精神と肉体を内側からリラックスさせる代替医療
ストレス過剰な現代社会を生き抜くのは辛い
自分で言うのもなんだが、私はもともと「キレるオヤジ」だった。ところが1年ほど前から普段でもイライラして頭がのぼせることが多くなった。夜中も動悸がして眠れない。
「アル中か?」と思って禁酒したが治らない。下痢や頭痛にも悩まされた。一番困ったのは頻尿だ。本屋で立ち読み中急に尿意を感じトイレに飛び込んでも、タッチの差でちびってしまう。子どものころの寝小便を思いだして自嘲したが、さすがにこれには参った。
そこで内科の検診を受けたところ、「自律神経失調症」と診断された。生活習慣の乱れやストレスが原因らしい。思い当たる節はある。この1〜2年、妻との死別や職場でのトラブルなど人並みに様々な心労が重なったのだ。
<自律神経のバランスは崩れやすい>
医者の診断を踏まえ、自分で自律神経について調べてみた。
私たちの体は、内部環境の恒常性=ホメオスタシスを保つために、交感神経と副交感神経の2系統によって制御されている。興奮時に働く交感神経が優位になると心拍数が上がり、血圧が上昇する。そして消化器系の働きは抑制される。安静時に働く副交感神経が優位になると、心臓の働きは抑制され、消化液の分泌が促進される。一方が優位に働けば他方が劣位になるように作用しているのだ。
このバランスが崩れると、様々な症状が出る。たとえば、交感神経が活発化しすぎると動悸が激しくなり、副交感神経が活発化しすぎると、神経性の下痢の原因になると考えられている。
勿論、いくらウンチクが増えても肝心の症状は改善しないから、とりあえず心療内科を受診した。「大丈夫ですよ。良い薬がありますから」と処方されたのは精神安定剤だ。しかし1月飲んでも効果がなく、飲むのをやめてしまった。
何か別の病気ではないかと疑い、様々な検査を受けた。胃カメラを飲み、大腸がんを検査し、脳ドックでも異常なし。頭痛の原因は顎関節症ではないかと歯医者にも行ったが異常はない。あれやこれやと不安は錯綜し、ドクター・ショッピング(次々と医者を変えること)を繰り返した。
しかし一向に埒があかないので、再度自分で自律神経失調症の対策本を紐解いてみた。そこには様々な「代替医療」が紹介されており、医者も勧めていたヨガを始めてみた。ある研究によれば、ヨガの意識的な呼吸はセロトニン神経を活性化し「平常心」を生み出すらしい(『セロトニン欠乏脳』有田秀穂著』)。確かに数ヶ月続けると肩の力が抜けてきた。
並行して試したのはハーブだ。日本ではハーブは嗜好品の「お茶」として認識されているが、欧米では薬草として飲まれている。専門店では、問診表に症状を記入すると医師が体に合ったハーブを選んでくれた。ストレスや不眠に効果があるといわれているレモンバームやカモミールがブレンドされたハーブティーを朝夕飲んでみた。
様々な手技療法も試した。「リフレクソロジー」は、足裏にある反射ゾーンを刺激して血液やリンパの流れを促進し、自然治癒力を高める。自然療法教室では、自宅でできる「ビワの葉温灸」を習った。
鎮痛作用があるといわれるビワの葉を「棒もぐさ」で熱して、ツボを刺激する(自然療法教室にて筆者撮影)
なかでも最も効果があると感じたのは、カイロプラクティックだ。約100年前にアメリカで興ったカイロは、様々な手技テクニックで「自然知能=自然治癒力」を高める新興療法だ。日本では医療としては認められていないが、腰痛や肩こりに効果があることは知られている。脊柱を通る神経系の働きを正常に導き、自律神経失調症や不定愁訴などの疾患をケアする。カイロの施術を受けた晩は心地よい倦怠感があり、ぐっすりと眠ることができた。
<リラックスは免疫力を高める>
昨年私の妻は交通事故で大怪我を負い、病院の集中治療室に運ばれた。外傷による脳浮腫が認められ「脳低温療法」が行われたが、後に急性腎不全を起こした。1ヶ月間に渡り人工透析などの懸命な治療が続けられたが、「多臓器不全」で亡くなった。
私は妻に寄り添いながら、最先端の救命システムの素晴らしさを感じると同時に、薬や手術、延命装置だけでは人の健康は維持できないことをあらためて思い知った。妻はバセドー病を患っていて、日頃から抵抗力が弱かった。事故が起きた朝も、体調が悪いと言いながら無理をして仕事に出かけた。
「ひょっとしたら自律神経失調症だったのではないか。私がもっと気を遣って配慮してあげれば…」。私はこの悲しい体験から、自然治癒力を高める代替医療に強く惹かれたのだ。
代替医療に対しては、「気休め」という批判もある。しかし私は、この「気休め」=リラックス効果こそ重要なのだと思う。人間の体には、外敵から身を守るシステム=免疫系が備わっている。ストレスを感じると体内で副腎皮質ホルモンが分泌され、血液中の血糖値が上がり脳や筋肉の働きを高め、ストレスと戦う態勢を整える。しかしその一方で、免疫細胞のリンパ球(ウイルスなどを殺す白血球)はこのホルモンの作用で減少する。またマクロファージ(ウイルスや花粉などの異物を取り込んで消化する細胞)の働きも低下させるのだ。
つまり、「いらいらや不安を感じると交感神経が働き、免疫力が落ちる。リラックスすると副交感神経が活発になり、免疫力が高まる」(『免疫力がアップする50の方法』松下祥監修)のである。『免疫革命』の著者・安保徹氏も、副交感神経の働きによって血管拡張が起こり血流を回復させると酸素と栄養が全身に運ばれ、自然治癒力が高まると主張している。
対処療法を中心としたこれまでの西洋医学の基本は、Evidence Based Medicine(EBM)=「根拠(証拠)に根ざした医療」だ。個々人の経験や推論ではなく、科学的な根拠に基いた医療を重視する。しかし私は、たとえ「根拠」がはっきりしなくても、患者が主体的に選択する代替医療をもっと尊重すべきだと思う。
アメリカでは、「補完・代替療法」(Complementary and Alternative Medicine=CAM)は広く承認されている。いまだに原因がはっきりせず、治療法が確定できない病気が少なくないのと、公的な医療制度が存在しないことが背景にある。「アメリカではセルフケアが基本」「『自己責任』から考えると、非常に幅広い層の人たちが代替医療を選択する余地がある」(『代替医療のすすめ』渥美和彦)。
勿論、代替療法の多くはEBMではない。代表例は、自分のオシッコを飲む「飲尿療法」だ。これに関する医学論文は存在せず、科学哲学者・伊勢田哲治の言葉を借りれば「疑似科学」である。
「反証が出そうな実験をし、それでも仮説が生き延びたら一応認めてあげようというのが科学」「ツボや気など、解剖学的に確立されていないものをよりどころにする理論は疑似科学」(4月6日朝日新聞)
しかし鍼灸は、実際に多くの人の役に立っている。一方、代替医療による事故や副作用が存在することも確かだ。要は代替医療を選択肢の一つに加えて、患者自らどのような医療を望むのかをイメージし、選び取っていくことが大切なのだ。それはどんな人生を望むのかを考えるのと同じだ。単に情報に躍らされるだけでは駄目なのである。
オオサンザシの実・二日酔いに効果がある(植物の写真は、岐阜の内藤記念薬博物館の薬草園で筆者が撮影)
現在、私の体調は回復に向かっている。ひょっとすると退職して職責から解放されたことが一番の回復原因なのかもしれないが、この際本格的に代替医療を学んでみようと専門学校に通い始めた。
ただし私は、今の自分を「再チャレンジ」などと語りたくない。新たなストレスを抱えて挫折することを恐れるからだ。とは言え、適度な「良性ストレス」は意欲向上につながるらしい。前向きな目標を抱き、心身の健康を維持しよう。
いつか、「人生はすばらしい=ライフ・イズ・ビューティフル」と言える日が来るかもしれない。
富井典之(40代 専門学校生)
