G8諸国は本気で貧困対策に取り組むべき アニル・シンさん
南アジアの人々は1日2ドル以下で生活している
2007年10月14日、2008年G8サミットNGOフォーラム主催の国際会議、「2008年G8サミットに向けて市民社会ができること」が開催された。プレゼンテーターはアニル・シンさん。
今日、世界の科学技術と経済は非常に大きく発展しています。にもかかわらず、なぜ私たちは未だに貧困問題を抱えているのでしょうか。
シャンパングラスを想像してください。グラスの上の注ぎ口は大きいですが、下の持ち手部分は非常に細く長くなっています。現在の世界経済を、縦軸を人口、横軸を富の量として表すと、まさにシャンパングラスのような形になります。
世界人口の20%に過ぎない富める人々は、世界中の富の80%を独占しています。世界でもっとも豊かな100の組織・団体のうち51を企業が占めています。残る49の国家に含まれない140カ国の資金は、民間企業51社よりも少ないのです。逆に言えば、これら51社は貧しい140カ国を買えるだけの莫大な資金を持っています。これが現在の世界の構図です。
さらに問題なことは、貧困はサハラ以南のアフリカと南アジアの2つの地域に集中していることです。この地域に住む人々は仕事をさぼっているのでしょうか? それとも資源がないのでしょうか? いいえ、この地域には豊富な天然資源が存在します。しかし貧しいのです。
教育水準が低いからでしょうか? 搾取のせいでしょうか? 世銀・IMFなどの国際機関が原因なのでしょうか? それとも不公平な貿易に起因するのでしょうか?
いずれにせよ、こうした問題を解決しない限り、貧困を撲滅することは困難です。
<インドでは06年10万人の農民が自殺>
さて南アジアの話に移ります。毎日1ドル未満で暮らす貧困ラインの人々はどの位いるでしょうか。バングラデシュは人口の36%、インドは34・7%、ネパールは37・7%です。
1日あたり2ドル未満の所得しかない人たちは、バングラデシュは人口の82・8%、インド約80%、ネパール80%強、パキスタン65%、スリランカ45%です。
ところでアメリカやヨーロッパにおいては、牛1頭につき1日当り2ドルの助成金が支払われていることをご存じですか? われわれの地域では、ほとんどの人々は1日2ドル未満で生活しています。これらの人々の価値は、家畜以下なのですか?
なぜ南アジアはこのような特異な状況に置かれているのでしょうか。アジア、アフリカでは6割から7割の人たちが農業に携わっています。だとすれば農業生産性が下がっているからこうした危機が起きているのでしょうか? いいえ、農業の生産性は下がっていません。
原因は農業政策にあります。投資が減っており、GDPの2%未満しか農業に投資されていません。
インドは世界で最も農業が産業の中心を占める国です。しかし農民の自殺率はとても高く、2006年だけで10万人が自殺しました。土地があるにもかかわらず自殺に追いやられているのです。
農業専門の科学者や政府は、農家に対して多角化を促しています。そのほうが儲かると薦めているのです。しかし、多角化を図って失敗すれば他のオプションは無くなってしまいます。そうなると農民は生きていけなくなってしまうのです。
<国連ミレニアム開発目標は余りに不十分>
飢餓についてはどうでしょうか。国連は2015年までに1日の所得1ドル未満の人口を半減させるミレニアム開発目標を掲げています。しかし現在飢餓にあえいでいる人々は、そもそも2015年まで生き残れるのでしょうか? 今この瞬間に食べるものがないのです。半減しかできないとすれば、半分の人たちは死んでしまうことを意味します。なぜこんな目標を設定したのでしょうか。
そもそも貧困をいかに定義するのかが問題です。所得に基づいてですか? それとも消費パターンですか? 全ての経済学者、政策立案者、計画立案者はこうした指標を使って貧困を定義しています。
しかしガンディーはほんの僅かしか消費しませんでした。所得もありません。従来の定義によれば、彼は最低レベルの貧困ライン以下で暮らしていました。にも関わらず彼は政治的・文化的にとても大きな力を、世界の誰よりも力を持っていました。私は従来の貧困の定義には問題があると思います。
その上で、果たして貧困を無くすことが出来るでしょうか? 私は可能だと思います。問題はそれをどうやって実現するか、誰がどういった役割を果たすべきかです。
まず一番苦しんでいる貧しい人たちはどうすれば良いのでしょうか。彼らは周辺に追いやられ、社会的に排除された地域に住んでいます。彼らは自らの権利を主張すべきです。それを主張しない限り、政府は彼らの権利を擁護することは決してありません。
そして政府はこうした貧しい人々の声を聞くべきです。市民社会は政府の行動を監視し、更に政府や国際機関、地元機関に対してアドボカシーを進めるべきでしょう。
私たちはよく、「企業とのパートナーシップ」を耳にします。確かに企業はある程度貢献をしていますが、まだまだ不十分です。企業はもっと大きな役割を果たすべきです。私たちはもっと企業に要求すべきなのです。
一人一人の市民にも果たせる役割があります。GCAP(Global Call to Action against Poverty)は9月17日から18日にかけて、人々が立ち上がって発言するように呼びかけました。これに応えて世界中で4000万近くの市民が貧困に抗議して立ち上がり、大きな声を上げました。皆さんは参加したでしょうか?
より多くの人たちがこうした運動に参加することが大切です。
<G8はより多くの援助を行い債務帳消しを>
南アジアに対してG8諸国がもっと援助するようにサミットで要求すべきです。
2007年春、ニューデリーでSAARC(南アジア地域協力連合)の会議が開かれ、南アジア諸国の指導者が話し合いました。G8はこのSAARCの資金である南アジア開発基金にもっと拠出すべきです。この会合では、南アジアフードバンクを作ることが決まりました。私たちは飢餓の問題に直面しており、フードバンクはそれへの対策です。G8諸国にこのフードバンクへの援助を要求します。
もう1つはG8諸国による債務帳消しです。前回のG8では16カ国に対する債務帳消しを決めましたが、私たちはさらに債務危機に直面している64カ国全ての債務帳消しを求めたいと思います。
最後に、先進国から途上国に行っている援助を、ローン形式ではなくグラント・無償援助にすべきことを訴えます。ODAはこれまで70%がグラントであるべきだと考えられてきました。だが現在、G8はどんどん比率を変え、借款の部分を増やし、無償援助を減らしています。
私たちは現在南アジア地域で、全ての人々に対して貧困問題についての啓蒙・啓発運動を行っています。こうした問題を国家的・国際的議題として取り上げさせるためにセミナーや会議、コンサートなどを開催しています。
また政策担当者に対するアドボカシー活動を、地域でのローカルなレベルと共にグローバルなレベルでも展開しています。政策担当者が私たちの要求に耳を傾け、行動してくれるまで今後とも努力を続けます。
PROFILE▼Anil k.Singh
大学教授、NGO職員を経て現在は「社会と農業開発のための南アジアネットワーク(SANSAD)」事務局長。専門は、インドにおける女性支援、社会開発。
