2008年G8サミットNGOフォーラム「NGOと政府の対話集会」
NGOの意見を反映させるには緊張感ある具体的交渉が必要
編集部 渡瀬義孝
2月19日午後6時半より東京都星陵会館で「G8 NGOと政府の対話集会」が開催され約250名が参加した。主催は「2008年G8サミットNGOフォーラム」。今年7月北海道で開催される洞爺湖サミットに市民社会の声を届けるべく、100以上の団体が参加して昨年から活動している。
近年サミット議長国政府は、事前に市民と対話の場を設けサミットで議論する内容にNGOの意見を反映する姿勢を示している。こうした流れのなか今年の議長国日本政府もNGOフォーラムの要請を受け、公開の場でNGOとの意見交換を行うことになった。
<イシューはすべてグローバル>
最初にNGOフォーラム代表の星野昌子氏は、「日本は議長国として、国益だけではなくグローバルな視野を持って先駆的な力強いリーダーシップを発揮してほしい」と挨拶。
続けて洞爺湖サミットでシェルパを務める河野雅治外務審議官が基調講演。シェルパとは通常登山の際サポートする人たちのことを指すが、そこからサミットで政府と市民社会のパイプ役を務める人々の呼び名となっており、河野氏は個人として福田首相を代表する立場にある。
「今年1月からシェルパ議長としてG8各国と作業を始め、既に第1回の会議を開きました。洞爺湖サミットの議題ははっきりしており、第1に世界経済の問題、2番目に地球温暖化、気候変動の問題、3つ目にアフリカなどの開発問題、そして4つ目に様々な政治問題です。今年は世界経済の議論に相当重点が置かれるような気配です。サブプライムローンに端を発する金融問題をどう解決するのか大きな議論となるでしょう」
こう話を切り出した河野氏は、気候変動問題について今年は国別の中期目標を設定することが重要だと提起。「政治責任的に先行して削減している国がある一方、すべての国が参加しなければ意味がないのも正論なので、この2つを調整するのが議長国の責任。そのためには自ら一歩、半歩踏み出すことが必要だが、余り先に踏み出して誰もついてこないようでは駄目だ」と語った。
「開発とアフリカの問題については、今年はMDGs(国連ミレニアム開発目標)の中間年であり、保健・教育・水・衛生などのそれぞれの数値目標をどこまで達成できるのか、足りないところは何なのかをサミットで議論する。いずれにしてもこれらのイシューはすべてグローバルである以上、グローバルな視野がなければ議長として引っ張っていけない」
最後にこうまとめて、河野氏は講演を終えた。
<NGOとシェルパがパネル討論>
続けてNGOフォーラムからの提言が行われた。「貧困・開発」ユニットは「貧困をなくすための政治的意志、行動、そして資金を!」、「人権・平和」ユニットは「すべての人が『平和に生きる権利』を」、そして「環境」ユニットは「気候変動・生物多様性・3R」と題したプレゼンテーションを行い、その後パネル討論に移る。
政府側パナラーは基調講演を行った河野氏に加え、環境省地球環境審議官の小島敏郎氏。NGO側からはフォーラム副代表の鮎川ゆりか氏(WWFジャパン)、貧困開発ユニットリーダー秦辰也氏(シャンティ国際ボランティア会)、フォーラム監事熊岡路矢氏(日本国際ボランティアセンター)、そしてG8サミット市民フォーラム北海道共同代表の秋山孝二氏が登壇。
小島氏は気候変動問題について、「ピークアウトするためには先進国の削減だけでは無理だと誰でも分っている。アメリカ、中国、EUはそれぞれ10%以上排出しており、この3つの大きな塊を削減議論に乗せていくことが重要」とコメント。
鮎川氏は現状の温暖化対策について次のように苦言を呈した。
「福田首相は国別総量目標をセクター別のボトムアップで決めると語ったが、それでは地球を安全に保つために必要な削減量に達することはできない。日本として気温上昇をどこで止めるつもりなのかという視点から中期目標を設定し、洞爺湖サミットで掲げて欲しい。ダボス会議では企業が積極的にこの問題に関与しなければならない雰囲気があったと河野さんは語った。しかし日本はその流れとは逆に、政府の足を産業界、経団連が引っ張っていると強く指摘したい」
市民フォーラム北海道の秋山氏は、サミット問題を契機に北海道の歴史を捉え返そうとしていると報告。
「私たちは北海道知事に対して、市民に開かれ環境と人権に配慮したサミットを開催するよう要望書を提出した。北海道はアイヌ語ではアイヌモシリ、つまり『人間の住む静かな大地』と呼ばれる。先住民であるアイヌ、そして多様な生物の命が北海道の豊かな自然を育み、私たち開拓者はそれを破壊してきたのではないか。そんな素朴な疑問から勉強会を開いている」
その他、貧困問題や人権・平和問題についてもシェルパとNGO双方が意見を交換し、会場の参加者からの質疑応答も行われた。
<具体的獲得目標に向けた交渉を>
今回の対話集会のように、NGOと政府の意見交換の場が積極的に持たれることは大いに歓迎すべきだ。しかし、ここでの議論が実際のサミットの内容に反映されなければ「対話」の意味はない。
今回は第1回目ということもあったのか、NGOの要求と政府のスタンスにどれほどギャップがあるのか、それを今後どう埋めていくのかが今ひとつはっきりしないのが残念だった。実際に会場からは、「NGOの提言にはもっと具体性が必要。大胆な数値目標を提示すべきではないか」との意見も出された。
確かに、例えば温室効果ガスの削減目標についてNGOは何パーセントを要求するのか、それに対し政府は何パーセントを考えているのか、こうした点が明確にならない限りいくら対話をしても玉虫色の結論しか出ない。政府側は常に「理念はごもっともです。しかし・・・」と「総論賛成、各論反対」で誤魔化すことができる。
フォーラム副代表の大橋正明氏は集会の最後に、「今後もこうした対話の機会を継続して設けてほしい」と繰り返し要請していた。次回以降は対話一般ではなく、NGOと政府の交渉の焦点が明らかにされた上でのより突っ込んだ議論を期待したい。
最後にもう一つ気になる点を述べたい。冒頭の基調講演で河野氏は、サミットの議題として真っ先に世界経済を挙げた。「今年は世界経済の議論に相当重点が置かれるような気配です」とさらりと語ったが、見過ごせない発言だ。
昨年のドイツ・ハイリゲンダムサミットでも、当初議長国メルケル首相は経済問題をメインテーマにしたいと考えていた。しかしNGOやメディアからの批判を受け「気候とエネルギーの問題」、「アフリカと貧困に関する問題」に議論を集中させた。
河野氏はこの経緯を意識してか、「サブプライム問題で今年は昨年とは違う」と語った。これが日本政府の本音だとしたら、洞爺湖サミットは環境サミットどころか、昔ながらの経済サミットに舞い戻ってしまう。
そうならないためにNGOは緊張感を持って政府と交渉し、市民社会からの厳しいプレッシャーをかけ続けることが問われている。
