行うからCO2が増加する。
図1のグラフ・データを作成した電力中央研究所は、90年代後半の高稼働率(80%以上)時のデータを採用している。しかし国内原発の稼働率は、03年以降相次ぐトラブルやデータ偽装問題などで60%以下~70%前後の状態。さらに昨年夏以降、中越沖地震で柏崎刈羽原発は全基ストップしたまま。稼働率は相当低くなっていると推測できる。
電力会社は、太陽光や風力などの自然エネルギー発電を「気象状況によって左右される安定的でない電力」と評している。しかし原発もまた現在の技術レベルでは、「不安定な電力」。しかも「地震の巣」である日本列島に原発が建っている以上、技術的にリスクを回避する道は閉ざされている。どんな巨大地震にも耐える原発がたとえ技術的に可能だとしても、莫大なコストがかかり到底実現不可能だろう。
国策として遮二無二原発を推進することを止め、再生可能エネルギーの開発にこそ、資金や技術を投入すべきだと思う。
<温排水は森林伐採以上にCO2を増やす>
さらに図1のグラフ・データには、もっと大きな問題、いわゆる「温排水」の影響が隠されている。
運転中の原発は、発電タービンを回し終わった高温・高圧の蒸気を復水するため、大量の海水を冷却水として使う。蒸気から熱を受け取り暖められた海水は排水口から海に放出され、温排水となる。
例えば浜岡原発の場合、1基あたり環境中より7~8℃高い温排水が、なんと毎秒80トンも放出されている。京都大学原子炉研究所の小出裕章氏が指摘する通り、「原発は巨大な海温め装置」なのである。
そもそも発電=電気を作る過程はエネルギー効率が低い(ロスが多い)。とりわけ原発の熱効率は極めて低く、発生した熱量(エネルギー)の33%程度しか電力として取り出せない。つまり残りの3分の2のエネルギーは温排水となって捨てられているわけだ。最近の火力発電所は熱効率50%を超えているから、いかにロスが多いかが分るだろう。
日本の原発の年間発電量は、ここ数年約3億メガワット時。この倍に相当する6億メガワット時分の熱が温排水として海に捨てられた。これは実に約2万1600億トンの水を1℃暖めたのと同じ熱量(注1)。
(注1)0・278×10のマイナス6乗キロワット時=1ジュール。4・2ジュールの熱量は1グラムの水を1℃暖める。
途方もない数字なので、さぞかし地球を温めている印象を受けるかもしれないが、太陽光が地表に届ける熱エネルギーに比せばごくごく僅かで、これ自体は地球温暖化に直結する熱量ではない。
そもそも温暖化問題は、人類が放出する熱エネルギーが主要な原因ではない。原因は、温室効果ガスの濃度が上がることで地表から出る赤外線を閉じこめてしまい、太陽から受けた莫大なエネルギーを宇宙空間に逃がせなくなることにある。
だからこそIPCC(気候変動枠組み条約)とその下で発足した京都議定書では、温室効果ガス濃度の低減を目指して大きく二つの取り組みを提起した。一つは温室効果ガスの排出量を減らすこと。そしてもう一つは、森林などCO2の吸収源を確保すること。
ここでは、後者の吸収源について問題にしたい。一般に良く知られているCO2の吸収源は、熱帯林などの森林を主とした植物・土壌だが、実は地球上にはこれを上回る大量のCO2吸収源がある。それは、地球表面の70%以上を占める海洋だ。
IPCCの試算では、現在大気中に含まれるCO2が約7900億トンなのに対し、海洋中に吸収・蓄えられているCO2は約380000億トンと、桁が2つも違う。(図2参照ー「Global Carbon Project」和文パンフより)
海洋は人類が毎年放出するCO2の30%相当を吸収すると考えられており、これは植物・土壌の3倍以上に相当。しかし海水中に蓄えられているCO2は、水温が上昇する分だけ大気に放出される。よく冷えたビールや炭酸飲料はそれほど炭酸ガスを発泡しないが、ちょっと暖まると吹きこぼれやすくなるのと同じだ。
それゆえ人為的に海水温を上昇させれば、CO2排出と同じ意味を持つ。温度や濃度にもよるが、海水温が1℃上昇すると蓄えられていたCO2の2%程が放出されてしまう。つまり海洋を温めることは、熱帯林などの森林植物を伐採するのと同じく温暖化防止に逆行する。
日本沿岸の海水中CO2濃度に関しては、伊勢湾の南方あたり、東経137度線太平洋での気象庁による観測で、平均して340ppm前後。他の地域の濃度も同じくらいとみれば、原発の「海温め効果」=年間2万1600億トンの海水が1℃上昇することにより、実に年間で1470万トンのCO2を排出していることになる。(注2)
(注2)2万1600億t(1℃上昇する海水)×340ppm(平均CO2濃度)×2%(1℃上昇で放出される割合)≒1470万t
この量は、05年の日本のCO2排出量総計12億9200万トンの1・15%に相当。もちろん大気と海洋との間では常にCO2が循環しているし、温排水の温度も原発の排水口近くでは高く一様ではない。各原発サイト沿岸の海水のCO2濃度にもばらつきがあるだろう。正確を期すならば、温排水による海水の気化や海洋中の微生物に与える影響なども勘案しなければならないが、いずれにしろ「マイナス6%」の削減が目標とされている中でとても無視できない量であることは間違いない。
しかし現在の京都議定書の枠組みでは、温排水によるCO2の排出量は計算対象になっていない。議定書は化石燃料を主としたエネルギー消費自体を抑えることに主眼を置いているからだろう。
ところが日本政府はそれをいいことにして、「エネルギー消費を抑えなくても原発によってCO2は削減できる」と主張している。こうした手前勝手な主張を批判するためにも、図1で示されている原発の排出量「22g・CO2/キロワット時」には、温排水がもたらすCO2排出量「49g・CO2/キロワット時」を加算しなければならない。原発と同様、海水を冷却に使う火力発電の場合も加算しなければならないが、太陽光や風力発電には加算する必要はない。そうすれば、再生可能エネルギーの優位性はさらに明白となるだろう。
日本政府は真剣に温暖化対策・CO2削減を問題にするならば、原発の「海温め効果」による影響をきちんと研究・評価すべきだ。そうすれば、原発が太陽光や風力などの再生可能エネルギーよりも「優等生」だなどとは、とても恥ずかしくて言えないはずだ。
<温暖化対策を口実に原発が輸出される>
ところが日本政府は、国内での原発推進だけでなく、海外にも積極的に輸出しようとしている。
「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇談会」報告書では、国際社会に対して「原子力エネルギーをクリーン開発メカニズム(CDM)や共同実施(JI)等の対象に組み込むこと」、「京都議定書第一約束期間後となる2013年以降の次期枠組みにおいて、原子力エネルギー利用を有効な地球温暖化対策として位置づけること」を積極的に働きかけるべきと記している。
CDM、JIは京都メカニズムの主要部分だ。CDMは、先進国が途上国(削減義務を負っていない国)に対し投資や技術移転を行って排出ガスを削減した場合、その削減分を自国の排出権に加算できるとするもの。JIは、先進国間で削減の共同プロジェクトを行った場合の排出権の移動・取引を認めたもの。
京都議定書ではこのCDMやJIの実施において、原子力の利用は除外されている。米国や日本は原子力の利用を主張したが、当時の欧州連合諸国などは反対した。たとえ短期的には温室効果ガス削減に効果があったとしても、数百年から数千年の長期に渡る管理が必要な核廃棄物問題、放射能や事故のリスクを勘案すれば、「持続可能な社会」を目指す議定書の根本思想に相容れないと判断されたのだ。
しかしその後欧州では、ドイツでの政権交代にともない脱原発政策の見直しが始まるなどの変化が生じた。日本政府はこうしたタイミングを見はからい、「2013年以降の次期枠組み」においては原発を有効な温暖化対策として位置づけ、CDMやJIでの利用も認めさせたいと考えている。これにより国内で頭打ちとなった新規原発建設を、海外、わけても途上国で実現できれば、日本の原子力産業にとっては願ったりかなったりとなる。
昨年東芝は米原子力大手ウェスチングハウス(WH)を買収したが、世界の原子炉メーカーは三菱重工・アレバ(仏)グループ、日立・GE(米)グループ、東芝・WHグループの3者が独占しつつある。いずれも日本企業が中核を担っており、原発増設や新規導入を計画しているアジア地域に進出していくためにも、「温暖化対策」の錦の御旗を手に入れたいのが本音だろう。
既にこれまで研究や医療分野での放射線利用協力が主だったFNCA(アジア原子力フォーラム:日本、オーストラリア、バングラディシュ、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの10か国が参加)では、昨年「アジアの原子力発電分野における協力に関する検討パネル」が立ち上げられた。
12月に日本政府が主催した閣僚級会合では、「地球温暖化対策の枠組みにおいて、原子力発電の導入を促進し、原子力発電をクリーン開発メカニズム(CDM)等の対象とすべきこと」とする共同コミュニケが取りまとめられている。公式の国際会合で温暖化と原発についてこのように言及されたのは初めてのことだ。
2013年に期限を迎える京都議定書。それ以降の次期枠組みについての具体的討議が始まるのは、今年12月にポーランドで開催されるCOP14。日本政府はそこへの地ならしとして、7月の北海道・洞爺湖サミットやそれに先立つG8エネルギー担当相会合(6月青森)を準備している。
ここでFNCAのコミュニケを引き継ぐ声明を、ホスト国・日本政府が取りまとめようとする危険性は高い。こうした流れをストップさせるためにも、これまで脱原発運動が主張してきた原発の安全性や持続可能性の問題に加えて、「巨大な海温め装置=原発によるCO2の排出」の問題を広くアピールしていくことが問われている。
