映評『パレスチナ1948 NAKBA(ナクバ)』(広河隆一監督作品)
殺し殺される連鎖を断ち切る日はいつ訪れるのか
この映画は、フォト・ジャーナリスト広河隆一が監督・撮影したドキュメンタリー。パレスチナ人にとって「ナクバ」は、ちょうど60年前の1948年に起きた大惨事を指す。ユダヤ人によってイスラエル国家が誕生し、パレスチナ難民70万人以上が発生した。
私は5年前、この映画を製作するための「1コマ」サポーターズになった。「広河事務所に埋もれているビデオ映像数百本を編集するなんて本当にできるのだろうか?」と半信半疑だったが、映画完成の通知が届き、「よく5年で完成したな」と正直驚いた。
映画は、監督である広河自身の物語りから始まる。40年前、広河は平等社会の理想の実現をめざすユダヤ人農業共同体「キブツ」に共感し、キブツダリヤに暮らし始めた。その時、たまたま瓦礫を見つける。遺跡のように見える壊れた石の家。サボテンが雑草とともに茂っていた。
実はそこは、かつてパレスチナ人の村ダリヤトルーハだった。同様にユダヤ人の手により消滅させられた村は420カ所も存在する。彼はダリヤトルーハに住んでいたパレスチナ人を探し出そうと取材を重ねる。そしてかつて祖母が住んでいたと語る少女キファーとの交流が始まるが、彼女はパレスチナ解放運動に身を投じ、投獄されてしまう。身を案じる広河は再会を果そうとする。そのプロセスに私は引き込まれた。
占領に反対し、パレスチナ人との連帯を求めるイスラエル人のグループ「マッペン」。パレスチナ人、イスラエル人の分け隔てなく、地道に医療活動を続けるグループ「人権のための医師団」。こうした活動も紹介されており、観ているものにかすかな希望を感じさせる。
残念ながら現在、パレスチナ問題はますます複雑になっている。87年インティファーダ(民衆の抵抗運動)が始まり、93年にはパレスチナ暫定自治協定の共同宣言が調印(オスロ合意)された。しかしヘブロンでのパレスチナ人虐殺などを契機にハマスが台頭。イスラエル軍侵攻と自爆テロの応酬で多くの市民が犠牲になっている。
だがこうした混沌とした状況だからこそ、パレスチナ問題の本当の姿を多くの人に知ってもらいたい。この映画では、TVには決して映し出されないパレスチナの人々の様子や気持ちが丹念に描かれている。
殺し殺される連鎖は断ち切れるのか。難民はいつになったら元の村に戻れるのか。それは誰にもわからない。しかし隠された真実を照らし出すことで、観る者がパレスチナやイスラエルの人々を少しでも身近に感じられたら、この映画の意図は成功したといえるだろう。
60年ぶりに故郷の村を訪れたパレスチナ難民。人々の笑顔がこぼれるラストシーンだ。この笑顔をずっと見ていたいと思わせる作品だった。
(飯塚今日子)
