20年後には石炭産出もピークとなる
「成長の限界」が迫っている
本紙では2005年以来、ピークオイル(石油減耗)に伴うエネルギー問題について取り上げてきた。今年3月、ドイツの〈The Energy Watch Group〉は論文〈Coal:Resources And Future Production(石炭:資源と将来の産出量)〉を発表した。このグループは、ドイツの国会議員Hans-Josef Fellによって設立され、科学者や専門家が世界のエネルギー供給について研究している。論文では、石炭産出のピークが迫っていると報告された。以下、抄訳を掲載する。
(訳 水沢努)
今後人類が利用できる化石燃料資源について論議する場合、増大する石炭消費をまかなうだけの石炭資源が遠い将来まで存在することが前提とされてきた。
石炭は減少する原油や天然ガスに代わるエネルギーだとされる一方で、石炭への代替は世界の気候変動を破局に導く恐怖のシナリオだと考える人もいる。しかし、こうした論議の前提を疑うことが必要だ。実際のところ、どれだけの量の石炭が存在するのかと。
この論文は統計分析に基づき、世界的な石炭資源と過去および現在の石炭産出に関して包括的な観点を提起する。それにより今後数十年にわたる石炭生産の見通しを立てることができるだろう。
我々の分析の結果、多くの人々が考えるよりもずっと少ない石炭しか残っていないことが明らかとなった。
信憑性の低い石炭データ
今回の調査でまず明らかとなったことは、国際的にも一国のレベルでも、石炭の確認埋蔵量や推定資源量に関するデータはほとんど信頼できないことである。
我々が行ったデータ分析によれば、従来の統計は世界的なレベルで過大評価されてきた。石炭の確認埋蔵量も推定資源量も、ここ20年で劇的に下方修正されている。
最も衝撃的なのは、確認済みだったはずのドイツの硬質炭埋蔵量だ。2004年に99%も下方修正され、230億トンから1億8300万トンになった。この統計に責任があるはずのドイツ政府は、いかなる説明も発表しなかった。
世界エネルギー会議(The World Energy Council)は『2004年エネルギー資源調査』で次のように指摘した。「これまでのドイツの石炭埋蔵量評価には、膨大な量の推定値が含まれていた。それはもはや勘定に入れることはできない」。
ドイツの褐炭埋蔵量も劇的に下方修正された。これは注目すべき事態だ。ドイツは世界最大の褐炭産出国だからだ。ポーランドも硬質炭埋蔵量を1997年当時の評価に比べ50%に下方修正。褐炭と亜瀝青炭の埋蔵量にいたっては、1997年から二段階でゼロにまで下方修正した。
その一方で、ヴェトナムのように40年間にもわたって埋蔵量の評価が更新されない国々も存在する。中国の最終評価年は1992年だ。
これまでの経験によれば、利用可能な資源に関する統計は当初高めに偏向している場合が多い。それにより、可能な経済成長の上限を高めに設定しようとするのである。
確認埋蔵量は減少している
そもそも埋蔵量とは、存在が証明されていて収益が見込まれる鉱物量のことだ。資源量とは、今後発見される見込みを含めて推定された鉱物量である。
したがって採掘や調査が進めば、資源量の一部は埋蔵量として再分類される。資源量は自然状態の量であり、そのうち最大50%は最終的に収益が見込めるとされる。しかし、実際に資源量を埋蔵量に再分類したのは過去20年間でたったの2度、インドとオーストラリアだけだ。
インドは硬質炭埋蔵量を、1987年の126億トンから2005年に900億トンへと上方修正した。同じくオーストラリアは、1987年の290億トンから2005年に386億トンへと上方修正した。
しかしこの時期、他のすべての国々は硬質炭埋蔵量を総計35%下方修正している。差し引きでは世界全体で15%下方修正されたことになる。
世界的な資源量評価では、さらに厳しい結果となっている。世界の石炭資源量は連続的に減少し、1980年から2005年にかけ50%の下方修正がなされた。
石炭価格の上昇にもかかわらず、資源量は過去20年以上にわたり一度も埋蔵量に再分類されていない。
最大の消費国中国とアメリカ
世界の石炭埋蔵量の85%は、6カ国に集中している。
埋蔵量の多い順に、アメリカ、ロシア、インド、中国、オーストラリア、南アフリカだ。アメリカだけで世界の30%を占め、世界第2位の産出国だ。
世界第1位の産出国中国は、アメリカよりもはるかに多く産出しているが、埋蔵量はアメリカの半分しかない。この2カ国の石炭生産の見通しは、世界全体の石炭産出を左右する。
世界最大の消費国は中国だ。毎年埋蔵量の1・9%が消費されている。
アメリカでは1990年に、アパラチア盆地やイリノイ盆地から掘り出される良質な石炭の産出ピークを過ぎてしまった。ワイオミングの亜瀝青炭の産出量は、「量」だけで見ればそれらの減少を補って余りある。しかしながら亜瀝青炭のカロリーは低いため、エネルギー総量はすでに5年前にピークを迎えている。
この傾向が逆転する可能性があるのかは不明だ。炭鉱労働者1人あたりの生産性は、2000年から低下傾向にある。
予想より早くピークを迎える
発表されているデータでは、将来見込まれる産出量は常に上限に設定されている。我々は、この上限のデータに基づいて産出量の分析を行った。
図表は、国ごとの詳細な分析に基づき、石油換算で過去から将来にわたる石炭産出量を分析したものだ。世界の石炭産出量は今後10〜15年増加し続け、約30%増えるだろう。これは主にオーストラリア、中国、旧ソ連(ロシア、ウクライナ、カザフスタン)、南アフリカの産出増による。
我々の分析では、産出量はそこでピークに達し、以降は減少に転じると考えられる。2020年までは石炭産出量が増大するこの分析は、国際エネルギー機関(IEA)の〝World Energy Outlook〟(2006年版)の2つのシナリオと一致している。
だがIEAの2つのシナリオ、〝IEA alternative policy scenario〟と〝IEA reference scenario〟では、2020年以降の成長予測が異なっている。前者は温暖化対策のため石炭産出量は抑制されると見ており、後者は石炭産出量と消費量は少なくとも2030年までは増大し続けると見ている。
結論と提言
将来見込まれる石炭産出量の上限値を採用し、温暖化対策などの規制を考慮しなくても、世界の石炭産出量は2025〜2030年頃、現在の30%増でピークを迎える。
このテーマに関してもっと広範な議論がなされるべきだ。信頼でき、透明性のある基礎データを基にして、長期的展望に立った将来のエネルギーシステムを考えるべきだ。
石炭消費に伴う地球温暖化への影響も、重要な問題として検討されねばならない。
