健康と環境へのリスクについて考えてみた
  
 今年4月から東京23区で、プラスチックごみの焼却事業が本格的にスタートする。

 東京23区は1974年以降、廃プラスチックを「不燃物」として扱ってきた。「炉が傷む」「塩化水素の発生によって健康被害が生じる」などが理由だ。それが一転して「可燃物」として扱われることになったのである。

 プラスチックごみの焼却は、ダイオキシンその他の危険な化学物質を発生させ、温室効果ガス増加も懸念される。各地で取り組まれているプラスチックごみの減量化や再資源化に向けた取り組みに水をさすことにもなる。

 ゆえに昨年暮れ、この政策に反対する住民は事業主体である東京23区清掃一部事業組合を相手に住民監査請求を申請。健康被害を懸念する人々は、公害調停申立ての準備も進めている。

 私は埼玉県くぬぎ山のダイオキシン問題をきっかけにごみ問題に関心を持ち、現在は寄居町にある彩の国資源循環工場周辺の環境調査に取り組んでいる。東京23区が開始しようとしている廃プラ焼却の問題点について検討してみたい。

<安全性は燃焼実験で確認されていない>

 そもそも23区はなぜ廃プラ焼却を始めようとしているのか。この焼却方針は2005年に決定された。その呼び水となった2004年の特別区長会総会での報告「最終処分場の延命および確保」には次のように記されている。

 「最終処分場の延命及び資源の有効活用の観点から、マテリアルリサイクルを進める一方で、最終処分場の埋立てに占める割合の高い廃プラスチックについては埋め立てるのではなく、熱エネルギーとして回収するサーマルリサイクルを実施する方向を生かして検討する」

 つまり逼迫している埋め立処分場不足に歯止めをかけ、焼却によって生じる熱で発電を行なうサーマルリサイクルにより工場経営コストの効率化をはかるのが目的だ。売買電事業も行なうらしい。

 決定を受けて既に2006年から品川、大田、杉並、足立の4区でモデル事業がスタートした。ここでの燃焼実験を経て、今年の4月からは23区全域で本格的に始まる予定だ。モデル地区での焼却実験は、廃プラ焼却を行なった場合のリスク評価を目的とするものだが、実験には大きな問題がある。

 大田区議会議員の奈須利江氏は「議員レポート」において、今回燃焼実験したすべての清掃工場では焼却ごみに含まれるプラスチックの割合が低すぎて、リスク評価は不可能だと指摘している。事業組合では本格実施時におけるプラスチックごみの混入率を10パーセント程度と見込んでいるが、実験では品川清掃工場で約1・5パーセント、その他の清掃工場では約3パーセントにすぎなかった。これでは本格実施された場合の焼却の安全性等を検証したことにはならない。

 しかも実際の混入率は、10パーセントをはるかに上回る危険性がある。一部事業組合によれば、この数字は容器包装リサイクル法に基づく廃プラの再資源化拡大を見込んだものだ。しかし現在、容器包装プラ分別に取り組んでいるのは23区中10区にすぎない。

 千代田区では昨年10月から分別収集が開始され、杉並や新宿などの9区でも既に一部地域で始まり、今年中に全面実施の予定だ。しかし、世田谷、渋谷、文京、足立など13区では当面実施の見込みはなく、〈プラマーク〉付のものも含めてほぼ全面焼却の見通しなのだ。

 「保管する業者が限られ、受け入れ能力がない」「収集、保管に数億円かかる」などが理由だが、このままでは事業者の想定を大幅に上回る廃プラが焼却されることになる。その場合、焼却炉は高熱に耐えられるのか、有害化学物質は発生しないのかなど、燃焼実験では何も検証されていない。

 このまま本格実施に踏み込むとしたら、計画としてはあまりにずさんだ。焼却処分を始める最低限の条件として、23区全てで容器包装リサイクル法による分別回収の徹底が必要だと思う。

<ゴミは減っているのに無理矢理燃やす>

 実は東京23区の焼却ごみはここ数年減少傾向にあり、焼却炉の稼働率は低下している。2006年度のごみの量は、各区の収集と23区外からの持ち込みをあわせて333万トン余。前年度比で約マイナス1・7パーセント、5万トン減少した。

 ところが一部事業組合は、新しい一般廃棄物処理計画(2006年度―2020年度)において、2006年度のごみの総量を348万トンと推定していた。実際はこの予測よりも15万トンも少なかったわけだ。これは600トン規模の清掃工場が1年間かけて処理する量に相当する。当然のことながら、ごみ減少により2003年度には17・5パーセント、2005年度には約23パーセントの炉が休止状態となった。2割強、5基につき1基の割合だ。

 にもかかわらず一部事業組合は多額の費用をかけて施設の建替えや補修をくりかえし、過剰な設備を維持している。さらに今回の廃プラ焼却の本格化に向けて、新工場建設計画さえ進められている。これでは、焼却炉の運転を続けるために廃プラ焼却に着手するとの批判を免れないだろう。

 加えて売買電事業のために2億円をかけて新会社が設立される予定だが、電気を売り続けるためには燃料になるごみが必要だ。各家庭から出る一般廃棄物の減量化が進みごみが足りなくなったら、産業廃棄物の受け入れを強行するかもしれない。そうなれば、本来各企業の責任で進められるべき産業廃棄物処理は自治体に押しつけられる。地域住民には更なる経費負担と健康被害のリスクが降りかかってくる。

 練馬区議会議員の池尻成二氏は、工場整備計画立案の大前提であるごみ量の予測が、計画初年度で大きな狂いを見せているのは重大な問題だと指摘している。ごみが増えて埋立地が足りない、減量化の見通しは立たないから廃プラを焼却するしかないという事業組合の主張は再検討されるべきだ。

 むしろごみの減少に合わせて、耐用年数の過ぎた古い焼却施設から暫時廃止すれば良い。各自治体の財政負担は減少するし、環境や健康に与えるリスクも減る。実際に横浜市ではリサイクルの取り組みによってごみの量を3割減少させ、2つの焼却施設を廃止した。その結果、当該地域のこどもの喘息の罹患率が9パーセントから6パーセントに低下したのである。

<リスクの高い廃プラ焼却は回避すべき>
 
 冒頭に指摘したように東京都は30年以上、プラスチックごみを「不燃物」として扱ってきた。理由は健康被害への懸念と「ハイカロリー問題」だ。

 プラスチックごみは他のゴミに比べて燃焼時の発熱量が桁違いに大きい。そのためごみに含まれるプラスチックの割合が増えると燃焼過程の制御が困難になり、炉も傷みやすくなる。

 ごみ焼却はお金のかかる事業だ。清掃工場を建設するための初期投資も莫大だし、施設を維持するためには頻繁に改修工事が必要だ。ゆえに少しでも長く施設を維持し、爆発するなどの危険な状況を避けるためにプラごみ焼却は回避されてきた。

 しかし廃プラ焼却を開始する上で、こうした問題が解決されたとは言い難い。2007年9月19日午前0時31分、豊島区上池袋にある豊島清掃工場2号炉で爆発事故が発生した。炉の焼却熱を発電用のボイラーに伝える「ボイラー水管」が破断。そこから噴出した水が一気に気化して水蒸気爆発を起こしたのである。皮肉にも焼却熱で発電するサーマルリサイクルの根幹部分でのトラブルだった。

 「焼却熱で発電」はとても合理的なように思える。しかしごみ発電プラントは通常の火力発電にはないリスクを抱えている。入ってくる燃料=ごみの組成が予測できないからだ。そのため炉は頻繁に破損するし、運転には高度の熟練を要する。

 ごみの中にプラスチックが混入されるようになれば、運転のリスクはさらに増大するだろう。ところが近年、業務委託が進んでいる清掃工場の現場では人事異動が頻繁で、担当の職員はわずか半年程度で交代する。そのため運転ノウハウに習熟している余裕が無く、清掃工場の小さなトラブルは近年増加傾向にある。労働組合は業務委託による練度の低下が原因だと主張している。

 ダイオキシン対策の為に導入された新型炉も課題山積だ。世田谷清掃工場では旧厚生省が推進してきたガス化溶融炉が導入されたが、連続運転開始後まもなく溶融物が溶融炉出口付近に付着するトラブルが発生し、現在は運転を見合わせている。

 ガス化溶融炉はごみを蒸し焼きにして発生した可燃ガスを利用する。従来の炉のように石油などの助燃材を必要としない上、摂氏1300度以上の高温で焼却灰も溶解しダイオキシンも分離できるのがふれこみだった。しかし実際に導入された清掃工場ではトラブルが多発し、予想を越える補修費の増加は自治体財政を圧迫している。

 さらに「出ない」と言われていたダイオキシンの流出も報告され、鉛などの重金属や多環芳香族炭化水素などの物質群が大気中に放出されることも各地の住民運動の調査で明らかになっている。

 これら焼却に伴うリスクの高さを考えれば、30年以上続いてきた廃プラ原則焼却回避の判断は未だ妥当だ。可能な限りごみの発生抑制と再資源化を行ない、他に方法が無い場合だけ細心の注意をはらって焼却するのがベターなのだ。

 勿論、東京23区の廃プラ焼却方針でも、同じ理念を謳ってはいる。しかし実状はかなり違うようだ。早急に事業の再検討を行なうべきだろう。ごみ問題解決の方法は他にもあると思う。

(1260号 2008年1月25日発行)