人と環境に優しい自転車で洞爺湖を目指す 横山茂彦さんに聞く
サミットは実効性ある温暖化対策を議論すべきだ
来年7月北海道洞爺湖でG8サミットが開催される。サミットに抜本的な温暖化対策を求めるキャンペーンの一環として、首都圏〜洞爺湖間1000キロの自転車ツーリングを呼びかけている横山茂彦さんに聞いた。(ツーリング趣意書はこちら)
<自転車中心のエコ交通システムを>
◆ツーリング洞爺湖で訴えたいことは
ひと言でいえば、日本政府の無策についてですね 京都議定書で決めた温室効果ガスの削減目標については、もう達成するつもりがなくなったのか、何ら具体性のある政策を打ち出せていません。生活スタイルを変えると言っても、なるべく公用車を使わない、クールビズやウォームビズでエアコンを使いすぎない、つまり目先の節約節電だけなんです。
肝心の環境税は経済界の反対を前に、いまだ導入できないままです。EU諸国では炭素税の導入が始まり、着実に温室効果ガスの低減に向かっているのにですよ。日本が環境政策の枠組みづくりをとか言っても、これでは空虚な掛け声です。
◆「美しい星2050」と、スローガンだけは美しいですが
そう、スローガンだけは美しい。ところが、毎年8%もCO2は増えている。
温室効果ガスの大きな排出源の一つは運輸部門です。自動車やトラックに依存した交通・輸送体系を抜本的に変革しない限り、二酸化炭素を大幅に削減することは不可能です。すでにヨーロッパでは、都市中心部への自動車の乗り入れを規制し、LRTなどを活用した「持続可能な交通政策」に取り組んでいます。
たとえば、私がフランスに行ったのはもう20年前ですけど、その頃は東京よりも排ガス規制がゆるくて喉に空気の悪さを感じたものです。パリではあの狭い石畳の路地を車が激走していて、ドライバーのマナーも悪いし、怖い街だなぁという印象だった。
ところがここ数年は地方都市から実験をはじめて、トラム(路面電車)と自転車を中心にした交通システムに変更した。断固たる決断で、中心部から一般車を排除です。現在はパリ市内に200以上のステーションを持つレンタル自転車が活躍しているそうです。
環境政策というのは、排出権市場などというフィクションでは無理なんです。そもそも環境市場そのものが、規制によって成立するものなんですから。炭素税も規制の一環ですし、この分野の政策は規制(罰則)と評価(報奨)いがいの何物でもありません。
ただし、自動車を控えめにして自転車に乗ろうというのは強制できないので、大衆的なキャンペーンが必要になります。今回のツーリング洞爺は、一人でも多くの人が自転車生活を開始してもらうのも目的です。走行会への参加、練習ツーリングだけの参加も大歓迎です。
◆日本でも自転車の比重は大きいと思いますが
じつは日本も自転車大国なんです。防犯登録数だけでいえば、国民の3人に2人以上が自転車を所有していることになります。実態はもっと多いんじゃないかな。ただし、道路行政の無計画もあって、交通システムとしての自転車は非常にマズいことになってる。
昨年から今年はじめにかけて、警察庁は道路交通法の改定を検討し、自転車の走行を車道から歩道上に変更しようとしました。自転車事故の増大がその理由なんですが、サイクリストたちがネット上で反対運動をはじめ、いろんな形で反対キャンペーンが行なわれました。その結果かどうかは判りませんが、突如として車道に自転車走行レーンを整備する方向に180度変わりました。
たしかに日本の道路事情では、自転車は危険な乗り物なんです。自転車は車道を走るのが原則ですが、たとえば右折したい時に対面信号が赤になったら、自転車を降りて歩行者になることが出来る。そのまま青信号の横断歩道を渡って右側の歩道へ、さらに対面信号が青になったら歩行者として横断歩道を渡って車道を走りはじめる。という具合に、既存の交通法規にしたがった場合も自転車は自由でアナーキーな交通手段であって、車道の右側を逆走しても狭い歩道を爆走しても(違法です)あんまりお咎めがない。
これ、すべて自動車を優先してきた日本の道路事情の劣悪さによるものなんです。警らの交通警察官も、違法を承知で自転車で歩道を走ってるでしょ。自転車レーンを整備することで、自転車を歩道から車道に移すことは可能です。レーンを整備しますから、これまで駅前違法駐輪だった自転車は、そのままツーキニストとして自走通勤してもらうと。
自動車が狭い道を時速40〜50キロですれ違えるのは、ルールに対する信頼感があるからなんです。それと同様の自転車文化を発展させなければ、いくら自転車が環境に良いと言っても普及には限界があると思いますね。
その意味で、今回のツーリング洞爺湖を準備する中で、一人でも多くの方が自転車生活をはじめてもらえれば、という願いとともに、ルールとマナーの向上で日本にも自転車文化の定着をはかりたいですね。
<サイクリングは健康増進の切り札>
◆最近、自転車ブームが起きているようですね
まさに花盛りですね。サイクリングロードを高速で疾走するロードバイク、ミニベロやクロスバイクでの街乗り、都心部ではメッセンジャーバイクが大活躍と。
私自身は「出戻り新参」なんです。小中高時代に自転車ブームを経験し、ふたたび自転車にのめり込んでいる。私が少年だった頃の60年代後半から70年代の自転車ブームは、ツーリングブームだったといってもいいのかもしれない。ただし、当時は日本人にとって自転車はクルマの代用品、若者にとってはオートバイに乗りはじめる前の乗り物というイメージだったんでしょうね。
80年代になると、マウンテンバイクがブームになってツーリング車に取って代わりますが、これは文字どおりのブームで、一時的な流行だったと思います。
最近の自転車ブームは、当時とは違うと感じています。私の自宅は江戸川サイクリングロードが近いんですが、10年前はほとんど見かけなかったロードバイクも、いまは土日なら10分も走っていれば3〜4台はすれ違う。ローディー(ロードレース競技者)のメッカといわれる荒川サイクリングロードなら、10分も走れば10台以上はすれ違いますからね。
現在のロードバイクブームは、シマノがブレーキを持ったまま変速できるデュアルコントロールレバーを開発し、アルミよりも軽いカーボンフレームが普及したりと、性能向上が背景にあると思います。台湾や中国での生産が増えたことも、コストダウンによる普及を可能にしたと思う。私が小学生の頃に、新聞配達をして初めて買ったスポーツ自転車が3万円、中学生のときに買ってもらった本格的なツーリング車は5万円でしたが、30年以上たったいまも、それほど価格が高くなってるわけではない。
◆健康志向もバックボーンになっていますか?
そうだと思いますね。実際に自転車に乗ることで得られる身体的快楽は、素晴らしいものがあります。
一定の負荷をかけて脂肪を燃やす有酸素運動を続けるわけですが、サイクリングをして家に戻った際の心地よい疲れは最高です。アスリートなら誰でも体験できることなんですが、全身の毛細血管が広がり、ザーッという血の流れが実感できます。自転車には誰でも乗れますから、あまり苦労することなく一流アスリートが体感する運動後の心地よさを経験できるわけです。
私の例でいえば、一年前の体重が73キロで現在は約64キロ、体脂肪率は20%以上から13%、ウェストは86センチから82センチ。特別なダイエットをすることなく痩せられます。自転車に乗る前より、ご飯はたくさん食べていますしね。というか、私はこの歳(50代)になって食事の量が減ったことへの危機感、つまり食べる楽しみが少なくなったのに困って、自転車生活を再開したんです。
◆それほど簡単に痩せられますか?
誰でも簡単に痩せられますよ。夏場はとくに、おもしろいようにダイエットできる。人間の運動をささえるのはグリコーゲンなんですが、肝臓に100グラム、筋肉の中に多い人で500グラムほど貯蔵されている。
仮に全体で500グラムとしましょうか。これを完全燃焼させると、500グラムの体重が減ります。ところが、このグリコーゲン君を体内に貯蔵するためには、3倍の水分が必要なんです。500グラムのグリコーゲン君を燃焼することで、3倍の水分と併せて合計2キログラムが体内から消失する。一日の運動で2キロ痩せる法則です。
もっとも、炭水化物を摂取することで失われたグリコーゲンを貯蔵しますので、水分ももどってきます。実際には、有酸素運動による脂肪の燃焼分だけしか痩せない。水分が汗になって排出されない秋冬には、筋力の増強が体重に結びつきますし、食欲も増大しますんで肥りますよ(苦笑)。
おもしろいのは汗腺の作用で、走りおわってシャワーを浴びて筋肉を冷やしても、ビールをガアーッと飲むと汗になって出てくる。ビールはいいですけど、運動後の冷酒は禁物ですね、ガーッとがぶ飲みしてしまいますから。って、そんなことは誰もしないか。いずれにしても、積極的に体を動かすことで自分の体と対話する。いいことだと思います。
◆そうすると、自転車の健康効果は医療政策にもなりますね
健康という意味では、サイクリングは関節痛の人にも大変効果があります。例えば整形外科医は膝を痛めた際のリハビリに自転車を薦めます。関節そのものは鍛えることができませんが、その周辺の筋肉は鍛えることができるからです。筋肉がなければ、関節は動かせません。ウォーキングも運動の効果はありますけど、体重の3倍の負荷がかかります。階段の上り下りで7倍、ジョギングは10倍の負荷がかかります。自転車は1倍なんです。軽いギヤで長時間の有酸素運動をするのが一番です。
さらにいえば、サイクリングは大腰筋や腸腰筋などのインナーマッスルを鍛えます。腹筋はそれほど使いませんが、有酸素運動によって確実にお腹の回りの脂肪は軽減します。適度なサイクリングは健康にとって良いことずくめです。
先進国では今、治療から予防を重視する健康保険政策への転換が注目されています。莫大な医療費を費やして入院や手術を繰り返すよりも、生活習慣病や成人病を予防する健康的な生活習慣を身につけるほうがはるかに国民の健康増進につながります。増えつづける医療費も抑制することが可能です。という私も、2年前は高脂血症、中性脂肪過多、高血圧の気配ありで、いわゆるメタボリックシンドロームだったんですから。
<物質文明へのオルタナティブ>
◆自転車には文化的な可能性もありますね
そうそう、自動車に象徴される現代文明は「より速く、より遠く、より大量に」がコンセプトでした。休日のたびに何十キロの渋滞のなかわざわざ自動車で遠くへ出かけるのは、まさに現代文明の象徴ですね。
自転車と比較すれば分かりますが、自動車は点と点の移動なんです。目的地までは移動するだけで、途中で良い景色があってもなかなか簡単には止められない。目的地に着いてからは、山登りでもするのなら別ですが、ほんのちょっと観光地を歩くぐらいで終わってしまいます。
その点、自転車ならば裏道に入ったり、休憩したりするのが自由自在です。自分の家の近所でも、自転車で走れば「こんなところがあったのか」と発見の連続ですからね。いま私は都心に出るにも、毎回より安全なルートを開拓して走ること自体が楽しみになっています。
子どものころに、初めて自転車を買ってもらった時の新鮮な感覚を想い出してみてください。休日に「今日は隣町まで行ってみよう」とワクワクしながら自転車にまたがったあの感覚が原点であって、少年少女の頃の気分を取りもどせると思う。
現代文明は、グローバル・サプライチェーンにより世界中からあらゆる物が入ってきます。季節に関係なくどんなものでも食べることができ、何万キロの彼方で収穫された農産物、あるいは肉や魚が食卓に並びます。でもその輸送のために、膨大なエネルギーが浪費されているわけです。こうした現状に対して地産地消がオルタナティブとして提起されていますが、自転車が創り出す新しい価値観、ライフスタイルもまた、十分有効なオルタナティブになり得ると私は考えています。
私自身、若い頃は社会主義などの理想に惹かれた時期もありました。スローガンや理論を叫ぶだけでは現実の社会は変わりません。サミットへ向けてのツーリングは、社会的キャンペーンであると同時に、その行動を担う私たち自身がより健康で文化的な生活スタイルを実践することにつながります。まさに知的肉体派志望者よ、集まれ! です。
こんな社会運動こそやってみたかったので、本当に今から楽しみです。私のような自由業や学生でない限り全行程に参加するのは難しいでしょうが、1日でも2日でもいいからできるだけ多くの方が参加してくれると嬉しいですね。
PROFILE▼よこやま・しげひこ
北九州市出身、現在は松戸市在住。学生時代は三里塚闘争などに参加。出版社勤務をへて著述業に。著書に『闇の後醍醐銭』(叢文社)、『池波正太郎が愛した宿』、『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)など。その他、複数の筆名でエンターテイメント系の著作多数。
自転車活用推進研究会会員(http://www.cyclists.jp/legist/index.html)
ブログ http://07494.cocolog-nifty.com/blog/
