どれだけ涼しいか実際に測ってみた
       
 今年の夏の一番のニュースは猛暑だった。各地で観測史上最高気温を更新し、埼玉県や岐阜県ではついに40℃を超えた。

 地球温暖化の影響も間違いなくあるだろうが、都市部、特に内陸部で気温が高くなっているのは、ヒートアイランド現象が関係していると思う。

<内陸の幹線道路沿いはとても暑い>

 私は神奈川県相模原市に住んでいるが、ここもまた暑かった。

 神奈川県は2004年に「ヒートアイランド現象実態調査報告書」を発表した。県内各地の過去29年間(1975年から2003年まで)の年平均気温の上昇値を見ると、第1位のポイントは川崎市内に、第2位のポイントは相模原市内に存在する。両地点共に0・07℃を上回り、同時期の東京都の上昇値0・043℃を大幅に上回っている。

 0・07℃は一見僅かな気温上昇に思えるかもしれないが、毎年このペースで気温が上昇すれば、100年で平均気温は7℃も高くなる。今年でさえ死亡者が出るほどの猛暑なのに、気が遠くなる話だ。

 報告書内の人工排熱分布図を見ると、幹線道路沿いで排熱が多いことがはっきり分かる。相模原市は県内でも内陸側に位置し、市内の幹線道路では昼夜を問わず車やトラックが絶えない。ゆえに神奈川県内でここ30年ほどの間に気温の上昇が最も激しかった地域なのである。

 幸い私の家の近所には雑木林がある。実はこの雑木林が気に入ったからここに引っ越してきたといっても過言ではないのだ。引っ越してきて最初の夏、雑木林のそばを自転車で通るとすごく涼しく感じて驚いたことがある。周りの住宅地のなか、明らかに雑木林のそばの道は涼しいのだ。

 そこで思い出したのが、ヒートアイランドならぬクールアイランド現象だ。広い緑地を有する東京の新宿御苑は、夜になると周囲のビル街よりも2〜4度気温が低くなり、周辺に冷気を出す。その結果御苑周辺は夏でもすごし易く、周辺の賃貸物件の家賃は相場よりも高いらしい。

 ヒートアイランド化する都市の中で、公園などの緑地が周囲よりも涼しくなるには理由がある。昼間は植物が水分を蒸発させるため、気化熱によって熱が失われて気温が低くなる。夜間は昼間の蓄熱が少ない上に、上部の空間が開けているため大地の放射冷却が起きやすいのだ。

 これに比しビル街では、コンクリートやアスファルトに覆われて水分が少ないので昼間は蒸発が起きない。夜は畜熱した建築物が大地の放射冷却を阻む。さらにエアコンの排気熱などが出ているから、暑くならないほうが不思議だ。

 クールアイランド現象は夜の冷気のしみ出しだけでなく、風で緑地の冷気が周辺に拡散すれば昼間でも起きるそうだ。近所の雑木林のそばが涼しいのはそのためだろう。

 実際のところどれくらい涼しいのかを調べるために、気温と湿度を測ってみた。

<気温5℃の差を計測した>

 測定を行ったのは8月13日。2日後の15日には、暑さで東武東上線のレールが曲がった。まさに猛暑真っ盛りの午後1時半、帽子に日焼け止め、水分補給のためのお茶を持っていざ炎天下のなかへ出発した。

 測定に使ったのはデジタル製温湿度計。かなり昔に買ったものだが、普通に動いているので良しとした。どうせやるなら、できるだけ百葉箱に近い条件で計測したい。百葉箱は地上から1・2〜1・5mの高さで、風通しがよく直射日光が当たらない状態で気温を測る。

 そこで私は温湿度計を自転車の籠の中に置き、上から紙の箱をかぶせた。厳密には芝生の上など地上からの照り返しがないことも条件の一つだが、これはどうしようもないので無視した。

 最初に国道16号線沿いの近くのホームセンターに行き、駐輪場に自転車を停め10分ほど放置した。周りは道路とホームセンターやスーパーなどの商業施設、若干の住宅で、ほぼコンクリートとアスファルトに囲まれた状態だ。車やスーパーの冷房の排熱でかなり暑く、計測中はとても傍にいられず、ホームセンターの中に避難した。

 しばらくして戻り、箱を取ってみると、なんと気温40℃、湿度34%だ。40℃の表示を見ただけでくらくらしてしまった。

 次に500mほど離れた自宅へ戻る。ホームセンターから雑木林に向かって3分の2ぐらいの地点で、周辺は住宅街。ほぼアスファルトに囲まれ、住宅の庭など若干の緑がある程度だ。

 自宅前は気温37℃、湿度41%。ホームセンターほどではないが、それでも体温より高いのかとまたくらくらする。でもわずか500m離れただけで3℃も低くなることにちょっと驚いた。

 最後はいよいよ自宅から250mほど離れた雑木林のそばへ向かう。日光が当たっている場所を選び、自転車を停めてしばらく待つ。その間雑木林の中へ入ると、日陰に涼しい風が吹き渡ってとても心地よい。このまま昼寝でもしたいと思いきや、蚊に攻撃されて再び炎天下に戻る。

 10分待って温湿度計を見ると、気温35℃、湿度45%だ。幹線道路沿いのホームセンターと比べると5℃も低い。体感的にはもっと涼しいような気がした。

 ちなみに雑木林の中の気温は33℃、湿度48%だった。日陰だしもっと気温は低いかと思ったが、林の中を吹き抜ける風がさらに体感温度を下げているのだろう。雑木林に近づくほど湿度が高かったのは、照りつける太陽で水分が蒸発しているからだと思う。

<住民の手で雑木林を守りたい>

 今回の測定で、雑木林は僅か1キロも離れていない地点に5℃もの気温差を生み出していることが分かった。これを人工的に作り出すにはどれだけのエネルギーが必要かと考えると、自然の力の大きさを実感した。

 相模原市の雑木林は、江戸時代の土地開発(新田作り)に伴い、燃料(炭)を調達するために植林されたものだ。結局この辺りは米作りには適さない土地で、その後生産の主力は養蚕になったが、人々の燃料調達のために雑木林は維持された。

 高度経済成長期の1960〜70年代には、全国で宅地開発が盛んになった。多くの自治体は宅地開発による人口増で税収増加を目指したが、相模原市は企業・工場などからの税収が多かった。その結果、市街化調整区域を設けて自然を残すことが可能になったのだ。

 考えようによっては、企業からの税収で支えられている雑木林とも言える。とは言え、県内でも気温上昇率の高かったこの地域に、クールアイラインドをもたらす貴重な雑木林が残されたのは不幸中の幸いだ。

 こうした雑木林の管理をボランティアで行っている地区もあるが、私の家の傍では自治会が管理をしている。交代で掃除を行い、雑木林の中で盆踊り大会も開かれる。

 街を冷やし、住民の憩いの場となっている貴重な雑木林をいつまでも残していきたい。そのためには、やはり地元住民が自ら保全活動を行うのが一番だと思う。

       鈴木郁(30代 会社員)

(1251号 2007年9月10日発行)

雑木林