書評『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(松永和紀著 光文社新書)
死と病の不安につけこむエセ科学情報

TV番組「発掘! あるある大事典Ⅱ」で放映された「納豆ダイエット」。放送直後にスーパーの陳列棚から納豆が消えたほどの大きな反響を呼んだが、実はその内容は捏造されていた。
本書はテレビに限らず新聞、週刊誌を含めたマスメディアが流す科学情報には多くの誤りがあると指摘している。同時にこの問題はメディアのみの責任ではなく、センセーショナルな情報を望む読者や視聴者との「共犯関係」の結果であるとも批判している。
その意味で単なる暴露本ではなく、メディア・リテラシーの視点から科学報道の「みかた」を検証するお薦めの一冊だ。
著者の松永和紀氏は毎日新聞の記者を10年勤めた後、フリーの科学ライターとなった。彼は記者時代に自らが執筆した記事も含め、メディアのあり方を自己批判的に捉え返している。
大きな問題となった「あるある大事典」だが、この手の健康情報番組は大流行だ。松永氏は開業医から「みのもんた症候群」を教えられる。体の不調を訴えながら、「みのさんがいいと言ったから、○○をたくさん飲んでいます」と語るお年寄りが急速に増えてきているのだ。
「あるある」の納豆のように、食べて実害のないものならまだいいが、実際には健康被害に至るケースも存在する。2006年5月TBS「ぴーかんバディ!」では、半生の白インゲン豆を食べるとダイエットできると「白インゲン豆ダイエット」を紹介した。これを実施したことで、「激しい嘔吐」「急激な下痢」に見舞われた人は分かっただけで数十人発生した。生の豆には毒性があるからだ。
多くの人はテレビで「ダイエットに効く」「健康に良い」などと放映されると一度はやってみようと思うのだろうが、まったく効果がないばかりか、逆に健康を害する場合すらある。
同時に、「××は危険だ」とする警鐘報道にもたくさんのウソがある。本書では、次のような例が紹介されている。
「2006年には、遺伝子組み換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が市民団体などの招きで来日し、全国を講演して回りました。海外ではまともなメディアからは相手にされていないのに、テレビ局や全国紙が危険説をそのまま報じて後に事実上の訂正をする騒ぎとなり、生物学者らに衝撃を与えた。『これほどずさんな主張を、日本のメディアは見破れないのか』というショックでした」
本書を読めば、問題の研究者イリーナ・エマルコヴァ博士の実験がいかにでたらめだったのかが分かる。予防原則の観点から遺伝子組み換え食品を批判することは必要だが、こんないい加減な研究者の主張に頼っていては逆効果だ。
本書では、「食品添加物は悪い」「オーガニック食品は安全だ」「環境ホルモンの恐怖」「バイオ燃料がエネルギー危機を救う」などのテーマについても検討している。
死や病はどんな時代でも人類にとっては恐怖の対象でしかなく、健康や老いへの関心は今後ますます強まっていくだろう。しかも現代社会は高度に複雑化し、リスクは多様化し、何から何をどう守れば良いのかすら分からない。
こうした人々の不安につけこむかのようにマスメディアは過大報道を行い、科学者はメディアが望む情報を提供し、受け手はこれに一喜一憂して大騒ぎしている。まさに科学者とメディア、読者・視聴者の「共犯関係」がなせる業だ。
かく言う私も、社会運動の視点からついつい「××が悪い」という報道に飛びついてしまいがちだが、冷静な判断が必要なことを自覚させられた。
(中村正明)
