日中は協力して対策に乗り出すべきだ
 
 毎年、春頃になると空から降ってくる黄砂。ルーツはタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原など大陸の乾燥地帯の砂だ。これが風で舞い、偏西風にのって3000~4000㎞飛ばされ、3~4日かけてはるばる日本にやってくる。

 最近日本で観測される黄砂の観測回数は増加しており、これまでほとんど観測されなかった北海道にも及んでいる。2006年は東京都心で6年ぶり、千葉市では18年ぶりに黄砂が確認され、全国的にも気象庁が1967年に観測を開始して以来最大量となった。

 私の住む名古屋でも4月下旬から連日のように降り、晴天にもかかわらず空は茶色く霞んだ。車を洗車したら直後に黄砂を含む雨が降り、あっという間に洗車前より汚くなったことを覚えている。

<黄砂急増の原因は環境破壊>

 黄砂の粒子は花粉よりも小さい直径0・1㎜以下。化学組成はCaCO3(炭酸カルシウム)が10%以上を占める。年間2億~3億トン発生し、モンゴル、中国、韓国では、黄砂被害は大きな社会問題となっている。

 中国で黄砂は「砂塵暴」と呼ばれ、台風並みの砂あらしとなって街を襲う。年間被害額は、農作物や家畜を中心に7000億円に上り、死者が出ることもある。

 日本への降下量は年間100万~300万トンと推定されている。黄砂の季節、特に中部以西の地方では洗濯物や車に細かい砂が付着し、いまいましく感じる人も少なくないはずだ。さらに大量に黄砂の降る地域では、視界不良による交通への影響は深刻だ。農作物は遮光障害で生育不良を起こすこともある。

 とりわけ有害な大気汚染物質を吸着した黄砂を体内に摂り込めば、深刻な健康被害をもたらす。汚染されていなくても、排気ガスの中に含まれる直径10μm以下の浮遊粒子状物質 (SPM)同様、吸い込めば気道を刺激。喘息を持病とする人には発作因子となり、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎を悪化させる。吸い込まなくても乾燥肌や皮膚を刺激し、アトピー症状を悪化させることもある。

 予防するにはマスクや防護メガネを着用し、なるべく外出しないようにするしかない。マスクも花粉対策用では細かな黄砂粒子を吸い込んでしまうので、風邪対策用でないと意味がない。

 もっとも、黄砂にはプラスの効果もある。汚染物質を吸着することで大気をきれいにし、黄砂に含まれるアルカリ性物質のカルサイトは酸性雨を中和させる。とは言え、やはり黄砂を歓迎する気にはなれない。

 黄砂は江戸時代に編纂された「本朝年代記」にも記されており、昔からあった自然現象だ。しかし衛星写真により、最近の黄砂はアメリカ大陸にまで到達している事が確認された。黄砂の頻度と被害が拡大するなか、今や環境問題の一つとして認識されるようになったのである。

 今だ未解明な部分はあるものの、黄砂拡大の原因の一つとされるのが、中国大陸(特に北西部)における土地の劣化、砂漠化の拡大だ。2005年の調査によると、砂漠は中国全土の18%に達し、1年間に1280平方キロ増加した。原因は、過放牧や開発に伴う森林減少にある。

 黄砂が発生する黄土高原の一部を含む陝西省やその隣の山西省、甘粛省などの中国北西部では、近年石炭採掘が盛んで急速な都市化が進んでいる。加えて2008年北京オリンピック、2010年上海万博へ向け高速道路網整備が急ピッチで進められている。同時に高層住宅やホテル、大規模商業施設などのコンクリート建造物も増加している。

 こうした急激な開発が砂漠化を拡大していることを疑う余地はない。さらに地球温暖化による気候変動が拍車をかけている。

<中国を責めるだけでは解決しない>

 毎年私たちを悩ませる黄砂拡大の原因は、中国の経済発展に伴う環境破壊の進行にあるわけだ。今後さらなる都市化や自動車保有台数の増加により、問題はより深刻化する危険がある。

 しかし、私たちはこれを他人事のように非難することができるだろうか。多くの日本人は1家に1台以上自動車を保有し、森や田畑をつぶして都市を作り、「列島改造」を合言葉に日本全土に高速道路と鉄道網を張り巡らせてきた。中国政府の環境対策の遅れを批判するのはいいが、日本でも政府は水俣、四日市に代表される公害被害者の声を黙殺し、対策は後手に回った。

 今日の経済発展を得るため私たちがどれだけ多くのものを犠牲にしてきたかを省みることなく、現在の中国を安易に非難するだけでは、自らの行いを棚に上げた物言いにしかならないだろう。むしろ私は、今こそ環境保全のため日中間のリージョナルな連携を推し進めていく方途を探るべきだと思う。

 実際中国政府は、黄砂防止の為「全世界の共同の努力が必要」(2006年4月20日付asahi.com)と協力を求めている。そして中央、地方政府に林業局を設け、森林保護政策や造林事業に取り組み始めた。既に手入れ、改良以外の目的で天然林を伐採することは禁止されている。

 これを受けて日本の林野庁は、「2500万haの森林の適正な管理や1000万haの人工林を造成してきたわが国の技術が生かせる部分はまだまだある」(『森林技術 No.760』 日本森林技術協会)と協力を呼びかけている。

 また1980年代から日本の学生グループやNGOは都市周辺や黄砂発生地域周辺での植樹ボランティア活動に取り組んでおり、一定の成果をあげている。民間・市民レベルでは環境保全のための日中間パートナーシップは既に築かれているのだ。

 こうした中2007年3月、韓国で日本・中国・韓国の3カ国の黄砂担当局長が一堂に会し、北東アジア地域における黄砂対策に関する地域協力について議論を行なった。そこでは毎年開催される3カ国環境大臣会合の場に黄砂セッションを設置すること、局長級会合を以降も開催することが合意された。そして同年9月東京で開催された第2回日中韓3カ国黄砂局長会合では、いよいよ共同研究に関する具体的な議論が開始されたのである。

 日本もまた開発至上主義のもとで公害や環境破壊を経験してきた。その教訓を今こそグローバルな舞台で活かす時だ。近隣アジア諸国の環境保全に協力することで、環境立国への道を歩むべきだと思う。

   鈴木邦蔵(20代 団体職員)

(1262号 2008年2月25日発行)