トヨタ「かんばん方式」のもろさが露呈した

             三根 巽

 新潟県中越沖地震が発生した3日後の7月19日、関西にある私の職場にも影響が現れた。

 私が務める会社は、自動車部品の下請けメーカーだ。地震の影響で各自動車メーカーは部品調達ができなくなり、工場を停止した。再開までの期間、各メーカー合わせて12万台もの生産減少となり、私の会社もその余波を受けたのだ。

自動車産業を直撃したリケンショック

 なぜこれほどまでに自動車業界全体が影響を受けたのか。それは自動車部品を製造する株式会社リケン(以下リケン)が被災したことが原因だ。

 リケンの工場は中越沖地震で被害が大きかった柏崎市にある。7月16日は休日だったが一部倉庫が損壊、機械設備は位置ズレがおきたり、転倒した。在庫品も転倒し品質を保証できない状態だった。従業員も地震で被災し、復旧の目処は立たなかった。

 リケンは、エンジン用ピストンリングでは50パーセント以上、変速機用シールリングに至っては70パーセント以上の国内シェアを誇っている。

 さらに国内の自動車メーカーだけでなく海外メーカーとも取引きしている。フォード、BMW、VW/Audi、VOLVOといった一流メーカーだ。リケンが高度な技術により高品質の製品を圧倒的な生産力で供給していたことがわかる。

 だからこそ各メーカー共にリケンから製品を調達していたのだろうが、今回の地震ではそれが災いとなった。リケン一社が被災したことで、一気にリケンショックが拡大したからである。

 素人考えでは機械設備が少しずれてもすぐに復旧できると思いがちだが、精密部品になればなるほどコンマ何ミリの品質が要求される。少しの座標のずれでも、元に戻すためには一台ごとにものすごい手間暇が必要となる。

 しかも日本の各自動車メーカーは、かんばん方式を採用している。今や世界の自動車トップメーカーに登りつめようとしているトヨタが先陣を切って導入した生産方式だ。ジャスト・イン・タイム、つまり「必要な物を、必要な時に、必要なだけ適切に生産する方式」で、製品にカンバンをつけて生産管理しているのが名前の由来だ。

 かんばん方式を徹底化するために、生産現場では「ムリ・ムラ・ムダ」を無くすことを徹底的に求められる。この考えに基づけば在庫を置くスペースはムダであり、未注文の在庫はいつ売れるかわからないからムダと判断される。

 今や自動車産業ではかんばん方式が主流だ。勿論優れた点もあるのだが、今回のような不測の事態には非常に脆い。リケンショックで国内12の自動車メーカーが一斉に生産停止となったことを見ても明らかだろう。

しわ寄せは下請けに押し付けられる

 私の会社は大手自動車メーカーの下請けだが、どんなに小さな会社でもかんばん方式に従わなければいけない。

 私の会社でも部品の発注を待って納品するので、トラックに製品を載せて自動車メーカーの工場近くにある運送会社にいったん納入する。そして時間ごとの発注に合わせて、運送会社に工場へ納品してもらうのである。

 しかし今回のように自動車メーカーの工場自体が止まると、工場側は必要以上の在庫を持たないためトラックは納品できなくなる。運送会社も必要以上の在庫を持たないため、トラックに次回納入品を積んだまま待機状態になる。

 こうなると下請け会社は生産しても在庫がたまる一方だ。在庫を置いておくスペースなどほとんどないから、最悪の場合生産停止になる可能性もある。幸い私の会社は労働時間短縮ですんだが、生産停止2日目に運送会社の運転手に話を聞いてみた。

 「いやー大変ですわ。工場は止まっていても伝票は出てるから持っていかんわけにもいかんからなー」とぼやいていた。メディアでは報道されていないが、大手だけではなく下請け系列も大混乱していたのである。

 リケンショックに震撼した各自動車会社は、総勢650人の技術者をリケンに派遣して復旧を応援した。その結果、7月19日に停止した各自動車メーカーの工場は、25日には生産を再開した。これはこれですごいことではあるが、今回の地震で自動車業界の脆さが露呈したことは否めない。一昔前は「親亀こけたらみなこけた」と言われていたが、リケンショックで「小亀がこけたら親亀もみなこける」ことが実証されてしまったのだ。

 阪神淡路大震災の際には4万台の生産遅れだったが、今回は最終的に12万6千台となる見込みだ。自動車業界は、こうした生産の遅れは休日や残業で取り戻すという。結局は労働者への負担でカバーする腹積もりなのだ。

 今回の事態を教訓化する動きもない。7月25日付毎日新聞によれば、今後の対応について「各社は『変える考えはない』(ホンダ)、『以前からリスク管理と効率性のバランスを検討してきたが、今まで通り継続する』(日産自動車)と言い切り、根本的に見直す気配はない」らしい。

 しかし、かんばん方式は下請けにも負担が大きい。表向きは在庫は持たないと言いながら、実際は大手には内緒で2日分ほどの在庫を持っている会社もある。万一予定通り納入できずに自動車メーカーのラインを止めれば、莫大な罰金を払わされるからだ。

 結局、リスクを労働者と下請けに押し付けているのが日本経済の内実なのかと感じてしまう。

                         (30代 工場労働者)

(1249号 2007年8月10日発行)