製造者責任を曖昧にする日本

 本年2月、彩の国資源循環工場内にあるガス化溶融プラントの排水舛から、基準値を34倍も上回る鉛が流出した。監督官庁である埼玉県や当事者のオリックス資源循環(株)は、鉛流出の責任を曖昧にしたままこの問題を収拾させようとしている。

 私は「グリーンアクションさいたま」の水質調査プロジェクトに参加し、循環工場から出る排水の水質調査に取り組んできた。今回の問題については責任の所在を明確化させ、県やオリックスに再発防止策を要求していくつもりだ。

 ただ、ガス化溶融炉はあらゆる物をガス化して焼却する施設だ。一度ガス化した鉛などの重金属を完全に回収するのは、技術的にはかなり難しい。なにしろオリックスのような大企業でさえできなかったのだ。

 かと言って炉で燃やす前に、プリント基板にはんだ付けされている鉛をすべて取り除くなどの対応をするのも現実的ではない。結局、鉛などの有害金属を含まない製品を普及させるのが一番現実的だろう。

◆有害物質規制が進む海外

 すでに世界は鉛フリー化に向けて動き出している。

 EUでは2006年7月から、RoHS(Restricting the use Of Hazardous Substances)の適用が開始された。RoHSとは、特定有害物質の電気電子機器、電子機器設備への使用規制だ。

 これによりEU圏内で発売される製品は、特定有害物質が全て使用禁止となっている。また、自動車に対してはELV指令(廃自動車指令)が行われている。(表を参照)

 中国、韓国、豪州、アルゼンチンなどでもRoHSに似た規制の法令化が進んでいる。韓国版RoHSは、2008年1月に施行される予定だ。

 中国版RoHS「電子情報製品生産汚染防止管理弁法」は、2007年3月1日から施行された。これは2段階で進む。

 第1段階は、有害6物質含有の表示の義務化だ。これにより中国で発売する電子情報機器には、6物質の含有の有無を示すマークを印字しなければならなくなった。含有している場合は、何年経過すると有害物質が外に漏れる可能性があるのかを表示しなくてはならない。

 第2段階では、有害物質の含有規制が始まる。重点管理の対象となる製品リストが制定され、このリストに載った製品は有害6物質を必ず閾(しきい)値以下に抑えないと中国国内では販売できない。

 中国版RoHSの特徴は、電子情報製品が対象であり、電子機器設備、白物家電や軍需製品は対象外となっていることだ。その意味で、電気電子機器、電子機器設備や自動車まで規制の対象としているEUと比較すれば、まだまだ不十分だ。

◆遅れている日本の規制

 日本では2006年7月1日より、J―Moos(資源有効利用促進法の省令改正)が施行された。日本版RoHSと呼ばれているが、実際はRoHSと根本的に違うコンセプトだ。

 J―Moosでは、有害物質が基準値を超えて含有されている場合、含有マーク(Rマーク・オレンジ色)の表示が義務付けられるだけで、有害物質そのものが規制されるわけではない。

 有害物質が基準値以内の製品は、非含有マーク(グリーンマーク・緑色)を任意表示できるが、消費者が商品を選ぶ際の情報提示に留まっている。消費者が環境に良いものを選ぶことで、有害物質を含まない製品が増えていくことに期待しているのだろうが、裏返せば製造側の責任を曖昧にしているのである。

 世界的な鉛フリー化の流れの中で、日本のメーカーも輸出向け製品はRoHS対応品にしなければならない。それに引きずられて国内向け製品もRoHS対応品になっていくのを待つしかないのだろうか。

 品質保証の国際基準であるISO―9000も、欧州(特にイギリス)を起点に世界中に広まったが、日本はいつも後手後手に回っている。

 今回も多くの日本企業が有害物質規制に対応できるようになってはじめて、日本国内の法的規制が開始されるに違いない。

 現状のJ―Moosでは、到底鉛フリー化は実現できない。彩の国資源循環工場が再び鉛流出事故を起こさないように、当面は市民による厳しい監視が必要だ。

               (戸坂零一 30代 派遣社員)

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ローマを滅ぼしたのは鉛!?

 鉛は人体に有害だ。腹痛・嘔吐・感覚異常など様々な中毒症状を起こすほか、造血組織に影響し、ヘモグロビン合成を阻害し貧血などの症状を引きおこす。

 腎臓障害や発ガン性、不妊、遺伝毒性なども報告されている。また中枢神経系や末梢神経系に影響し、精神面の発達にも影響を与える。特に乳幼児・胎児は鉛への感受性が高いので被害は大きい。

 1993年、アメリカ小児科アカデミーは、鉛と子どもの精神能力低下との関連データを調べ直し、鉛レベルと知能指数の低下が「並はずれて一貫している」と指摘。「多くの研究では血中鉛レベル10μg/dL増加する毎に、子どもの知能指数が4〜7ポイントずつ低下する」と警告した。

 最近の研究では、鉛は知的能力を減少させるだけではなく、聴覚障害や手―目共同運動機能低下、注意力障害、暴力傾向を生じさせることも報告されている。つまり子供たちの「キレる」原因とも考えられるのだ。

 「ローマ帝国の滅亡を早めたのは鉛だ」とする説もある。この説によれば、上・下水道の管や葡萄酒の壺などに使われた鉛によって貴族たちが神経障害や不妊などに見舞われたことがローマ滅亡の原因らしい。

 特に貴族が好んで飲んでいたワインが鉛の摂取を加速した。当時のワインは現代のように味が洗練されていなかった。ところが鉛の杯で飲むと甘さが引き立ち豊かな味になったらしい。ワインに含まれた酒石酸が鉛を溶かし甘くするからだ。

 そのためより多くの鉛を溶かすために、鉛の鍋でワインを煮込み、その後冷やして飲んだ記録もある。事実、古代ローマ人の骨からは、異常に高濃度の鉛が検出される。

(1244号 2007年5月25日発行)