オーストラリア全土に放射能が拡散する

 オーストラリアのオリンピック・ダム鉱山は、ウラン鉱山としては世界1の埋蔵量を誇る。同鉱山は1975年に発見され、87年より採掘が開始された。銅、金、ウランを産出し、非鉄金属の世界最大手BHPビリトン社が所有する。名称は、1956年メルボルン・オリンピックの年に貯水用ダムが造られたことに由来する。
 この鉱山で最近、大規模な拡張計画が発表された。これに危機感を覚えたオーストラリアのドキュメンタリーフィルム監督、デイヴィッド・ブラッドベリー氏は、オリンピック・ダム鉱山問題を取り上げたドキュメンタリー作品『A Hard Rain』を発表した。社会運動家でもあるデイヴィッド氏は、鉱山拡張計画の危険性を告発し、ウェブサイトに6分間の短縮版をアップしている(http://www.frontlinefilms.com.au/blog2/?p=26)。
 問題の背景には労働党の路線転換がある。過去11年間、オーストラリア連邦政府与党は保守連合だったが、各州政府は労働党が掌握してきた。連邦政府の権限は外交や貿易、国防など対外的なものに限られ、鉱山開発の許認可権は州政府の管轄下にある。ウラン鉱山開発を推進したい与党と、規制を求める野党は長年争ってきたが、今年4月労働党はウラン鉱山の開発を規制する綱領を撤廃したのだ。
 今回の総選挙でハワード氏率いる保守連合は敗れたが、与党となった労働党もウラン鉱山開発を推進しようとしている。このままでは、オーストラリア全土が放射能で汚染されてしまう。

 

『A HardRain』短縮版のナレーション要約 (訳・水澤努)

 南オーストラリア州のオリンピック・ダム・ウラニウム鉱山。赤い砂漠の下には世界最大のウラニウム鉱床が眠っている。鉱山会社BHPビリトンにとっては巨万の富につながる素晴らしい自然からの贈り物だが、多くの人々にとっては永久に健康と環境を破壊する災厄以外ではない。

 ウラニウム鉱床は深さ350mの地中にある。上部は固い地層の殻が覆い、さらにその上には数100万トンの土や岩石、植物が覆っている。

 BHPビリトンはこの土地の掘削許可を政府から得ようとしている。昼夜を分かたず4年間掘り進み、上部の殻を取り除けば地中深く存在する鉱床に突き当たる。ひとたび殻が破砕されるならば、今後50年から100年に渡り、毎年4000万トンの放射性ウラン鉱石が地上に掘り出されることになる。1週間につきメルボルン・クリケット競技場2杯分にもなる膨大な量だ。

 問題なのは、ウラニウムを採掘しイエローケーキにする過程で捨てられる選鉱くずに80%以上の放射線が残存することだ。放射性ウラニウム、放射性トリウム、放射性ポロニウム、ラジウム、ビスマス、放射性鉛も鉱山にそのまま捨てられてしまう。

 砕かれた選鉱くずは小さな粒子となり、風に飛ばされ採掘現場から遙か遠くに飛ばされていく。500㎞離れた繁華街のアデレードまで飛ばされる。オリンピック・ダムから風が吹くときには1300㎞離れたシドニーや1000㎞離れたメルボルンにまで届くだろう。

 オリンピック・ダムの採掘現場は幅3㎞、深さ1・5㎞のかつて無い強大な穴となる。ウラニウムを採掘するとラドンガスが発生する。ラドンガスは非常に毒性があり危険だ。空気より7倍重いために、大気圏外に出ていくことはない。ラドンガスは3・8日の半減期の間に大気中を1000㎞以上移動する可能性がある。

 放射性選鉱くずの塵やラドンガスはアルファ線を発生する。アルファ線は呼吸や食事、水を通じて体内に摂取されるとDNAを破壊しガンや出生異常の原因となる。しかもガンは少なくとも5年、長ければ50年経たないと発症しない。我々の知らないところで恐るべき事態は進行する。

 政府はこれにゴーサインを出そうとしている。最後の選択は私たちの側にある。

******************

ピークオイルを迎え資源争奪戦が激しさを増している
オーストラリアのウラン外交はどこまで加速するのか

 11月24日のオーストラリア総選挙で11年ぶりに労働党が政権の座を奪回した。イラクからの撤兵とともに京都議定書の批准を全面に掲げての勝利だ。新政府は早速、12月3日から開催される国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP13)に参加を決めた。

 オーストラリア全土では過去1000年で最悪の干ばつが発生し、地球温暖化に対する危機感が高まっていた。今回の選挙結果はこうした国民の懸念を反映した。

 反温暖化の旗幟を鮮明にする労働党政権だが、今春の綱領改正によりウラン増産容認へ路線転換を行った。これに対し多くの環境団体、NGOは批判を強めている。

 彼らは今後オーストラリアのウラン産出量が一気に増大すると懸念している。同国は全世界のウランの23〜40%が眠る世界最大の埋蔵国だからだ。

 ウランの国際価格は2000年に底値をつけて以降上昇を続け、今年は底値の20倍近い史上最高値を記録した。こうした事情を背景に、オーストラリアはウラン外交に打って出ている。これまでも日本の原発用ウランの約3割を供給し、米国、韓国など計11カ国に民生用ウランを輸出している。今後は輸出国、輸出量ともに急増していくことが予想される。

 9月にオーストラリア・シドニーで開催されたAPECと並行して、ロシアのプーチン大統領とオーストラリアのハワード前首相との会談が行われ、原子力平和利用協定が調印された。今後オーストラリア産のウランは、ロシアに輸出される。

 ロシアはオーストラリアから輸入するウランのほとんどを加工し、原発燃料として日本に輸出する計画だ。これにより2008〜15年の低濃縮ウランの対日輸出額は20億ドルに達すると見込まれている。

 原油価格高騰のなか、世界は原発建設ラッシュを迎えようとしている。プーチン大統領は、「今後15〜20年の間に30基の原発を建設する予定」と語り、中国も2020年までに新たに30基の原発を建設する計画だ。昨年4月にはオーストラリアと中国との平和利用協定が締結されたばかりで、今後中国もオーストラリアにとって有力な輸出先となるだろう。

 さらに今年8月オーストラリア政府は、ウラン輸出先を核拡散防止条約(NPT)加盟国に限るとしてきたこれまでの政府方針を転換し、非加盟国インドへの輸出容認を決めた。インドも今後10数年で原発の発電量を少なくとも現在の数倍規模に増やす予定だ。

 オーストラリア国立大・戦略防衛研究センターのロバート・アイソン上級研究員は、「オーストラリアはウラン輸出を通じて、中国、インド、ロシアといった国との関係を強化すると同時に、国際社会での影響力増大を視野に入れている」と述べている。

 ウラン埋蔵量では世界1位のオーストラリアは、州政府の規制により産出量ではカナダに遅れをとってきた。それが一気に攻勢に転じようとしている。

 ポスト化石燃料の時代、ウランは新たなる戦略資源として浮上し、ウランをめぐり各国の攻防は今後さらに加熱していくだろう。

 しかしその先に待ち受けているのは、核に汚染された地球の姿でしかない。

           (編集部)

(1257号 2007年12月10日発行)