マスコミに踊らされる消費者が多すぎる
     井上正太郎

 ギソー・ギソーと世間がかまびすしい。
 でもねえ、食料自給率4割のニッポンでそんなに大騒ぎしてたら、明日から喰うモン無くなるぜ。いや、マジで。
 新年早々、ほろ酔いついでに元・食材屋の独り言でも聞いてくれよ。

<雪印製品が撤去されても乳製品は欠品なし>

 俺が某食品卸問屋で仕入れの仕事をしていたのは、約10年前。雪印の食中毒事件や、日本食品の牛肉偽装事件が、マスコミを賑わせていた頃。

 問屋での仕入れの仕事はね、とにかく欠品させないのが一番大事。欠品は恥なんだよ。なにせお客様はわがままだから、希望した商品がすぐに手に入らなきゃ「使えねえ会社」と見放されちゃう。だから、お客様が求めるなら「何をしてでも」仕入れなきゃ。「無理」は禁句なんだよね。

 例えば、雪印の食中毒事件。当時、スーパーやコンビニから「スノーマーク」が一斉に撤去されたよね。俺のいた会社でも雪印商品の取り扱い中止が決定。「ただちに代替品を調達せよ」と社命が下った。

 そこで、付き合いのある乳製品メーカーにかたっぱしから電話した。案の定、どこに聞いても完売御礼で、「生産が間に合いません」と弁解する。しかし、どのメーカーも何か奥歯にモノが挟まったように今ひとつ歯切れが悪い。

 気になった俺は一番仲の良かった某中堅メーカーの担当者を問詰めた。すると口ごもりながらも、「いや、こんな時ですし、正直に言っちゃいますけど。・・・実はウチの製品、原料は雪印から仕入れてるんです」と吐露。そればかりか、単にパッケージを変えただけの製品もあるとのこと。

 確かに当時、雪印はシェアの8割近くを占める業界のガリバーだったから無理もない。どのメーカーも歯切れが悪かった理由は、結局雪印抜きでは製品が作れなかったからだ。これって昨今問題になっている偽装じゃない? とは言え、だから仕入れは無理だなんて納得してる場合じゃない。代替品は待った無しに必要だったから、俺は迷わず注文したよ。

 「構いません。中身はどうでも、要はあのマークが付いてなきゃいいんです。わかりゃしませんよ。あ、ウチの上には黙ってて下さいよ。めんどくさいコトになるし」

 時代は「平成不況」のまっただなか。どこも生き残るために、必死になってた。キレイごと言ってたら同業他社にヤラレちゃうからね。こうしてシェアの8割近くを占める会社が取引停止状態になっても、なぜか乳製品は欠品しなかったわけだ。メーカーも問屋もみんなお客様の為に「頑張った」わけよ。

<無理を通して道理を引っこめる消費者>

 消費者を愚弄してる? そんなに目くじら立てるほど消費者は賢いのかね。

 仕入れの仕事をしていた経験からは、とてもそうは思えないな。例えばある日突然、「グレープシードオイル」が日本全国一斉に売り切れたことがあった。このオイルはブドウの種から搾る油でね、フランスなどからの輸入モノ。こんな特殊なオイル、本格的なフレンチかイタリアンの店ぐらいでしか使わねェぞ。それがいきなり注文殺到になったわけだ。

 そもそも在庫なんてたいして置いてないからたちまち売り切れ、慌てて輸入元の商社に連絡したらこちらも売り切れ。「次の入荷は3ヶ月先になります」だとさ。

 理由は何だと思う? 主婦向けの有名なお昼のTV番組で、「おもいッきり」紹介されたらしい。「ブドウの種に含まれるポリフェノールが健康に良い」とかね。それでその日の内に注文殺到だよ。

 あんなモンを一般家庭で買ってどーすんだか。使い方も分かんねェし、2~3回サラダかなんかで使ったきり冷蔵庫か戸棚の隅に。半年か1年経ってすっかり酸化したあげく棄てられたのが落ちじゃない?

 「あるある大事典」の納豆騒動だって同じでしょう。納豆食ってりゃ痩せるなんて信じる方がどうかしてる。「ミシュラン東京版」騒動にもうんざりだよ。三ツ星8店中2店はピザーラの経営だぜ。ただのお手盛り企画になっちゃったわけよ。

 チョット考えれば道理が通らないのがわかるのに、消費者はメディアが笛吹いたらすぐ踊っちゃう。ネギしょったカモが自分から鍋に飛び込んで来るんだから、こりゃ止めらんないよね。

 多くの消費者は、「魚沼産コシヒカリ」だとか「名古屋コーチン」だとか、よく知りもしないくせにブランドに群がり、「○○で紹介された」と言えば行列を作る。一方で中華人民共和国産の食品に問題が出ると、何の関係もない中国地方の食品会社「中国食品(株)」に筋違いの抗議電話やメールを殺到させる。営業妨害だって平気でするわけさ。

 そりゃあ、イイカゲンな事やった会社は責められるべきだよ。責任も取るべきでしょう。確かに食品業界は、「風が吹けば桶屋が儲かる」摩訶不思議な世界だからね。俺も業界にいた時には、よく朝刊の外信欄の5行記事を見て顔色変えてた。「ヤバ!買い占めとかなきゃ!」ってね。

 でも企業だけが悪いの? ウソとゴマカシと無神経を法律で後押ししてる国の責任はどうなんだ? 例えば日本酒。つい最近まで「米だけの酒」と表示されたのをよく見たけど、なんで「純米酒」と名乗らなかったかわかる? 精米歩合70%以下しか「純米酒」を名乗れなかったからさ。ところが4年前にこの規制が撤廃された。

 今や醸造用アルコールを添加せず、「米だけ」の酒は「純米酒」。米ヌカだろうがクズ米だろうが関係ない。ミソもクソも一緒くたにして日本の酒文化を冒涜したわけだ。もしフランス人が、ワインでこんな事されたら暴動を起こすぞ。彼らは少々過大にしろ自国の文化に誇りを持っているからね。

 それにひきかえ日本の食文化の崩壊は、目を覆いたくなる有り様だ。一番大事なそのことを問題にせず、ただ不祥事を起こした会社を責めてるだけだったら、食品偽装はなくならないよ。企業に消費者に国が三位一体でこの状況を作ってるんだから。

 じゃあ、どうすれば良いかって? そんなの自分で考えてくれよ。俺は現状を嘆いてみただけ。ちなみに「料理」て字は、「理(ことわり)を料(はか)る」と書くんだぜ。無理を通して道理を引っ込めるような事は止めようよ。そこからしか始まらないと思うなあ。

 そのうちみんなギソーに慣れちゃって、「またかァ、もうどーでもいいや」なんてなったら終わりだからね。

※異論反論怒りの声。悪口雑言罵詈誹謗。はたまた「よくぞ言ってくれた!」という同業者(元)の皆様方。御意見お待ちしております。

   (40代 元・食品卸会社勤務)

(1260号 2008年1月25日発行)