先日、茨城県のNPO団体「菜の花エコプラン」の作業に参加した。菜種で食用油をつくり、その廃油からバイオ燃料をつくる試みだ。

 作業は殻から菜種を取り出す単純な農作業だった。大型トレーラーの荷台ほどの大きさのビニールハウスに、乾燥された菜の花が山積みになっている。これを数束ずつブルーシートにくるんで、丁寧に足で踏み、種を取り出す。主催者に訊いてみたところ抽出される油はたったの10リットルだというので驚いた。

 私がトラックで毎日使っている軽油は少なくとも50リットルから100リットルになる。何ヶ月もかけて菜の花を栽培し、これだけの人手と時間、さらに作業で使う軽トラックの燃料などの経費をかけて10リットルのバイオ燃料しかとれない。ましてやトウモロコシやサトウキビなどの貴重な食料をバイオ燃料にするのでは余りに意味がない、というのがトラック運転手としてまず率直に感じたことである。

<高騰する燃料費 下落する運賃>

 現在(2007年6月)軽油はリッターあたり110円から120円の相場で、過去最高値だ。来月にはまた10円ほど値上げされるらしい。原油の先物取引に手を出した連中は喜んでいるだろうが運送業者にとってはたまったものではない。

 日本物流団体連合会が今年4月にまとめた「物流サービスに係る内外価格差調査」の結果によると、欧米諸国やアジア諸国にくらべて日本の国内輸送の運賃水準は低い。

 5年前の同じ調査では、大量・長距離(10トンの貨物を1000キロメートル輸送)にかぎり欧米諸国よりも日本の方が高い指数を得ていたが、この5年間のあいだにこの分野もすっかり安くなってしまった。

トラック運賃内外価格格差(為替レートによる比較)

100㎏の貨物を50km輸送する場合  10tの貨物を1000km輸送する場合            トラック運賃内外価格格差(為替レートによる比較)  

 この調査は為替レートと購買力平価(同じ商品やサービスを購入する場合に必要な金額を各国の通貨で調べたあとそれらが同じ価値をもつと考えられる交換レート)によって、日本国内の運賃を100とした指数で評価されている。

 このうち少量・短距離のグラフを見ると、アメリカや韓国は日本の7倍、フランスは12倍だ。中国の指数も151で日本より高い。大型・長距離輸送のグラフでは若干その差も縮まり、ドイツ、中国、タイよりは日本のほうが高い。だがアメリカやイギリスから見ると日本の運賃は半分ぐらいだ。

<小口・近距離はキツイ仕事が多い>

 私の運送会社は、関東地方の田舎町で営業している。さいわい当社で保有する車輌は比較的ちいさな2トン車が多いため、燃料代の高騰などによる影響も大型トラックを保有している会社に比すれば少ないほうだ。

 大型長距離輸送をメインにして10台以上100台未満ぐらいの中堅の運送会社はいちばんダメージが大きいと思う。長距離運賃の目減りは最もひどいからだ。

 私の会社は、規模が小さく近距離の配達がメインであることから、仕事の回転も良く、ある程度救われている。だが小口で近距離の仕事はどうしても労働条件は厳しくなる。手積み手下ろしの仕事が多くなるからだ。

 建築現場に資材を担ぎ込んだり、工場や倉庫などに品目ごとに仕分けながら納品する。あるいは引越作業のような労働集約型の仕事が回ってくる。

 睡眠不足と体力を酷使する重労働のため、新人ドライバーの定着率は良くない。精神主義やめんどうみのよさだけでは若い運転手のモチベーションを維持することは難しい。

<人手不足と環境規制の強化>

 トラック運送は「3K労働」そのものだ。死傷災害発生状況(死亡災害および休業4日以上)は2006年、前年比で194人増の1万3402人に上った。

 これに対し業界をあげた労災事故防止運動を行って成果をあげている。今年は、すでに全産業で過去最多の重大災害が発生しているが、トラック運送業は前年比マイナス7件と唯一の減少業種だ。

 それでもトラック運転手にたいするマイナスイメージは強い。とりわけ若い求職者は運送業を敬遠する傾向が強いようだ。

 さらに6月から新しい免許制度がスタートし、3t以上6・5t未満の「中型免許」が新設された。これまでは普通自動車免許で5t未満まで運転できたが、今年6月以降に自動車免許を取得した人は3t未満までしか運転できなくなった。慢性的な人手不足と運賃の低下のなかで、ますます人手確保が困難になるだろう。

 運送業は荷物を積んで道路を走ることしかできない。薄利多売もきかない。そんな運送業者が生き残っていくためには、人件費を切りつめるしかない。だがそれにも限度がある。サービス残業をさせて眠らせずに2件も3件も仕事をやらせていれば、最悪の場合は重大事故にもつながる。

 しかも環境対策として排気マフラーにとりつける装置、キャタコンは1機につき50万円から100万円かかる。中小零細のトラック運送業者たちは、この装置をムリして買って、保有するすべてのトラックに取り付け、首都圏などの規制区域内で営業を維持しようとした。ところが数年後に別の規制がのしかかった。トラックの年式と形式によっては車検を更新できなくなったのだ。古いトラックを大事に維持して経営をしてきた業者はひとたまりもなかった。規制区域外に車庫を持てない運送業者はバタバタと倒産した。

<仁義無きトラック業界>

 なぜ運送業者は他の産業のように業界で団結して値崩れを防止しようとしないのか。そもそも運送屋は昔から「クモスケ」と呼ばれ、組織性や共同性、協調性と無縁な人種が多い。

 たとえば同業者が集まってみんなで値下げに反対しようとすれば、仲間だとおもっていた誰かが裏切り、平気で安い運賃で仕事を横取りしてしまう。まるで仁義なきたたかいだ。一匹狼のトラック野郎一番星。誰も同業者を信用しない。ある意味で「談合」などで批判されているよその業界をうらやましいと思う。

 そんなどうしようもない業種でなぜ私は働いているのか。睡眠時間も休みも満足になくとも頑張れるのはなぜなのか。それは、この仕事が好きだからだとしかいえない。待っている人に荷物を届け、お客さんにはできないことをやってあげて喜んでもらう、それがこの仕事の醍醐味だろう。

 新規開業も小泉政権の規制緩和のおかげでかなりやりやすくなった。毎年、開業する運送業者と同じ数の運送業者がつぶれていくが、そんな厳しい情勢のなかで不屈に抵抗して生き残るためにリゴリズムで爆走してやろうと思う。そんなとき、なんだか熱い血が騒いでしまうのを抑えられないのである。気がつけばワーカホリックである。

  日立通男 (40代 運送業)

(1250号 2007年8月25日発行)