昨年12月27日、東京都収用委員会は圏央道建設予定地の収用と土地使用を認める裁決を下した。これを受けて国土交通省と中日本高速道路株式会社は、2009年度末までに八王子ジャンクション―八王子南インターチェンジ間(約2・1㎞)の開通を目指している。

 最大の問題は、この区間を開通するために高尾山にトンネルが掘られることだ。この工事は2006年4月国交相が事業認定したが、地権者ら約560人は買収を拒否。そこで同年12月、国交相は収用委に収用裁決を申請した。予定されるトンネル真上の土地所有者も土地使用を拒否したため、同土地への使用裁決も申請されていた。

 今回の裁決により、中途で止まっていたトンネル工事はいつ再開されてもおかしくない。住民側は地裁に収用裁決の取り消しを請求する方針だ。

 住民がトンネル工事に反対するには理由がある。生態系への悪影響、とりわけ地下水系が大きく損なわれる危険があるからだ。既にこれまでの工事により、八王子城跡の「御主殿の滝」の水が枯れる現象が発生した。

 国交相や中日本高速道路株式会社は、最新の工法などにより地下水系への影響はないと主張しているが、トンネル工事により多くの住民が甚大な被害を受けている驚くべき事例がある。広島市の福木トンネル工事による地盤沈下だ。

 福木トンネルは広島高速1号線と山陽道が接合する箇所につくられた。高速1号線は昨年10月16日に全面開通し、2号線、3号線、4号線、5号線の整備計画もある。圏央道同様、ほぼ環状に広島市を取り巻く環状道路で、2013年までに段階的に供用する予定だ。

 問題のトンネル工事は2001年5月に開始された。掘削が始まった直後に地下水が漏れ始め、着工からわずか1年で地盤沈下量は当初の予測を上回った。1・5センチの予測をはるかに超え、最大15センチにもなったのだ。

 このトンネルは中国電力・広島変電所の下を通るため、このままでは危険と判断されて工事は中断。土壌を硬化させる「薬液注入法」を施行追加して再開した。その結果、福木トンネル建設費は当初の88億円から168億円へと2倍に膨張。それはそのまま通行料に跳ね返ることになった。

 しかし問題はこれだけでは終わらなかった。以降も地盤沈下はおさまらず、最大18・2㎝、予測値の12倍に拡大しさらに悪化する可能性がある。地面のひび割れのほとんどはトンネルの伸張方向と平行して発生している。原因は明らかにトンネル工事なのだ。

 100軒以上もの住民は被害を訴えている。被害の程度は場所によって様々だが、壁やブロックにヒビが入るのはまだ軽症で、基礎の一部が崩壊したり、梁に大きな亀裂が入った家もある。建築の専門家は、傾いた床の上をビー玉が勢いよく転がる家を検証し、修復不可能で建て替えるしかないと提言している。

 しかしたとえ建て替えても、既に地盤そのものが不安定なため、再び被害に遭う可能性もある。地盤沈下した土地は二束三文に下落しているため、不動産を売却して引っ越すこともできない。まさに住民にとっては踏んだり蹴ったりなのだ。

 もし地震が起きたらさらに被害が拡大するかもしれない。こうした心配や将来への不安でストレス障害を患い、体調を崩した人もいる。農家も大打撃を受けている。近隣の田んぼでは地下水位の低下で水涸れが起こり、散水車が出動して田んぼに水を注入している。どれもこれもすべて、トンネル工事によってもたらされたものだ。

 住民にとってせめてもの救いである被害補償の手続きも遅々として進んでいない。道路公社が提示している補償額は、実際に必要な補修や建て替え費用にははるかに及ばない微々たるものだ。その一方で、変電所を所有する中国電力には、既に6億円もの巨額な補償金が支払われている。住民の存在はまったく無視されているのだ。

 この工事でも道路公社は、「地下水は抜けても大きな地盤沈下は引き起こされない」と計画段階では説明していた。高尾山にトンネルを掘ろうとする中日本高速道路株式会社も同様の説明をしている。

 ミシュランガイドで三ツ星を獲得した高尾山。一度水系が破壊され地盤沈下が起きれば、二度と回復するのは不可能だ。福木トンネル工事を「他山の石」としなければ、取り返しのつかないことになる。

(1260号 2008年1月25日発行)