ハイビームで事故は防げるか 歩道のない田舎道で事故が起きている
私は茨城県に住んでいる。仕事帰りに太平洋沿いの国道51号を自家用車で走っていると、電光掲示板に「夜間のライトは上向きで」と表示されていた。
夜間走行でハイビーム? 対向車にも歩行者にもまぶしいんじゃないかと疑問がわいた。調べてみると、夜間走行のハイビーム指導は2006年5月頃に茨城県警で始まり、現在13県警で取り組まれていることが分かった。ロービーム(下向き)だと事故の危険性が増えるからだという。
『JAFメイト』(2007年11月号)では、夜間の事故例として茨城県北西部で起こった1件の人身事故を取り上げていた。事故が起きたのは午後8時45分頃。現場は水田地帯を抜ける幅5mの道。周囲は街路灯が設置されておらず真っ暗な場所だった。
「突然、男性ドライバーの目に飛び込んできたのは歩行者の後ろ姿。十数m先の車道の左側だった。ドンッ。事故は起きた。ブレーキを踏むことなくぶつかった」
被害者の女性は死亡。事故を起こした車はロービームで走行していた。
茨城県警によれば、2006年に起きた夜間のロービームによる車対歩行者の死亡事故は53件(県内)。そのうち33件はハイビームなら回避できた可能性があると報告している。
ロービームとハイビームでの見え方にはかなり差がある。昨年7月に福井県警は前照灯の視認実験を行った。それによると黒い服の歩行者の場合、ロービームの状態では35m先までしか発見できなかったのに対し、ハイビームでは80m先で発見できた。また白い服の歩行者の場合は、ロービーム59mに対し、ハイビームは146mだ。
福井県警は、2005年から07年7月末までに起きた死亡事故43件のうち、21件はハイビームであれば防げたと判断している。
<夜間走行はハイビームが基本?>
そもそも道交法では夜間走行は前照灯を上向き(ハイビーム)にするのが基本なのだ。当然のことだが、他の車とすれ違う場合と車両同士が近い場合には、下向き(ロービーム)にしなければならない。対向車や前走車がいた場合にハイビームを使うと「減光等義務違反」になり違反点数1点、反則金6000円の違反となる。
しかし都市部では交通量が多く、ハイビームにして走ればヒンシュクものだ。日本自動車連盟(JAF)によると、道交法のこの規定は「自動車が少ないときに制定された法令」であり、「クルマの多い今の状況では、普段はロービームで、暗くて対向車がない場合はハイビームというのが適切になってきている」と指摘している(J-CASThttp://www.j-cast.com/2007/11/12013234.html)。
ハイビームとロービームの切り替えが大変なら、前照灯を車検対応のディスチャージヘッドランプ(HID等)や高効率バルブへと交換し、ロービームの光量を増やす方法もある。
HID等は、従来のハロゲンヘッドランプより少ない電力消費量で、2~3倍の明るさが得られる。メーカー純正品として装着されたり、オプション設定、あるいは汎用品がカーショップなどで販売されるなど、急速に普及が進んでいる。
しかし問題がないわけではない。青白い光を放つHID等のランプはとても明るいので、ロービームでも対向車や歩行者にとっては眩しい。このためHID等が標準装備される時には、ヘッドランプの光軸自動調節装置がセットになることが多い。市販品を後付けで装着する場合には専門の整備工場などに装着を依頼し、装着後に光軸テスターで確認することをお勧めしたい。
<車優先の道路環境こそ問題>
しかし夜間の人身事故の本当の原因は、光量やヘッドライトの向きにあるのだろうか。
例えば茨城の田舎道を車で走っていると、ほとんどの道路が自動車優先で、歩行者への配慮がないことに気づく。街路灯がなかったり、車道の側にあった歩道スペースが突然なくなったりする。これでは昼夜を問わず、安心して歩いてられない。
実は先に取り上げた死亡事故現場の道路には大きな問題があった。
「市道には車道外側線が引かれていたが、南側は外側線に沿うようにガードレールが設置され、歩行者が通行するスペースはなかった。一方、北側は外側線と水田の間にアスファルト舗装されていない幅50㎝ほどのスペースが、所々草木に覆われていて通行できない部分がありながらも、なんとか確保されていた。…歩行者は東西どちらに進むにしても、道路の北側を通行するのが一般的だった」(JAFメイト 2007年11月)
しかも並行して走る国道の抜け道として使われていたらしい。それなりの交通量があっただろうから、これで事故が起きない方が不思議だ。
茨城県には、新聞広告などで退職後の田舎暮らしに最適と宣伝される地域がある。しかしそれは車あっての話で、運転ができなくなったらどこにもいけない。年をとって自動車に乗れなくなった時、いつはねられるか分からない歩道に出て外出するだろうか。
自動車の前照灯問題よりも、歩道の整備や歩車別の信号の普及など、もっとやるべきことがある。地方でも自動車優先の交通政策の転換が必要ではないだろうか。
加藤邦幸(30代・元自動車部品販売営業マン)
