非破壊検査の現場は手一杯だ
                          斉木勝

 ゴールデンウィーク最中の5月5日、大阪府吹田市のエキスポランドでジェットコースターが脱線する事故が発生した。

 私はこのニュースを聞いて、2ヶ月前に行った非破壊検査を思い出した。それは、都内官公庁の建物に設置されたエスカレーター駆動軸の探傷検査だった。4基のエスカレーターが設置されていたが、その内1基の駆動軸が破損したのである。

 幸い破損した際に怪我人は出なかったそうだが、他の3基を検査したところ、全てに割れが検出された。エスカレータを設置した際の施工ミスにより、溶接部が疲労破断したのだ。

 私は超音波探傷と浸透探傷を行ったが、浸透探傷の際に割れが検出された。報告書を提出したから、既に割れの検出された駆動軸は交換されたと思う。

 問題は、4基すべてに割れが生じていたにも関わらず、これまでの定期検査で見つけられなかったことだ。

<昇降機検査資格は時代遅れ>

 エキスポランドの事故だけでなく、安全で当たり前だと考えられてきたエレベーターなどの機器で、最近事故が多発している。

 私は、これらの機器はどのような法律に基づき、誰が検査しているのか調べてみた。その結果、エスカレーター、エレベーター、ジェットコースターの安全確保は同じ法律に基づいて行われていることが分かった。

 建築基準法第12条第3項及び同施行規則第4条の20では、定期的に昇降機(エレベーター、エスカレーター等)及び遊戯施設(ジェットコースター、観覧車等)の安全確保検査を行い、結果を特定行政庁へ報告することを義務付けている。

 この定期検査は、「昇降機検査資格者」が行う。しかしこの資格は、4日間(合計22時間半)の講習を受け、直後の修了考査に合格すれば取得できる。しかも受講科目の中に、非破壊検査に関する項目は見あたらない。

 例えば昇降機の検査基準を具体的に示したJIS A4302には、探傷検査の項目はない。遊戯施設の検査基準であるJIS A1701では、年1回探傷検査(MT、UT、PT)を行うと規定している。しかし「昇降機検査資格者」は探傷検査のノウハウを受講していないから、検査は不可能なはずだ。

 私の専門である非破壊検査は、JISで規定されている。7部門毎に3段階の資格が設けられ、学科試験と実技試験が課せられる。さらに10年毎の更新試験もあるかなり厳しい資格だ。

 そこから考えても、様々な昇降機や遊戯施設の検査を、たった4日間講習を受講しただけで行うこと自体に無理があると思う。具体的な探傷検査の方法や基準は実に広範で、とても4日間で身につけられるほど簡単ではない。

 私は、東京ディズニーランドの改修工事に携わった経験がある。昇降機検査資格が設定された当時は、遊戯施設の構造は単純で、昇降機検査と同一にしても差し支えないと判断したのだろう。しかし、現在の遊戯施設はたいへん複雑な構造になっている。エキスポランドのジェットコースターなどは、電車より安全性の確保は難しいのではないかと感じるぐらいだ。

 時代遅れとなった昇降機検査資格の見直しが求められている。

<欠陥予防のトータルな安全管理を>

 姉歯建築士による耐震偽装事件により、建築業界では建築士法が改正された。姉歯事件で損なわれた信頼を取り戻すため、建築士試験の受験資格を厳しくしたのである。

 既に建築士の資格を持っている人も、新たな知識や技能を習得するため定期的な受講が義務づけられた。これまで構造計算や設備設計の分野には特別な資格がなかったが、新たに「構造設計一級建築士」「設備設計一級建築士」などの専門資格が設けられた。5年以上の実務経験があり、特別の講習を受けた人が認定される。

 今後昇降機検査資格も、より専門的な資格制度へ変わっていくべきだと思うが、しかしその一方で、対処療法的な資格制度改正だけでは不十分だとも感じる。検査の厳格化だけでなく、建設・施工の段階でのミスを出来る限り無くすことが必要なのだ。

 現在私は、石油タンクのメンテナンス工事を行っている。直径97m、高さ23mの円筒形タンクの、底板溶接部の検査を管理している。主な検査は、2㎞にも上る溶接線に10㎝ピッチで磁場を加え、わずかな漏洩磁場を検出する作業(MT検査)だ。万一欠陥があれば溶接して補修する。

 メンテナンス終了後、石油タンクを管轄する消防署の立会いの下、抜き取り検査が行われる。その際、4㎜以上の欠陥が1箇所でも発見されると、検査のやり直しを命じられる。再度、気の遠くなるような作業をしなければならない。

 あるタンクの検査では、許容内の4㎜以下の欠陥が見つかった。許容内だからと言って許されるわけではなく、消防署は検査をさらに厳格にするように命令した。

 検査を厳格にすればするほど良いと考える人も多いだろう。しかし作業に費やせる人と時間には限度がある。今以上に検査を厳格にするためには、検査技術者を増やすしかない。非破壊検査技術者は02年から06年の間に14%増え、現在6万8000人いるが、それでも需要に供給が追いつかないのが実状なのだ。

 ではどうすれば良いのか? 私は、検査を厳格化し欠陥を見逃さないことを悪無限に追求する前に、そもそも建設・施工段階のミスを出来る限り少なくすることが重要だと思う。冒頭に述べたエスカレーター駆動軸の破損も、設置段階の施工ミスが原因だった。

 私が行っている非破壊検査と補修は「対処療法」だが、原因を取り除くことにより欠陥の発生そのものを減らす「原因療法」が、今後ますます問われてくるはずだ。きちんとした施工管理により欠陥発生を予防したほうが、より効率的に安全性を確保できる。

 いずれにしても、技術が複雑化し高度化した現代において、様々な機器の安全性を確保するためには、広い視野と倫理観が必要だ。

 メーカーから現場作業員まで含め、安全倫理を実践できる体制作り、それを支える各技術の蓄積・発展が求められる。それを肝に銘じて、私も日々の検査に取り組んでいきたい。
             
                 (40代 非破壊検査技師)

(1246号 2007年6月25日発行)