世界に広がる劣化ウラン弾禁止の声 ベルギーEU議会で豊田直巳さんが写真展
被害実態の把握が必要だ
5月14〜15日、ベルギー・ブリュッセルにあるEU議会のロビー・ギャラリーで、フォトジャーナリスト豊田直巳さんの写真展『ウラン兵器の人的被害』が行われた。EU議会の会派「緑派」・「欧州自由同盟」とICBUW(劣化ウラン兵器禁止を求める国際連合)の共催による企画に招かれた豊田さんに話を聞いた。
<EU議会内での写真展>
◆写真展開催までの経緯は
きっかけは昨年8月に行われたICBUW広島大会です。私はゲストスピーカーとして呼ばれ、劣化ウラン弾が原因と考えられるガン・白血病などの患者たちの写真をスライド上映しました。それを見たICBUWのイタリアのメンバーたちの招きで、昨年の10月末から11月にかけてイタリアで写真展と講演旅行を行いました。
今年3月、ベルギーの議会の国防委員会で「劣化ウラン弾禁止法案」が全会一致で可決しました。ICBUW等がベルギー議会に働きかけた結果です。ベルギーでの法案可決をはずみに、劣化ウラン禁止をEU全域に広げようとの動きが一段と高まりました。
これに連動してキャンペーンの一環として私の写真展が開催されることになったようです。今回の写真展はICBUWの呼びかけに、欧州「緑派」・欧州自由連合(The Greens-European Free Aliance)が応え、開催の運びとなりました。
写真展は議会棟内で行われたのですが、9・11以降、セキュリティが強化されたため一般の人は立ち入りできない状態でした。本当は一般の人にも見て欲しかったのですが、788人の議員と、その秘書、議会事務局職員など約5000人を対象としているとのことでした。EU議会に働きかけるロビー活動が目的だったのです。
開催中は多くの人が見学していきました。見た人は一様にショックを受けたようです。劣化ウラン問題を言葉としては知ってはいるものの、被害と思われるものの実態を見るのは初めての人が多かったようです。
今回の写真展を見たEU議会議員から、自分の選挙区でも開催したいとの申し出がありました。今後、ロンドン、ローマなどでも開催される可能性があります。地元ベルギーやフランスのテレビ局も写真展の取材に来ており、ベルギーでは即日放映されたようです。
ICBUWは今年10月にニューヨークで大会を開きます。国連レベルにまで問題を高めていこうと考えており、劣化ウラン弾禁止に向けての弾みがついたのは、私としてもうれしい限りです。
<劣化ウラン弾と予防原則>
◆順調に運動は広がっているようです
私は、劣化ウラン兵器禁止の国内法や国際条約がすぐにできるとは考えていません。ただ、水面下での動きはどんどん広がっています。今回の写真展ではシンポジウムも行われ「軍人協会ヨーロッパ機構」の代表も参加しました。市民運動だけではない、大きな動きが生まれています。
しかし劣化ウラン弾の危険性はまだまだ認識されていません。ICBUWは法律、科学、医者の専門家グループと活動家が中心となって構成されており、専門家たちが劣化ウラン弾の被曝の危険性をデータとして立証しようとしています。
本来ならば、劣化ウラン弾を作る側、使う側が、その危険性がないと証明しなければならないはずです。日本がイラクに自衛隊を派遣する際、当時の川口外務大臣も石破防衛庁長官も一切データを出さず「劣化ウラン弾は危険ではない」と言いました。戦争をする側はいつも何も説明をしないのです。ここで重要になるのは「予防原則」の視点です。
先日、WHO(世界保健機関)は超低周波電磁波と小児白血病との関連が「否定できない」として各国に「予防原則」に基づく法整備を呼びかけました。予防原則とは、因果関係が明確に証明されなくても、危険だと考えられるものを規制する考え方です。この考えはベルギーの「劣化ウラン弾禁止法案」でも取り入れられています。
水俣病などの公害事件でも、当初は、「因果関係が証明されない」との理由で多くの被害者が放置されてきました。因果関係の証明を被害者に求めるのは間違っています。安全だと主張する側が、安全性を証明しなければいけないはずです。その意味で劣化ウラン禁止を訴えるには、予防原則の視点を広げることが有効なのです。
イラクでは現在も劣化ウラン弾が「兵器」として使用されているのに対し、ヨーロッパや日本では「兵器」という面が見えにくいと感じました。日本に住んでいて、自分のところに劣化ウラン弾を撃ち込まれると思っている人はいないはずです。核兵器への恐怖を持っている人は多くても、劣化ウラン弾については「なんだ。イラクの話でしょ」と他人事のようになってしまう。
その意味でヨーロッパと日本は似ています。どちらも劣化ウラン弾を作ったり、使ったりする側であって、使われる側ではない。劣化ウラン弾の問題に関心のない人達にその危険性を伝えるには、「予防原則」のような広がりを持った言葉で語りかけていく必要があると思います。
<被害を把握できない旧ユーゴ>
◆セルビアの劣化ウラン弾回収現場も訪問されました
私は99年4月、NATOのユーゴ空爆時にマケドニアとアルバニア側からコソボとの境界間近まで行きました。今回訪れた回収現場は、そのときに行ったマケドニアとコソボと、その本国のセルビア共和国との境付近にあります(2000年のユーゴスラビア連邦軍撤退後、コソボは国連の暫定統治機構=UNMIKの管理下に置かれた。現在、セルビア政府の実効支配は及んでいない)。私が訪れた作業現場での回収は6月末までには終える予定だと聞きました。
しかし注意して欲しいのは、回収作業はあくまで劣化ウラン弾を使用したNATO軍が提供した作戦地図に基づいて行われていることです。NATO軍が全ての情報を提供しているかどうかは、セルビア側は分かりません。たとえ他の地域に埋まっていたとしても、調べようがないわけです。提供されている情報に基づいた場所での回収作業が終了するだけなのです。
セルビア共和国はミロシェビッチ時代に作られたイメージから「悪い国」だと印象づけられてきました。そのためセルビアに対して劣化ウラン弾が使用されたことは、これまで日本ではあまり問題にならずにきました。この点は強調しても良いと思います。
そしてコソボ自治州での劣化ウラン弾除去作業に関しては、現場のセルビア人達も、セルビアの核研究所も全く知りませんでした。本来ならばセルビア共和国の自治州ですから、セルビア政府の環境省が調査にあたるべきところのはずです。しかしコソボ自治州はUNMIK(国連コソボ暫定行政ミッション)の管理下にあり、セルビア人は恐がって入れません。かと言ってNATOが回収を行っているのか、どうかもセルビア側は、全く分からない状態です(コソボではNATO指揮下の国際安全保障部隊が治安維持に当たっている)。
コソボ独立派の武装闘争派にとってNATO軍は友軍です。NATO軍が使った劣化ウラン弾が、自分達を苦しめるとは考えたくないはずです。ですからきちんとした調査も本当に行われたのかどうかも疑問が湧きます。
旧ユーゴで劣化ウラン弾の被害を把握する際の障害は「民族差別」だと思いました。
今回訪れたセルビアの回収現場は台地の上にあり、ふもとの村にはアルバニア系住民が住んでいます。そこに住むアルバニア人に対して、セルビア人たちは拭いがたい差別感情を持っているのを感じました。〈俺達セルビア人がアルバニア人のために劣化ウラン弾を回収してやっている〉という感覚です。
ですから、セルビアの核研究所も環境省も「村人には劣化ウランの被害者はいない」と言っていることを、はたして鵜呑みにしていいのかどうかと思いました。しかし被害者が本当にいないのかを確認するには、マケドニア共和国でアルバニア語を話せる通訳を雇って、村を取材するしかないと思いました。通訳がセルビア人だった場合、アルバニア人の被害者が本当のことを言わない可能性もあるからです。
セルビア人はNATO軍に空爆されたことで被害者意識を持っており、その空爆の原因を作ったのは独立運動をはじめたアルバニア人だと思っています。ボスニアの戦争が終わって十年経ってもまだ「民族間」の憎しみが残っている。ユーゴの戦争の深み、恐ろしさを感じました。こうした「民族差別」の構造がある中では、劣化ウラン弾の被害者も正確に把握できません。
今後の課題は、取材を通じてネットワークを作り、被害の状況を明らかにしていくことだと考えています。
