書評『核に蝕まれる地球』(森住卓写真集 岩波書店)
核エネルギーへの「信仰」が無数のヒバクシャを生み出す
「私はこの取材を始めるに当たって、二〇世紀最大の負の遺産は核兵器開発だと考えた。人類が次の世紀―二一世紀を真の意味で人類の平和を切り開く世紀とするためには、この負の遺産をしっかりと見据えた上でなければ、本当の意味での未来は切り開かれない」
著者は世界10カ国を取材し、核による負の遺産を撮り続けた。この写真集には、旧ソ連セミパラチンスク核実験場(カザフスタン共和国)、ビキニ水爆被爆者(マーシャル諸島共和国・ロンゲラップ島民、アメリカ・風下地区(ネバダ核実験場・ハンフォード核工場)、インド・ウラン鉱山の村(ジャドゴダ)、イラク(劣化ウラン弾被害)などが収められている。
放射能被害に苦しむ人々
セミパラチンスクには、放射線の影響で顔が変形してしまった男の子がいた。家畜も汚染された草を食べ、六本足の仔牛が生まれている。核実験場周辺の村では、奇形の牛や羊が生まれることは珍しいことではない。
インドのウラン鉱山の村ジャドゴダに住む、生まれつき胸骨や背骨が曲がった女の子。村の医師によれば、村の約400人の子どものうち、先天異常は12例もある。
敬虔なヒンドゥー教徒の村人は、異常に多い病気や奇形児の発生を「神の仕業」と信じ込んできた。放射能の危険性に関する知識もなく、核廃棄物投棄ダムから流れ出す水で炊事や洗濯をし、家畜にも飲ませている。
イラクでは、無脳症の赤ちゃんが生まれた。湾岸戦争以後、急激に白血病やガン、奇形児が増え、重症の先天性奇形児の割合は3%に上る。経済制裁の影響で薬が不足し、病気が治らないまま退院し、たくさんの子どもが亡くなっている。
バグダッドのマンスール小児教育病院には、ガン専門病棟がある。同じ病室の友達が亡くなり、次は自分かもしれないと落ち込む少女。その悲しげな表情が胸をうつ。
大国の核開発競争のなかで、生活を破壊され、生命を脅かされている人々は大勢いる。人間だけでなく、家畜や自然環境もまた核汚染の犠牲となっている。
ヒバクは世界に広がっている
世界ではこれまで、およそ2050回の核実験が行われたとされる。
朝日新聞によれば、60年代の大気中の放射性セシウムの量は、現在の1000倍に上っていたことを示すデータもあるらしい。
大気圏内核実験は1963年に禁止された。しかし、過去の核実験によって地球はすっかり放射能で覆われてしまった。通常の環境中に存在する放射能(バックグランド)には、過去の核実験によってうっすらと汚染されたものも含まれている。
さらに民事、軍事を問わず、世界中の核関連施設は今なお放射能を出し続け、周辺に暮らす人々を被曝させている。「核に蝕まれる地球」とは、哀しいかな、言い得て妙なのだ。
多くの国は今なお、巨大なエネルギーを持った〝核の威力〟を信仰している。北朝鮮やイランを核保有に向かわせているのも同様の信仰だ。
アメリカのブッシュ政権は、小型核兵器の開発に乗り出した。ヒロシマ・ナガサキに続いて、核兵器が再び実戦で使用される危険性も高まっている。
劣化ウランに汚染されるイラク
アメリカがイラク戦争で大量に使用している劣化ウラン弾は、核兵器だとは考えられていない。
しかし、劣化ウラン弾は戦車などの装甲を貫く際に摩擦熱で炎上し、熱く細かい放射能のチリ(ホット・パーチクル)となって環境中に放出される。
この放射能は長い時間をかけて、大量のヒバクシャを生み出していく。現にイラクでは、多くの子どもたちが犠牲となっている。
本書に収められているイラクの子どもたちの写真は、イラク戦争以前のものだ。イラク戦争前からイラクでは、湾岸戦争時に使用された劣化ウランにより、様々な障害を持った子どもが生まれていた。
それに加えて、イラク戦争でも大量の劣化ウラン弾が使用された。著者は、「これからイラクの人びとの上に起こる悲劇を考えると、背筋が寒くなる」と語っている。
「臭いもなく、味もなく、被曝しても痛くも痒くもなく、直ぐに発病するでもない、五感で感じることのできない被曝。しかも被曝による病気はガンや白血病など、通常の病気だ。現代科学は個々の被害を放射線の被曝によるものと断定できない。」
「しかし、はっきり言えることは、その地域にはガンや、白血病、先天的異常など放射線の影響と思われる病気の人びとが異常に多い、その人びとは被曝していること。現地の医師が放射能の影響だと言っていることだ。」
低線量の放射能が大量にばら撒かれ、放射線障害に苦しむヒバクシャがどんどん増えていく。私たちは今、そんな時代に生きている。
本書を開き、「核に蝕まれる地球」の現実を直視して欲しい。
(小淵俊)
