官尊民卑の自衛隊では国民を守れない オンブズマン制度でシビリアン・コントロールの徹底を
2月19日午前4時過ぎ、千葉県南房総野島崎沖約40キロの海上で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」とマグロはえ縄漁船「清徳丸」が衝突。7750トンの大型艦の衝撃により小さな漁船は真っ二つに切断され、乗っていた吉清治夫さん、哲大さん親子が行方不明となった。
「あたご」は1月に米ハワイ沖で迎撃ミサイル(SM2)発射試験に参加。母港舞鶴港に帰港する途中、神奈川県横須賀基地に立ち寄ろうとしていた。問題は、船舶の過密海域で当直士官らが事前に漁船団の存在を認識しながら、衝突1分前まで自動操舵を続け回避措置を採らなかったことだ。
この点に関して2月25日朝日新聞は、「海上自衛隊の護衛艦艦長や潜水艦隊司令官の経験者らは、あたごの艦長や当直士官の判断や指示に多くの問題があった、と口をそろえる」と報じ、「お粗末の一語。多くの同僚が艦長の判断を疑っている」「ずっと手前で自動操舵を解除し、艦長は起きて艦橋で指揮していなければならなかった。当直士官に任せきりで眠っていたとすれば言語道断」などの声を紹介している。
こうした指摘はもっともだが、事故後の自衛隊の対応にも厳しい批判が噴出している。事故発生から海上保安庁に連絡するまで16分、さらに石破茂防衛相への連絡には1時間半もかかった。約20年前に30名の犠牲者を出した潜水艦「なだしお」事故の教訓がまったく活かされておらず、リスクマネジメントが機能していないのだ。
おまけに海上自衛隊では不祥事が連続している。最高レベルの軍事機密であるイージス艦のミサイル防衛に関する重要情報が流出、昨年12月には停泊中の護衛艦「しらね」の中枢である「戦闘指揮所(CIC)」から出火し、大きな被害が出た。
最新鋭のイージス艦が漁船との衝突すら回避できない最大の根拠は、自衛隊員の規律・規範の崩れ、モチベーションの低下にあるわけだ。何千億もの税金を注ぎ込んでハード面を整えても、肝心のソフト面のマネジメントがまるでない。しかもこれは海上自衛隊に限った問題ではない。
自衛隊は総計約24万人の巨大なピラミッド型組織。ここで働く隊員の自殺者は、1995年度44人から00年度73人、05年度93人と毎年のように増加。とりわけインド洋での給油活動やイラク現地へ派遣された隊員延べ約1万9700人のうち、16人は在職中に自殺しており、極めて高い自殺率を示している。
自殺の原因の多くは隊内での「いじめ」だと指摘されるが、「いじめ」を構造化させる組織体質、旧日本軍を引き継ぐシステム上の瑕疵こそが問題とされるべきだ。上意下達の閉鎖的集団内部に生じる様々な問題は、外部からは見え難い。だからこそシビリアン・コントロールと情報公開を徹底しなければならない。
その意味で参考にすべきは、ドイツや北欧で実現されている軍事オンブズマン制度だ。1915年にスウェーデンで導入され、フィンランド、ノルウェー、デンマークが続いた。そして1956年旧西ドイツは再軍備に当り、二度とナチスのような軍事独裁国家とならないようこの制度を導入した。
ドイツでは議会がオンブズマン(防衛受託官)を任命し、軍隊内の様々な問題について軍人やその家族から苦情、相談を受けつける。オンブズマンが有する調査権は絶大で、必要に応じて何時でも何処にでも立ち入り、国防大臣はじめ全ての将兵に報告を求めることができる。年間6000件前後の苦情・相談申請があり、これを60人の職員が調査し、結果はすべて議会に報告される。
まだ東西冷戦下、「鉄のカーテン」に接する最も厳しい軍事的緊張のなかでも、旧西ドイツはシビリアンコントロールと徹底した情報公開により兵士の人権を保障した。これを踏まえれば「軍事機密」を口実に情報公開を拒み、旧態依然たる閉鎖的組織体質に甘んじる自衛隊は抜本的に改革されるべきだろう。
昨年収賄容疑で逮捕、起訴された守屋武昌前防衛事務次官は言うに及ばず、自衛隊の組織疲労は相当深刻だ。新しい制度設計こそが求められている
