マイ箸だけでは豊かな森は創れない

 最近マイ箸がブームだ。私の周りでもマイ箸を持つ人は増えている。使い捨ての割り箸よりマイ箸のほうが、環境に優しいイメージが強いからだろう。

 日本で1年間に消費される割り箸は250億膳で、国民1人当たり200膳に相当する。1度使えばゴミになってしまう割り箸は、身の回りにあるモノのなかでも使い捨ての象徴だろう。

 私は飲食店で働いているが、店では毎日数百膳もの割り箸が消費される。ゴミ箱に捨てられた大量の割り箸を見て、正直罪悪感を感じる。

 しかし、あえて著者の田中淳夫氏は問いかける。「本当に割り箸は森林破壊に関わっていて、使い捨てしてはもったいないのだろうか」、「塗り箸なら環境に優しいのか」。

<割り箸は悪いイメージばかり>

 歴史を遡れば、戦前にも割り箸不要論が注目を浴びた時期がある。1940年造船に必要な木材が不足したことをきっかけに日本軍情報局長が割り箸不要論を唱え、実際に駅弁の割り箸は廃止となった。

 最近では、1989年に割り箸批判が盛り上がった。世界自然保護基金(WWF)が「日本は割り箸の大量使用で、熱帯雨林を破壊している」とレポートを発表したことがきっかけだ。このレポートにより、割り箸には海外産の木材が使用されていることが明らかとなり、以降割り箸は森林破壊の元凶としてイメージされるようになった。

 確かに日本における割り箸の消費量は、1980年代から90年にかけて急激に増加した。この時期は、コンビニや外食チェーンのレストラン、ファーストフード店が増加した時期だ。増加した需要を賄うために、中国産の割り箸が普及するようになった。現在日本で消費される割り箸の98%は輸入品で、その内99%以上は中国産だ。

 その中国は、経済成長を背景に国内での木材需要が急増している。北京オリンピックや万博開催を控え、都市は建設ラッシュに沸いている。これらの木材需要を賄うため、手当たり次第に木が切られている。

 とりわけ中国北部では、すべての木を一斉に伐採する皆伐が行なわれている。伐採後の土地に植林されることは稀で、ほとんどがそのまま農業用地となる。中国の森林は、持続不可能なスピードで利用され尽くそうとしている。

 実際に中国は、今や日本を抜いて世界最大の木材輸入国だ。主な輸入先はロシア、次いでマレーシア、パプア・ニューギニアなどだ。

 中国産割り箸の原料は、1980年代初頭は他に使い道のなかったシラカバだったが、現在はロシア産木材が多用されている。それが回り回って日本に輸入されているわけだ。

<持続可能な森林経営を展望する>

 割り箸を否定するのはいいけれど、それに代わる塗り箸は本当に環境に優しいのだろうか? これについて直ぐに答えを出すことは難しい。

 飲食チェーンのマルシェ株式会社は、2006年2月から全国約770店舗で割り箸の使用を止めた。これにより年間1500万膳の割り箸が節約できたそうだ。

 代わりに使用している塗り箸は、使用後手洗いした後に自動食器洗浄機でさらに洗い、乾燥させる。それをアルコールで消毒し、一膳づつ箸袋に入れる。これらにかかる水道代や洗剤代などのコストは、割り箸使用と同程度だ。

 製造から利用、廃棄に至るLCA(ライフサイクル・アセスメント)で算出した環境負荷に関しては、未だ有効なデータが存在しないのでなんとも言えない。田中氏は、「大雑把に言って、塗り箸も環境に対して無罪でないのは間違いない。少なくとも割り箸をあげつらえるほど環境に優しい品とまでは言えないだろう」と述べている。

 私は塗り箸の利用を否定するつもりはないが、田中氏の指摘するように割り箸だけを悪者にしても仕方がないと思う。元々国産の割り箸は、主に背板と呼ばれる材を使っていた。これは丸太を板や角材に製材する際に出る弓形の部分だ。最近では、間伐材を使ったものも増えている。

 つまり割り箸は、木材製品や森林管理の際に出る利用価値のない材木の再利用だったのだ。だから割り箸利用を止めたからといって、そう簡単に森林を守ることはできない。

 現在日本の林業にとって最大の問題は、輸入材に押されて国産材の需要がどんどん減少していることだ。国産材が売れなければ、森や林を手間隙かけて間伐する意味は無い。人の手の入らない森林は荒れ果て、ますます木材の品質は落ち製品にならない。日本の林業は、こうした悪循環にはまりこんでいるのである。

 この悪循環を打開しない限り、たとえ割り箸の利用をゼロにしても、林業を再建し豊かな森を復活させることはできない。こうした問題意識から田中氏は、FSC(森林管理協議会)などによる森林認証制度を提起している。

 第三者機関が環境に配慮した森林管理がなされているかを審査し、合格すれば林業事業体に認証を与える制度だ。たとえ割り箸でも、認証森林の木材を使ったものならば環境負荷は少なく、利用に際してもそれを証明できるようにする。田中氏は、国産箸にも輸入箸にもこの制度を適用することを提案している。

 勿論、割り箸のコストアップは避けられないだろう。しかしレジ袋と同様割り箸を有料化したり、箸袋に広告を入れて広告料で価格を抑える「アドバシ」など、様々なアイデアが検討され、既に実行されているものもある。

 大量消費を助長するのではなく、有効な資源活用によって森林を守り、日本の伝統文化として箸づくりや箸使いを継承することも大切だ。

 割り箸だけを悪者にしていては、それこそ「木を見て森を見ず」になってしまう。身近な話題から、日本の林業再生を考えさせてくれる一冊だ。

                (寺本 貴)

(1250号 2007年8月25日発行)