核の汚染を次世代に残さない

 2003年9月、「STOP!劣化ウラン弾キャンペーン」のメンバーは、劣化ウラン弾による住民の健康被害を調査するために旧ユーゴスラビアを訪れた。

 向かったのは、セルビア共和国の首都ベオグラードから南に350キロ、マケドニアとコソボの境近くにある山村ボロバッツ。村はずれの台地では、作業員が緑の防護服とガスマスクに身を固め、放射線測定器で土中の劣化ウラン弾を探索していた。

劣化ウラン弾回収現場

 かつての旧ユーゴ紛争では、NATO軍が大量の劣化ウラン弾を使用した。その不発弾が土中に埋まっている。放置された劣化ウランが溶け出せば、地下水の汚染にもつながる。

 「STOP!劣化ウラン弾キャンペーン」代表の今井俊政さんは、回収した劣化ウラン弾の保管倉庫に入った。身につけた線量計は20分間で6マイクロシーベルトを示した。放射線従事者に定められている1日の規制値10マイクロシーベルトをはるかに上回る単位時間放射線量だ。

 今井さんは当時を振り返って語る。「線量計の数値がみるみる上がる中、32ミリ劣化ウラン弾の実物を間近で見たときの緊張感は忘れられない。『劣化ウラン弾に危険性はない』と言い続ける日本の外務省や防衛庁職員の鼻先に突きつけたい思いだった」。

放射線被害を認めない日本政府

 今井さんたちが、劣化ウラン弾廃絶の活動を始めたのは、イラク戦争直前の2003年2月。すでにイラクでは91年の湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾によって、ガンや白血病患者が爆発的に増えていた。

 「イラクで再び戦争が起これば、多量の劣化ウラン弾が使われる。戦争後も人を殺し続ける劣化ウラン弾の使用をなんとしても止めさせねばならない」

 今井さんたちは反戦運動や反原発、環境問題に取り組むグループに声をかけ、行動を開始した。

 最初にアメリカ大使館、イギリス大使館などへ劣化ウラン弾の使用禁止を求める要請を行った。しかし米英の諸機関は戦時を理由に門戸を閉ざし取り合おうとはしなかった。

 日本政府に対しては、社民党国会議員福島みずほさんらの協力で03年2月17日に外務省(のちに防衛庁も参加)との話し合いの場をもった。劣化ウラン弾問題を巡るNGOと関係省庁の交渉はイラク戦争開戦後も継続され、今年5月8日にも交渉が行われている。

 しかし日本政府は一貫して「劣化ウラン弾とガン・白血病などとの因果関係は明らかになっておらず、国際機関などの研究を注視している」と主張している。イラクに派遣された自衛官の被曝調査にも取り組んでいない。

 放射能とガン・白血病の因果関係の証明は、専門的なうえに時間がかかる。広島・長崎の原爆症認定を巡っても、いまだに訴訟が続いているのだ。

 しかし因果関係を立証している間にも劣化ウラン弾による被曝者は増え続けていく。

 「自分たちが動くことで、研究者、政府諸機関を動かしたい。何よりもメディアや本からの情報だけでなく、自分たちの目で起きている現実を見てみたい」

 今井さんたちのそんな想いが、旧ユーゴスラビアでの調査活動につながった。当初はイラク入りを考えていたが、日本人を狙った人質事件が相次いだため調査を断念した。

 渡航にあたってはユーゴ研究者の岩田昌征さんや、映画監督の鎌仲ひとみさんからサゼッションを受けた。滞在の為の取材費は大竹財団から援助してもらい、フォトジャーナリストの森住卓さんと現地で合流して調査を行った。

防護服に身を固める

DU弾廃絶に向け世界が動き始めた

 日本政府の対応が鈍い一方で、2006年8月には広島でICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)の世界大会が開催された。劣化ウラン弾廃絶に向けた国際会議が日本で開かれたのは初めてのことだ。

 世界各地から研究者、ジャーナリスト、市民団体が集まった。「STOP!劣化ウラン弾キャンペーン」もユーゴでの劣化ウラン弾被害調査の報告を行った。調査に参加した横沢典子さんはスライドを上映しながら「次の世代の子どもたちのためにもDU(劣化ウラン)弾をなくしていきたい」と語った。

 会議では、地雷廃絶運動でイニシアチブをとったベルギーをホスト国にすることが決まった。以来、事態は大きく進む。

 昨年11月ベルギー上院議会外交防衛委員会は、画期的な決議を採択した。ベルギーの国連安全保障理事会入りにあたって「白麟弾、劣化ウラン弾を含む兵器の使用を止めるため、特定通常兵器禁止条約(ジュネーブ条約)の焼夷弾に関わる議定書Ⅲの適用範囲を拡大すること」を求めたのだ。

 さらに今年3月22日には、ベルギー議会本会議において「劣化ウラン弾禁止法案」が賛成117票の全会一致で可決された。

 法案は、通常兵器の範疇に入れられている劣化ウラン弾、および劣化ウランを用いた装甲の、ベルギー領内における製造・貯蔵・売買・入手・供給・移送を禁止している。中でも注目されるのは、劣化ウラン弾の危険性について「予防原則に基づき」禁止するとした点だ。「劣化ウランとガン・白血病の因果関係が科学的に立証されていない」とする国際社会に、大きな一石を投じることとなった。

 だが、法律の発効までには乗り越えなければならない課題がある。ベルギー政府が法案の発効条件を、国際世論や各国の取り組みを2年間見定めるとしたからだ。

 ベルギーを切り口に劣化ウラン弾廃絶のうねりを作りだすには、ここ1〜2年が正念場となる。

 ICBUWでは国連総会にあわせ10月ニューヨークでの世界大会を計画している。今井さんたちもこうした国際的なキャンペーン活動の一翼を担い、日本国内から連動した動きを作り出したいと考えている。

 最近日本では、原爆症認定訴訟で画期的な判決が相次いで出た。大阪地裁・広島地裁・名古屋地裁の判決では、旧来の政府見解を批判し、残留放射能や内部被曝を問題にするよう指摘している。

 「司法の場からおきているこうした変化を、政治の場へと反映させていくことができれば、展望は開けるのではないか」

 今井さんは、ヒロシマ・ナガサキをもう一度捉え直す必要があると考えている。戦後60年を経ても日本で続く放射能被曝問題を直視したいからだ。

 放射能は世代を越えて影響する。負の遺産を次世代に残してはいけない。今井さんたちは今年も8月にツアーを組んで、多くの若者たちとヒロシマの地を訪れる予定だ。

STOP!劣化ウラン弾キャンペーン
http://stop-du.jp/

(1245号 2007年6月10日発行)