無駄だらけのニッポン食糧事情
わずか50年で日本の食文化は激変した

 日本の食料自給率が40%をきった。私たちの食卓に並ぶ食べ物の6割以上は海外から買い集めている。

 1960年代の食料自給率は70%以上だった。著者の魚柄仁之助氏は、「少なくともその時代くらいの自給率をたもたにゃ、食料の安全保障はできますまい。世間では『食の安全、安心』を求める声が多いが、そりゃ品質に関する安全であって、食糧確保という意味の安全ではなかろう。今のニッポンに本当に必要なのは食糧確保の方の安全なんですわい」と指摘する。

 ちなみに日本の漁獲生産高は、約10年で800万トン超から600万トン弱に減少した。代わりに輸入が増えたことで、魚の自給率は1970年代の100%から57%に激減したのだ。

 一方世界では魚への需要が急増している。BSEや鳥インフルエンザの影響で、今まで魚を食べなかった国で魚肉の消費が増え、日本のカニかま、はんぺん、すり身などは欧州を中心に人気が出ている。2000〜2004年の間の水産物消費量は、米国16・4%増、英国9・7%増、中国14・5%増だ。「日本がお魚天国だったのもそろそろ過去のこととなるでしょう」と著者は嘆く。

 最大の問題は、こうした厳しい食糧事情にも関わらず、毎日のように膨大な食べ物が捨てられていることだ。日本語の「もったいない」が世界的に注目されている昨今だが、肝心の日本では食べ物はかくも粗末に扱われている。

 『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』は、そんな日本のお寒い「食」に目を向けた本である。

<冷蔵庫はトランクルームと化した>

 魚柄氏は安全、安心な「食」に関心を持つ一部の人々からカリスマのごとく崇められる食文化研究家だ。その料理の腕前を駆使して様々な家庭の台所をサポートしてきた。

 「熱を出して寝込んじゃった……、つわりで台所仕事ができない……、子育てのストレスでもうダメ……、などの、いわゆる『台所緊急事態』にかけつける『台所レスキュー人』として長いこと飛びまわっておったんで、必然的によそ様の冷蔵庫と向かいあうことになった」

 こんな著者の経験に基いてリアルな描写が続く。農家の独り暮らしのおばあさん宅を訪問して冷蔵庫を覗く。4ドア400リットルクラスの大型冷凍冷蔵庫には、異臭を放つ卵や牛乳、識別不能となるくらいに干からびた豚肉などがギッシリ詰まっていた。食べない、食べられないものが膨大に詰め込まれ、トランクルームと化していたのだ。

 ここまでひどくはないにしても、買い込んだ食品を長い間冷蔵庫に放置し、結局無駄となった経験は大なり小なり誰にでもあるのではないだろうか。

 「冷蔵庫と向きあってみると、日本人の食生活の激変ぶりがよくわかってくる。食材の質的変化、嗜好の変化、流通の変化、環境や健康に関する意識の変化……。冷蔵庫って実に多くのことを考えさせてくれる生活道具であったんです。崩食、飽食、食育、孤食などが叫ばれておる昨今ですが、食のブラックボックスともいえる冷蔵庫をこじあけることで、21世紀、われわれがどのような『食状況』に置かれておるのか?を検証してみたい」

 魚柄氏は、本来大型冷凍冷蔵庫が必要になるケースは限られていると主張する。①買い物をできる場所が少ない、②地理的に買い物にいけない、③頻繁な食料調達が困難、などの場合だ。しかし24時間コンビニが営業し、いたるところにスーパーマーケットがある現代日本には、こんな不便な場所は滅多にないだろう。

 にもかかわらず近年冷蔵庫は巨大化し、今や500リットルぐらいのものが当たり前となった。著者はこうした現実を嘆いている。

 「本来、衛生的かつ安全に食べられるように保存するための道具である冷凍冷蔵庫のはずなのだが、……必要以上に買いこんでほったらかし、傷みかかれば栄養価も落ち、味も落ちる。それを『もったいない』と食べることの、どこが美徳なんだろ?食べきれないほど買いこみ、食べきれないほどたくさん調理し、今日も明日も残りものを食べ、しまいにゃ飽きるし、傷みもする。食糧難の時代でもあるまいし、まさにあさましいとしか言いようがない姿が、今日の日本にあるのです」

 確かにスーパーに行けば、既に冷蔵庫で冷やされた食品が直ぐに手に入る。冷凍食品も直ぐに手作りできるようなものばかりだ。それをわざわざ大量に購入し、家庭の冷蔵庫で冷やすのはエネルギーの無駄以外のなにものでもない。その都度必要な量を調達すればすむはずなのだ。

 著者の指摘する通り、巨大な冷蔵庫を買う必然性など存在しないのである。

<干物にすれば美味しくて長持ち>

 最近大手のコンビニでは、廃棄処分された弁当などを回収して、家畜の飼料として再利用している。

 しかし大量の防腐剤・添加剤を含んだコンビニ弁当は、家畜に健康被害を与えるとの指摘もある。西日本新聞社発行のブックレット『食卓の向こう側』には、福岡県内の養豚農家がコンビニの弁当やおにぎりを母豚に毎日3キロずつ与えたところ、奇形や死産が相次いだことが記されている。

 本当の問題は、そもそも必要以上の食品が作られていることだ。防腐剤で保存期間を延ばして余計な食べ物をつくり、大量に廃棄されたものを再利用するなど矛盾している。それよりも消費者自身が食品を上手に処分するノウハウを身につけることが大切なのだ。

 魚柄氏は、より合理的で美味しい食品の「しまつの掟」を例示している。「リンゴがたくさんある。このままだと傷みそう。どーする?」と問い、「ジュースにしたり、シロップ煮にして冷凍する手」もあるが、「最もエネルギーをかけずに保存する方法」は「輪切りリンゴの干し物」にすることだと薦めている。

 まず丸ごとのリンゴの芯を抜く。そのリンゴを厚さ1センチの輪切りにする。ドーナツ上になった輪切りリンゴの穴に細い棒を通し、天日で干す。これで、バリバリの干しリンゴ、保存性のいいドライフルーツに生まれ変わる。

 さらに、イワシ、サンマ、アジ、サバ、タイ、ヒラメ、トビウオ、イカ……ほとんどの魚は干物にするのが一番だ。内臓を抜いて、包丁を使わず手で2枚開きにし、塩をまぶすか、塩水または塩みりんにひたしたあと、ただ干せばよい。24時間前後の生干しなら4〜5日は常温保存で食べられるし、48時間以上干せば1週間以上日持ちがする。「野菜の干物は1年後も味噌汁の具として活躍し、残りご飯の干物は3年持っている」と著者は自慢している。

 干物はまさに日本の伝統的食文化が培ってきた保存調理法だ。無駄なエネルギーも使わず、しかも食品のなかの旨みや栄養が凝縮される。魚や野菜の干物の美味しさは知っていたが、今まで自分自身でつくってみようと考えたことはない。

 冷蔵庫が普及する前には、どの家庭でも普通にやっていたことなのかもしれない。干している間の管理が大変そうだが、一度チャレンジしてみたいと思う。

           (小淵 俊)

(1255号 2007年11月10日発行)

『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』