バラバラに分解される郵政事業
サービス低下と地域格差拡大は避けられない
大野澄夫
<局内を分割する工事が始まった>
今年10月、小泉改革の目玉であった郵政民営化が実現する。日本郵政公社は、日本郵政株式会社(持株会社)と、その傘下の子会社、郵便事業株式会社(郵便会社)、郵便局株式会社(郵便局会社)、郵便貯金銀行、郵便保険会社の5つの会社に分かれる。
現在、私が勤務している普通集配郵便局は、郵便事業を担う郵便課・集配営業課、郵貯を担う貯金課、簡保の保険課、総務課で構成されている。民営化後は郵便、貯金、簡保の事業ごとに分社化され、窓口業務は郵便局会社に委託される。民営化によって今の郵便局は業務ごとに分割されるのだ。
集配局の大半は郵便会社と郵便局会社の2社が担うが、都市部の郵便局には貯金銀行(233店)、郵便保険会社(81店)の直営店が設置される。一つの局にそれぞれの会社の窓口が併設されるケースも出てくる。
複数社で一つの郵便局を使用する場合、会社ごとにセキュリティーを整備し、区画工事で局内を分割していく必要がある。このため現在、全国で郵便局内での工事が行われている。
私の局も土日となると、窓口の郵便業務の横で工事を行っている。作業員がコンクリートを流し込み、騒音の大きい作業機械を使うので仕事がやりにくくて仕方がない。
この工事が終われば局内は会社ごとに仕切られるので、民営分社化の形も目に見えてくるだろう。しかし職員の帰属企業は内定していても、これからの勤務条件や職員構成などはまだ何も知らされておらず、不安が募る。
<統廃合で消える郵便局>
これまで政府は、民営化されても過疎地の郵便局は守られ、より便利になると宣伝していた。しかし郵政公社は民営化に向けて、配達業務の効率化のために集配拠点の統廃合を行っている。市町村に点在する配達局1048局を、郵便配達や貯金・保険の募集を行わない「窓口業務」だけの特定郵便局にする計画で、既に1031局が統廃合された。
この集配局再編に対し、全国の自治体、住民の抗議の声が郵政公社によせられた。再編対象局は、鳥取県が全集配局の48%、山梨県47%、沖縄県47%、北海道36%の順で、そのほとんどが過疎地や離島だ。こうした地域では郵便局が公的サービスの拠点となっており、再編(廃止)は死活的問題なのだ。だが郵政公社は抗議に耳を傾けることなく計画を実施した。
多くの職員は異動を余儀なくされ、引越しを強いられたり、長距離の配達を任せられるなどの負担が増えた。人員もどんどん削減されており、民営化後は地方や過疎地だけでなく都市部でも集配局の統廃合が進行すると考えられる。
生き残った郵便局も今後維持されるかどうかは分からない。特定郵便局(日本郵政公社の営業所である郵便局の一種。全郵便局の約4分の3が特定郵便局)は郵便局会社に移行するが、収入は委託される3事業窓口業務による手数料のみだ。新たな業務を行ったとしてもどれだけの局が収益を上げられるのかは不明だ。
これまでは採算が合わないような過疎地にも郵便局は設置されていたが、民営化によって採算がとれない局が廃止されていくことは明らかだ。
実際、郵政公社は民営化に伴う業務の複雑化や職員の高齢化が原因で、全国に約4500ある簡易郵便局(地方公共団体や組合、個人等に窓口業務を委託している郵便局)のうち約500局が一時閉鎖する可能性があると公表している。郵便局の廃止はすでにはじまっているのだ。
<全国均一のサービスは受けられない>
さらに郵便局がバラバラに分社化されれば、これまでと同様のサービスは不可能だ。
例えばこれまで窓口に従事するものは、郵便や配達に関する申告からトラブルまであらゆることに対応してきた。配達員がいない日曜日や夜間に自分で直接集配営業課に行って配達状況を調べることなどよくあった。
しかし民営化後、郵便局会社は引受け業務(窓口)だけを担う。このため郵便事業の引受け、輸送、配達の一貫した流れは断ち切られ、全体を把握した細かいサービスはできなくなる。
政府は民営化すれば「郵便局はコンビニのように便利になる」「地方公共団体の委託業務や新サービスができる」と夢が膨らむようなことばかり言ってきた。しかしそんな保障はまったくない。少なくとも今後は私たち職員もシステムや業務の変更に対応するのに手一杯になる。
利用者はこれまでと同じサービスが受けられないことに不満を抱き、申告や苦情が増加するだろう。複数社が入る窓口では、横のつながりが断ち切られ、ますます融通が利かず苦情が増えることも考えられる。
既に地方では、集配局の再編で身近な外務員がいなくなり、貯金・保険の集金にもこなくなったと苦情が寄せられている。
また再編計画では、全国の約3600の郵便局で「時間外窓口」が廃止される。急ぎの郵便の窓口引受や、不在郵便・小包を受け取るためには遠くの集配局まで行かなければならない。高齢者や車などの交通手段を持たない人々や離島の生活者はどうなるのか。地方切り捨て、サービスの低下はすでに始まっているのだ。
郵便局はあまねく公平に全国津々浦々で同様のサービスを行ってきた。そのことに職員も少なからず誇りを持っていた。しかし多くの郵便局職員の想いとは裏腹に、民営化で郵便局はバラバラにされ、サービスの質は効率化や収益性と天秤に掛けられる。
島根県議会が発表した郵政民営化反対の意見書では「不採算の地域での事業は撤退を余儀なくされ、過疎化に拍車をかけ、地方の切り捨てにつながってくる」「郵貯等の過疎地における金融システムは崩壊を余儀なくされ、中間報告で求められたユニバーサルサービスの確保は不可能となる」と危機感が吐露されている。
収益性のみが重視されるなら、郵便局のサービスは地域ごとに格差が拡大していくだろう。地域に密着した公共サービスは二度と復活できない。
小泉改革は実は、その目玉である郵政改革においても深刻な地域格差を生み出しているのだ。
(40代 郵便局職員)
