高尾山トンネル工事のために土地収用に乗り出した国交省 虔十の会 坂田昌子
あまりにズサンで強引なやり方に高尾山が怒った
3月26日、国土交通省は圏央道(首都圏中央連絡自動車道)高尾山トンネル南坑口のトラスト地の強制収用作業を強行した。これに対し「虔十の会」や「地権者の会むささび党」をはじめ約80名が抗議。
「虔十の会」は今年2月からトラスト地に「和居和居デッキ」を設置し、「座っていいとも、工事だヨ、全員集合!」とアピールして座り込みを続けている。抗議には前日からデッキに泊り込んでいた人たちも参加した。
<ヤマユリの学名も知らない生物調査員>
朝8時、国交省の作業員はデッキ上流部の収用対象地に入ろうと現場に現れた。私たちは、「未だに収用地の境界は確定していない。そんな状況で収用するのは強引すぎる」と反発。
さらに収用に際して行うべき貴重種調査の不備を指摘。「まだ春先で芽生えてない植物種はどうやって確認するのか?」「球根(ユリネ)状態にあるヤマユリをどうやって特定するのか?」。次々と質問が飛ぶ。結局国交省は、東京都の指定する貴重種7種を特定できないことを認めていったん撤退した。
それから40分後、用地課より「ヤマユリの保護について結論が出たから11時45分にデッキの下で報告する」との連絡が入る。そこで「地権者の会むささび党」の石鍋誠さん、土地境界について詳しい米田徳治さん、私の3名で釈明を聞くことに。
ところが私たちが対応に出ている隙をぬって、他の職員が突然動き出した。斜面中腹の登山道に張られたフェンスをおしのけ収用地に強行突入したのだ。「まだ話し合ってるのになんだぁー」と「虔十の会」スタッフが押しとどめるが、調査員3名と作業員2名が乱入し、貴重種を気遣うこともなく雨で緩んだ斜面をズルズルと滑り降りてくる。
余りにも卑劣なだまし討ちに抗議の声が巻き起こる。しかも、本来斜面下側から慎重に足元を確認しながら上へ向かって行うべき調査を、斜面を滑り降りて行うことなどあり得ない。国交省が「専門家」と称する3名の調査員(男性1名、女性2名)はあまりに怪しいので、直接本人達と話したいと要請した。
その結果、男性は専門家でもなんでもなく、国交省計画課の役人だと判明。さらに2名の女性に「貴重種ヤマユリの学名は?」と尋ねても答えられない。それもそのはず、彼女たちの所属する会社トデックは建設コンサルタント会社で、植物の専門家などいるわけがない。馬脚が露になりながらも、なお国交省は「彼女たちは『貴重種の専門家』ではなく、『貴重種を見分ける専門家』だ」と意味不明の言い訳を続けたが、結局調査を断念せざるを得なかった。
その日の夕方、三度測量や杭打ちのために現れたが、私たちは「貴重種の調査が不十分なままトラスト地に測量や杭打ちを認めることはできない」と主張。あたりはどんどん暗くなるなか押し問答は続き、最終的にこちらの言い分を認めざるを得ず、すごすごと帰っていった。
貴重種などの高尾山の豊かな自然を保護する気などまったくなく、ただただトンネル工事を強行したい国交省。余りにもズサンでデタラメなやり方にうんざりした1日だった。
<地権者を無視した国交省にこそ責任がある>
国交省が収用したい土地は、「高尾町2513番地」。問題は、この土地の境界線が未だ確定していないこと。
この辺りの高尾山南側はもともと入会地で、地元の人たちが馬草を刈ったり、薪を取る共同の場所だった。そのため境界は曖昧で、明治時代に作成された地図が残っているだけ。
しかし土地収用にあたり国交省は、トンネル工事に反対する地主を除外し、土地を売りたい地主だけ集めて境界線を勝手に引いた。さらに既に取得していた「2514番地」をできるだけ広くするため、「2513番地」については意図的に小さく画定し、デッキの上流部、斜面の土地のみとした。
一方、私たちの主張する本来のトラスト地「2513番地」は、国の主張よりも広い区域で、「和居和居デッキ」や既に工事を開始している場所も含まれる。私たちからすれば、国こそが不法占拠を行っている。
国交省は地主である私たちとなんの話し合いも持たずに勝手に境界を引いたのだから、デッキのある土地の所有権を主張する法的根拠はない。一方で「国の土地だ」と宣言している手前、土地収用法は適用できない。自分で自分の土地を収用するなんてありえないから、デッキを収用するには、その場所は私たちが主張する「2513番地」であると認めなくてはならない。つまり国交省はデッキを撤去したくとも手を出せない状況なのだ。
本来ならば土地の境界をめぐって当事者の主張が食い違う場合、まず民事事件として話し合い、それで解決しないなら裁判で争って決めるしかない。収用し工事を進めるのは境界線が画定した後の話だ。国交省はそんな基本的なことさえ無視して行き当たりばったりの政策を積み重ね、挙句の果てに土地収用に踏み切ってきた。こんな国交省のやり方を私たちは認めるわけにはいかない。
国交省は、とにかく「和居和居デッキ」を撤去したくて仕方がないようだ。最近は「道路予定地に障害物を置いているから道路法違反だ」と言いがかりをつけている。しかし、大前提となる道路予定地の画定自体をいい加減に行った国交省にこそすべての責任がある。
そんな国交省のデタラメなトンネル工事に対する疑問の声はどんどん広がっている。キャンペーン「座っていいとも!工事だヨ、全員集合!」には、すでにのべ1200名が参加。さらにたくさんの人が集まり、注目してくれれば、一刻も早くトンネル工事をストップさせる大きな力となる。
奇しくも収用日の夜8時頃、高尾山の隣にある圏央道城山八王子トンネル上り線北側の工事現場で崩落事故が起きた。幸いけが人は出なかったが、約50メートル四方にわたって土砂と擁壁が崩れ、トンネル入り口は完全に埋まった。
高尾山を痛めつける余りに理不尽な工事に、ついに天狗が怒った。国交省やゼネコンは、この自然からの警告に真摯に耳を傾けて欲しい。
