タバコは「百害あって一利なし」

 私は3年前から地質調査会社で働いている。当初職場では、従業員の半数以上が喫煙者で、社長自ら1日1箱以上吸うヘビースモーカーだった。

 他の会社で働く友人の話でも、社長が喫煙者の場合、社員の喫煙率も高いようだ。私の職場でも、社長がスパスパ吸っているのを見て、社員も心置きなくタバコを楽しんでいた。なかには咳込みながら吸い続けている人もいた。咳の原因がタバコだと分かっているのにお構いなしだ。

 私はタバコが嫌いで、職場の副流煙は悩みの種だった。ヘビースモーカーの同僚と会話すると、コーヒーとタバコの臭いが混じった口臭に気持ち悪くなった。

 ただ事務所では、喫煙場所はベランダのみと決められていた。事務所がマンションの一室であるためか、あるいはISOを導入しているためかは定かではないが、事務所内の禁煙環境は整っていた。デスクワークでパソコンに向かう際にタバコの煙に晒されることはなく、それがせめてもの救いだった。

 しかし作業現場では、くわえタバコで仕事をする同僚もいた。ひどい時にはボーリングで掘った孔の中へ吸殻をポイ捨てし、そのまま埋め戻すこともあった。ただし見つかると近隣住民や客先から苦情が来るので、多くの同僚は携帯灰皿を持ち歩いていた。

 こうしてわが社では、事務所でも現場でもタバコが蔓延していたのだが、2年前の健康診断で社長は医者から禁煙を言い渡された。ほぼ同じ時期に、事務所の喫煙場所であるベランダの上の階の住民から、干している布団にタバコの臭いがついて困ると苦情が寄せられた。

 そのため喫煙場所は、ベランダから台所の換気扇の下に変わったが、それでも苦情が続いたので、喫煙者は灰皿を持ってマンションの外に出て吸うようになった。喫煙者の肩身はだんだん狭くなっていったのである。

 禁煙を命ぜられた社長は、一日に吸う本数は徐々に減ったがすぐには完全に止められなかった。しかし半年後、ようやく完全禁煙に踏み切った。それからしばらくした後、現場でボーリングマシンを動かしている最中、部長が脳梗塞で倒れた。

 ボーリングの機長は喫煙・飲酒を好む人が多いのだが、この部長はヘビースモーカーで大酒飲み、さらに肥満だった。ここ数年間は毎年春になると必ず脳梗塞で倒れて病院に運ばれ、入院中は社長が機長を代わり、一週間以内に退院して元気に機長復帰するパターンが続いていた。さすがに毎年倒れ続けたためタバコは止めざるを得なかったが、その代わり酒の量は増え、出張先では毎晩焼酎の大瓶を空けていたようだ。

 私は去年1か月程出張を共にしたが、旅館で焼酎の大瓶2本空けるのには驚いた。酔った勢いで暴れることはなかったが、夕食後あっという間にぐっすり寝入ってしまうので、このまま逝ってしまわないかと時々心配になった。私だけでなく他の社員も皆、近いうちにまた脳梗塞で倒れて逝ってしまうのではと心配していた。

 不安は的中した。部長は今年もまた脳梗塞で病院に運ばれ、長期入院とリハビリを余儀なくされた。今は退院し、自宅療養に励んでいる。最近流行の頭の体操などをして徐々に回復しつつあるが、ボーリング機長への復帰はもう無理だと思われている。

 社長が医者から禁煙を命じられ、部長は脳梗塞で倒れたとあって、さすがに職場には健康に関する危機感が広がった。

 『吸う人と吸わない人の「たばこ病」』(徳留修身監修・たばこ問題情報センター編 実践社)によれば、常習喫煙者は非喫煙者に比べてて免疫抗体が減り、鼻やのどの免疫力が落ちるため風邪が重症化しやすい。

 ましてや風邪をひいてもタバコを止められない依存症の場合、炎症がいつまでも沈静化しない。こうしたことから、多くの同僚は風邪を機に禁煙を開始したのである。

 禁煙する人が増えれば増えるほど、残る喫煙者は肩身が狭くなる。健康を自慢していた営業部長は最後まで喫煙し続けたが、彼もついに禁煙に踏み切り、職場の灰皿は完全に撤去された。

 最近何年か前に会社を辞めた人が久しぶりにぶりに職場を訪れ、社員が皆タバコを吸わなくなり、灰皿も撤去されたことに驚いていた。私も今では、タバコ臭い口臭に悩まされることなく、毎日気持ち良く働いている。

 労働安全衛生法や健康増進法で受動喫煙の防止が謳われ、快適な職場環境の形成にとって分煙は不可欠との認識が広がっている。東京千代田区では、歩きタバコに罰金が科せられるなど、喫煙者はますます肩身が狭くなる時代なのだ。

 私の職場では早くから分煙が行われていたが、更に社員全員が禁煙に踏み切った意味は大きい。健康にとってタバコは「百害あって一利なし」だ。

 小さな会社では、社長が吸うか吸わないかで職場の喫煙率が大きく変わってしまう。だからこそわが社のように、社長が率先して禁煙に取り組んで欲しい。

             森澤清(30代 測量技師)

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世界禁煙デー
今年のテーマは「タバコの煙のない環境」(SMOKE-FREE ENVIRONMENTS)

 5月31日の世界禁煙デーは、今年で20回目を迎える。WHO(世界保健機関)が掲げる今年のテーマは、「タバコの煙のない環境」。以下、WHOアピールの抄訳を掲載する。

世界禁煙デー


 全世界で第2位の死亡原因はタバコであり、第1位は栄養失調だ。世界中の喫煙者の半数6億5千万人は、喫煙が原因で命を失っている。さらに毎年数十万人の非喫煙者は、受動喫煙が原因で命を奪われている。

〈厳密な研究によって明らかになった事実〉

 喫煙で汚染された空気(SHS)には、250種以上の発ガン物質や有毒物質に汚染された化学物質が数千種類も含まれている。これらは体内に吸い込んだ途端に濃縮され、汚染は体全体に広がり、様々な病気を引き起こす原因となる。

〈完全禁煙以外に解決法はない〉

 換気量を増やしたり空気清浄機を置いても、室内のタバコの煙濃度を許容レベルまで下げることはできず、悪臭や健康被害は避けられない。
 すべての人々の健康を守るために、早急に断固とした決定を行う必要がある。

〈行動しよう!〉

 今年の世界禁煙デーは、受動喫煙から女性・こども・職場の労働者を守る唯一の効果的な対策は「100% SMOKE-FREE ENVIRONMENTS完全禁煙環境」以外にないことを訴えている。

〈タバコ産業が作り出した「ウソ」〉

 タバコ産業は、受動喫煙被害の防止対策が進めば大幅に利潤が減ることを恐れてきた。

 ゆえにタバコ産業は、繰り返し受動喫煙による健康被害や禁煙による経済的影響について誤った情報を伝え、労働者や一般市民を受動喫煙被害から守る効果的な法的措置の実施を遅らせようとしてきた。

 タバコ産業は、「換気を十分に行えば問題ない」とキャンペーンしているが、これは間違っている。換気は膨大なコストを必要とするだけでなく、全く効果はない。

 臭いがしないレベルまで煙の濃度を減らすには、通常の換気の100倍以上の能力が必要であり、健康を守るためにはさらに大きな換気能力が必要となる。換気により受動喫煙問題を解決することは、非現実的で不可能だ。
 
 タバコ産業は、室内喫煙禁止法は喫煙者の権利と選択の自由を侵害すると主張しているが、これも間違っている。

 有毒物質を含まないきれいな空気を呼吸する権利は、喫煙者のいかなる種類の人権にも優越する根本的に重要な権利だ。室内で喫煙すれば他者の健康を危険にさらす以上、室内では一切喫煙をすべきではない。


(1244号 2007年5月25日発行)