自給率39%の日本を襲ったギョーザ・ショック
病院給食も輸入食品に依存している
ある日の夕方、ニュースを見て仰天した。中国製冷凍ギョーザへの殺虫剤混入事件。なんと混入商品は拡大し、大騒ぎになっていた。
私は都内病院の栄養士だが、病院給食でも中国製冷凍ギョーザを使用している。ニュースを聞いた翌日、出勤して早速食品納入メーカーに問い合わせた。幸い私の病院で使用している食材に該当商品はなかった。メーカー側は、問題の天洋食品が製造した加工食品を一覧表にして各施設に発送するとのこと。事務長に報告し、ひとまず一段落した。
<中国産食品の輸入はストップ>
この事件、昨年12月28日千葉市で最初の被害が起きた。1月5日兵庫県高砂市の家族、1月22日には千葉県市川市の家族と、食中毒での入院が相次いだ。市川市の女児は一時意識不明の重体に陥ったらしい。
1月30日になり、一連の食中毒事件は中国製冷凍ギョーザへの農薬混入が原因だと判明。以降、数多くの殺虫剤入りギョーザが発見、回収された。回収品からは殺虫剤のメタミドホスだけでなくジクロルボスも検出された。いずれも天洋食品で生産されたものだ。
巷ではこの事件により中国産食品そのものの安全性を懸念する声が高まっている。しかし、不安が残るとはいえすべての中国製冷凍食品の使用をやめることはできない。病院給食でも、価格の安い中国からの輸入食品はなくてはならない存在なのだ。
医療費削減を目指す国からの保険収入は減っており、病院経営は厳しい。いかに食費を抑え、安全でおいしい医療食を提供するかは栄養科の最重要の課題。ところが、事態は収拾するどころか、ますます悪化する方向に進んでいる。
ギョーザ・ショックも少し落ち着いてきたある日、食品会社から一通の報告書を受け取った。中国からの輸入が事実上停止しているため、商品の安定供給ができないかもしれないと記したものだ。
それによると、中国CIQ(輸出検疫局)の輸出商品へのチェックが日々厳しくなっており、中国側では工場の再査察、検査の厳格化、輸出許可の保留が行われているそうだ。日本側でも検疫のモニタリング割合を従来の5%から20%に強化しているらしい。船積みのため既に港に運ばれたコンテナも差し戻して再検査を受けている。
さらに検査に合格した商品も、輸出許可がなかなか発行されない。こうしたなか山東省、福建省、河北省、黒龍江省、遼寧省は事実上輸出を停止している。中国政府から各省へは、「問題を起こさないように」と口頭で通達があり、「停止すれば問題はおきない」と考えている節がある。
中国産食品の輸入が事実上ストップしつつあるなか、国内産の食品をめぐって奪い合いが起きつつある。今まで中国産食品を使用していた大手外食チェーンなどは国内産食品を買い占めているそうだ。既に人参は3割ほど値上げした。彩りにはかかせない食材だけに手痛い。
<食卓から食品が消える日は近い>
食品の値上げラッシュの原因は、中国産食品だけではない。実はこの事件が起こる前に、食品会社からは値上げを通知する書類が届いていた。それを見て私は、「ついに食料不足のときが来たか…」と感じていたのだ。
値上げの主な理由は、以下の通りだ。
①生産量が需要に追いつかないために、原材料が高騰している。
②原油の高騰により資材、運送費、生産コストが上昇。
③人口の多いブラジル、ロシア、インド、中国が輸出国から輸入国に転落し、ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンも追随している。世界人口全体が増加している。
④穀物の燃料化=バイオエタノールの急増で3つの争奪戦が起きている。国家間では食糧の争奪戦。市場では食料がエネルギー資源として奪われている。農業と工業は水の奪い合いをしている。必要な量の水はなく、これ以上穀物を増産できない。
⑤温暖化により、かんばつ、洪水などの異常気象が頻発している。農地の砂漠化が進行し、家畜、家禽の餌や水産養殖場の餌が高騰。食料生産国の人件費も高騰し続けている。
つまり輸入に頼る食材はすべて値上げせざるをえないのだ。最大にして根本的な問題は、そもそも日本の食料自給率は僅か39%であること。
この自給率の低さは、先進国の中でも際立っている。1961年と2003年の各国の自給率(カロリー換算)を比較してみよう。オーストラリアは204%から237%、フランスは99%から122%、カナダは102%から145%、ドイツは67%から84%、イギリスは42%から70%に軒並み増加している。
それに比べて日本は78%から40%に急落した。昨年8月に発表された2006年の自給率は39%、世界175カ国中124位(2003年)だ。逆に言えば、世界人口の約2%に過ぎない日本人は、世界貿易で取り引きされる食料の10%を消費している。
2006年2月、農水省は経済財政諮問会議の求めに応じて貿易が完全自由化された場合の自給率を試算した。発表された数字はなんと12%。かってフランスのドゴール大統領は、「自国の食料を自給できない国は独立国家とはいえない」と語ったが、彼によれば日本は間違いなく独立国ではない。
日本と同じ島国のイギリスは、食料安全保障への危機感から国家の命運を賭けて農業育成に取り組み、大幅な自給率アップを実現した。戦後半世紀近くの間にイギリスは自給率を倍増させ、日本は半減した。この差はいったい何なのだろう。
<国を挙げて農業を支援するEU>
農産物自由化を迫るWTO(世界貿易機関)のグローバリズムは、日本農業の衰退をもたらした主要因であることは間違いない。だがWTOは、各国農業の維持のために国内農業助成枠のAMS(国内助成総量)を取り決めている。日本にはこのAMS枠が3兆9729億円確保されている。にもかかわらず、日本政府は18%分の7300億円しか使っていない(2002年)。
一方、アメリカ政府は75%、EUは64%を使って農業を助成している。例えばイギリスでは農家所得の71%、フランスは52%が政府からの助成金で賄われている。アメリカやフランス、ドイツでは農業所得に占める戸別所得補償の割合は40~50%だが、日本はわずか0・7%。さらにEUでは輸出補助金も出している。2003年の輸出補助金は5000億円に上る。
これに引き替え日本の農業はますます切り捨てられるばかりだ。農作物の生産価格が市場価格を上回るケースが相次ぎ、離農者が続出している。2007年8月に発表された農水省の米生産費調査によると、稲作農民の収入は時給に換算するとわずか256円。労働者の最低賃金(東京)の3分の1だ。そして農業で働く330万人の6割は65歳以上。今手を打たなければ日本の農業は壊滅する。
農業は食料安全保障の根幹であり、環境や農村の景観維持に大きな役割を果たしている。しかし、天候や病害のリスクをうけやすい。欧米のように所得補償して、国を挙げて支援する体制が求められている。
同時に無駄な道路で国中をアスファルトで埋めてしまうのではなく、都市農業大国キューバを見習って家庭菜園に取り組むのもいいかもしれない。食料不足に備えるセーフティネットを、各家庭にもつくる。そんなことが問われる時代は、もうすぐそこまで来ている。
横尾佐和(30代 栄養士)
